租税における公平の実現
第3回
首都大学東京法科大学院教授・弁護士
饗 庭 靖 之
第2 配当所得や利子所得と他の所得との課税の公平
1 所得税の意義と配当所得の他の所得との課税の公平
所得税の意義として、「公平負担の要請に最もよく適合すること」(総合的担税力の標識として最もすぐれていること)と「公平負担の要請に最もよく適合すること」(基礎控除等の人的控除および累進税率と、結び付くことにより、担税力に即した公平な税負担の配分を可能にする)ことにあるとされる。
各所得を別々に課税する分類所得税がかつては行われていたが、すべてを合算し、一本の累進税率を適用する総合所得税に代わっている。
ただし、すべての所得を合算する前に、各所得の特性に対応した処理を行ったうえで、合算されている。
ここで、その一つである配当所得について、総合課税で合算される他の所得との対比で、課税における公平性が確保されているかを検討する。
法人税の課税根拠につき、法人の担税力に着目した独自の租税であるという考え方と、配当という形での法人への出資者の所得税を前取りするものとの二つの考え方があり、後者の出資者の所得税を前取りするものとの考え方に従えば、法人の所得に対して法人税を課しつつ、出資者の配当所得に対して所得税を課すことは、二重課税となる。
法人税を所得税の前取りとする考え方への反論として、法人税は消費者に転嫁するので、株主の所得税の前取りにはあたらないという議論がある。しかし、企業間に競争が存在する限り、税額分を消費者への販売価格に全額転嫁すること経済学的にないし、企業が商品の価格を自己の利益を維持するために全面的にコントロールできるという議論は無理があると考えられる。
また、企業は法人成りすることによって、家族の間に所得を分割し、累進性の適用を回避でき、税負担を軽減できるとの議論も、法人税は、法人という事業体に比例課税し、所得税は、個人の活動に対して累進課税するという税制度の違いの間隙を利用することにつき、法人成りという問題があるとしても、法人税を所得税の前取りとする考え方への直接の反論とはならないであろう。
また、法人が利益をあげることによって、株式価値は増加するが、キャピタルゲインに対する課税は、譲渡の時点まで繰り延べられるとの反論もされるが、譲渡益課税は配当所得に対する課税と関係ないので、法人税を所得税の前取りとする考え方への直接の批判とはならないであろう。
金子教授は「法人税の相当部分は株主の負担となっているが、その程度は法人ごとに異なると考えるのが、実態に合致しているものと思われる。」とする[1]。
2 法人税と配当所得の課税の調整
各国とも、法人税と配当所得についての所得税の間の調整をしており、わが国においても行われており、法人税と所得税の統合の方式として次のものがありうる。
- ① 組合方式(法人を組合とみなして、所得を株主の持ち株数に応じて按分し、株主の所得として課税する)
- 法人の株主は有限責任であるが、組合の組合員は無限責任である。したがって、組合の事業は、組合員らに帰属するものと解することができるが、法人の事業は株主に帰属するものとみることができないので、法人を組合と同視して、所得を株主の持ち株数に応じて按分し、株主の所得として課税するのは適切でないのではないかとの問題がある。
- ② 法人税株主帰属方式(受取配当と配当に対応する法人税を個人の所得に加算し、それに所得税率を乗じて得た額から、法人税額を控除して、配当に対応する法人税分の二重課税を防ぐ。)
- 有限責任制度の法人の取得した財産と個人が取得した財産を同一視しているが、法人の事業は株主に帰属するものとみることができないので、法人を組合と同視して、所得を株主の持ち株数に応じて按分し、株主の所得として課税するのは適切でないのではないかとの問題がある。
- ③ 支払配当を法人の損金として、法人税の対象としない方式
- 株式会社制度が、株主から出資を募り、事業成果として法人利益を株主に配分するという制度であることからは、支払配当を法人の損金とすることは、法人利益を株主に配分するという株主への配当の趣旨に反するのではないかとの問題がある。
- ④ 二重税率方式(配当に充てた法人所得部分につき、低税率の法人税率を適用する)
- 配当に充てた法人所得部分につき、低税率の法人税率を適用することは、③と同様の批判があてはまり、株主への配当の趣旨に反するのではないかと問題がある。
- ⑤ 配当所得控除方式(受取配当を所得から控除)
- 配当所得の高額所得者が負担が免れるなど適当とは言い難い。
- ⑥ 配当所得税額控除方式(受取配当の一部を所得から控除)
- 日本はこの方式に属するが、受取配当につき所得税を比例税率で分離課税するのは、個人の他の所得との間での租税上の公平な取扱いなのか検討する必要がある。
[1] 金子宏『租税法〔第22版〕』(弘文堂、2017)309頁