◇SH3059◇中国:中国における司法のIT化――新型コロナウイルス期間におけるオンライン訴訟の促進 川合正倫(2020/03/17)

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中国:中国における司法のIT化

――新型コロナウイルス期間におけるオンライン訴訟の促進――

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 川 合 正 倫

 

 中国の最高人民法院(以下「最高裁」という)は新型コロナウイルスの感染予防・抑制期間における訴訟業務について、2020年2月17日付で「新型コロナウイルスの感染予防・抑制期間におけるオンライン訴訟業務の強化と規範化に関する通知」[1](以下「通知」という)を公表し、全国の裁判所における立件、調解、証拠交換、法廷審理、判決の言渡し、書類送付などの手続をオンライン訴訟プラットフォーム(中国移動微法院、訴訟服務網、12368訴訟服務ホットライン等)で全面的に推進することを求めた。

 中国では、新型コロナウイルスの感染予防・抑制期間の前から裁判所訴訟手続のオンライン化(インターネット法院、裁判所のオンライン紛争調解プラットフォーム、訴訟服務ウェブサイト、ウィーチャットの移動微法院、オンライン司法競売、オンライン破産案件債権者会議など)を進めていたところであるが、この促進を図る内容となっている。以下、「通知」の主な内容を紹介する。

 

1 当事者のオンライン訴訟選択権の尊重(「通知」第2条)

 裁判所は、当事者の選択権を尊重して、オンライン訴訟における権利義務及び法的効果を告知しなければならず、当事者からオンライン訴訟への同意を得られない場合はオンライン訴訟を強制的に適用してはならない。

 

2 書類不備の際の一括告知及び地域を跨ぐ立件制度の採用(「通知」第5条)

 当事者が立件書類をオンラインで提出し、書類に不備があると判断された場合は、裁判所はオンライン訴訟プラットフォームを通じて補充書類を一括で告知することが義務付けられている。また、当事者が立件書類をオンライン提出することが困難である場合、近隣の裁判所に提出することができる。これは、最高裁が近年全国範囲で展開している「地域を跨ぐ立件制度」である。最高裁によると、2019年末時点において「地域を跨ぐ立件制度」は全国の中級・基層人民法院において全面的に実施されており、2019年7月の実施から同年12月23日まで、「地域を跨ぐ立件制度」を受けた案件が19,471件に達し、そのうち同一省内の異なる地域を跨ぐ立件が15,810件、省を跨ぐ立件が3,661件ある。

 

3 オンライン紛争多様化調解プラットフォームの活用による紛争の多様化解決方式の整備(「通知」第6条)

 オンライン紛争多様化調解プラットフォームを利用し、司法行政部門、弁護士協会等との連携を強化し、人民調解、行政調解、業界調解、弁護士調解といった多様な解決方式を利用することによりオンラインによる紛争解決を促進する。当事者がオンラインで合意した調解協議書について民事訴訟法に基づく司法確認の申立てがあった場合、法令に合致する場合には、裁判所は調解協議書が有効であることを裁定し、一方当事者が履行しないときは、相手方当事者は強制執行を申し立てることができる。

 

4 オンラインでの訴訟書類及び証拠書類の提出への誘導(「通知」第7条)

 訴訟書類及び証拠資料をオンラインで提出した場合、裁判所の審査を得た上で紙の原本の提出が不要となる。また、当事者は郵送などにより紙の資料を提出することもできる。

 

5 オンライン審理の積極的推進(「通知」第8条)

 民事及び行政事件については、当事者からオンライン審理の同意を得られない場合やオンライン審理に必要な技術が整わない場合などを除き、原則としてオンライン審理を採用することができる。刑事事件については、遠隔ビデオで被告人への尋問及び判決の宣告を行い、減刑・仮釈放等の案件を審理することができ、簡易手続・迅速裁判手続の適用を受ける事件等の一定の刑事事件については遠隔ビデオを採用することもできる。

 

6 裁判所によるオンラインでの書類送付の強化(「通知」第10条)

 裁判所は送付先の同意を得た上で、中国移動微法院、中国審判流程信息公開網、全国統一送達プラットフォーム、ファックス、電子メールなどのオンライン方式により書類を送付することができる。

 

7 インターネット法院のAIによる審理精度の向上及び電子訴訟規則の充実化(「通知」第11条)

 杭州インターネット法院(2017年8月18日設立)、北京インターネット法院(2018年9月9日設立)、広州インターネット法院(2018年9月28日設立)に対しては、AIによる審理精度の向上や電子訴訟規則の充実化に力を入れるよう求めている。最高裁は、杭州、北京、広州のインターネット法院の案件審理手続について、2018年9月3日付で「インターネット法院の案件審理の若干問題に関する」[2](以下「規定」という。)を公表しており、11類型のインターネット関連紛争の訴訟手続をオンラインで進めることを規定している。報道によると、2019年10月31日時点で、杭州、北京、広州のインターネット法院は、80,819件のインターネット関連紛争をオンラインで審理し、オンライン審理の平均時間は約45分、平均審理期間は約38日であり、従来の審理モデルよりそれぞれ約3/5及び1/2を短縮したとされている。

 

 上記のとおり、中国では従前より導入が進んでいたオンライン裁判所訴訟手続を、新型コロナウイルスの感染予防・抑制期間において利用促進を図っており、今後も更なる利便化が図られるものと思われる。

以上

 

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