◇SH2118◇債権法改正後の民法の未来56 約款・不当条項規制(4) 山本健司(2018/10/02)

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債権法改正後の民法の未来 56
約款・不当条項規制(4)

清和法律事務所

弁護士 山 本 健 司

 

Ⅲ 議論の経過

2 議論の概要

(3) 第2ステージ

ア 約款について

 第2ステージで、「約款」問題は、主として第50回会議(H24.6.26)において、部会資料42に基づき、①改正法に約款に関する民事ルール規定を定めることの是非、②「約款の定義」を「(多数の契約に用いるために)あらかじめ定式化された契約条項の総体」という広いものとすることの是非、③「組入要件」を当事者の合意(組入合意)に加えて、相手方が契約締結時までに約款の内容を認識する機会があることが必要であると規定することの是非、④「不意打ち条項」の採否、⑤「約款変更」の採否並びに採用する場合における変更条項の要否、実体要件及び手続要件の内容をどう考えるかといった論点設定のもと、議論がなされた。[1]

【 部会資料42 】

  1. 第2 約款(定義及び組入要件)
  2.  1 約款の組入要件に関する規定の要否
     約款(その意義については、後記2参照)を契約内容とするための要件(以下「組入要件」という。)に関する規定を民法に設けるものとしてはどうか。
  3.  2 約款の定義
     約款の組入要件に関する規定を設ける場合には、その適用の対象となる約款の定義として、「(多数の契約に用いるために)あらかじめ定式化された契約条項の総体」という趣旨の規定を設けるものとしてはどうか。
  4.  3 約款の組入要件の内容
  5.  ⑴ 約款の組入要件の一つとして、契約の当事者がその約款を契約内容にする旨の合意(黙示の合意を含む。)をすることが必要である旨の規定を設けるものとしてはどうか。
  6.  ⑵ 約款の組入要件の一つとして、約款使用者の相手方が契約締結時までに約款の内容を認識する機会があることが必要である旨の規定を設けるものとしてはどうか。
     約款の内容を認識する機会をどの程度保障するかについては、例えば、相手方が約款の内容を知りたいと考えた場合に、合理的な行動を取れば約款の内容を知ることができる機会が保障されていなければならないという考え方があり得るが、どのように考えるか。
  7.  ⑶ 約款使用者の相手方が約款に含まれていると合理的に予測できない条項が契約内容になるかどうかについては、次のような考え方があり得るが、どのように考えるか。
  8.  【甲案】 上記⑴及び⑵の要件を充たす場合であっても、契約の外形、約款使用者の説明その他の当該契約を締結する際の具体的事情を踏まえ、約款に含まれていると相手方が合理的に予期することができない条項は、契約の内容にならない旨の規定を設けるものとする。[また、このルールは、約款使用者の相手方が事業者であるときは、適用しない旨の規定を設けるものとする。]
  9.  【乙案】 規定を設けないものとする。
  10.  4 約款の変更
  11.  ⑴ 約款を使用した契約が継続している期間中に、約款使用者が相手方の個別の同意なくして約款を変更することができるか、どのような要件の下で変更することができるかについては、次のような考え方があり得るが、どのように考えるか。
  12.  【甲案】 約款使用者は相手方の同意を得ないで約款を変更することができる旨を定めた約款中の条項の効力について、規定を設けるものとする。
  13.  【乙案】 約款の変更に関する条項が約款中に定められているかどうかを問わず、約款を変更することができる旨の規定を設け、その要件を定めるものとする。
  14.  【丙案】 規定を設けないものとする。
  15.  ⑵ 上記⑴において甲案又は乙案を採る場合には、約款使用者が約款を使用する要件として、約款を変更する必要性のほか、①使用者が約款を変更することができる範囲にどのような限界があるか、②使用者が約款を変更するに当たって必要な手続があるか、③約款の変更に異議がある相手方を保護するための措置が必要かなどが問題になるが、これらの点についてどのように考えるか。

 第50回会議の議論では、①約款に関する民事ルールを改正法に定めることに多くの賛成意見が述べられる一方で、経済界から悪影響を憂慮して反対する意見も述べられた。②「約款の定義」については、「多数の契約に用いるために」という要件の要否に関する意見、交渉によって内容変更が予定されている事業者間契約のひな形や労働契約の就業規則を含めることに反対する意見などが述べられた。③「組入要件」については、部会資料の提案内容に賛成する意見が述べられる一方で、約款内容の認識機会の付与という要件が実務の負担を重くすることは困る、「合理的な行動」は広く認められないと困るといった意見が述べられた。④「不意打ち条項」については、賛成意見が述べられる一方で、消極意見や、目の不自由な方や外国人から後で日本語が読めなかった等と言われて拘束力が否定されるのは困る、通常一般人から見て予期想像ができないものという規定内容にする必要がある等といった意見が述べられた。⑤「約款変更」については、実務的に必要である、実務では「(1)多数の契約があって個別の同意を取るのが困難であること、(2)変更の目的・必要性が合理的であること、(3)変更の内容が目的に照らして必要最低限ないし合理的範囲に限られていること、(4)変更内容がネットや店頭で開示されて知る機会が与えられており、かつ、変更の実施までに周知期間が置かれること」といった要件のもとで相手方が新しい取引に入れば相手方の同意を擬制しているといった意見や、契約後に契約内容を相手方の同意のもとに変更するという原則的な対応が困難な場合に限定した規定内容にすべきである、価格など中心的な部分で勝手に変更するといったことは一般理論としてはありえない等といった意見が述べられた。

イ 不当条項規制について

 第2ステージで、「不当条項規制」問題は、主として第50回会議(H24.6.26)及び第51回会議(H24.7.3)において、部会資料42に基づき、①約款条項に関する不当条項規制の採否、②不当条項規制の対象から個別交渉条項ないし個別合意条項、中心条項を除外する規定の採否、③「公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、約款使用者の相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、信義則に反して相手方の利益を一方的に害するものを不当な条項とする」という一般条項の採否(不当性判断を個々の相手方との関係で個別に判断するか、多数の相手方に対して一律に適用されることを前提に画一的に判断するかという問題、不当性の判断に当たってどのような要素を考慮するかという問題は、この時点で明文化の議論対象から落とされた)、④不当条項規制の効力は無効とし、全部無効か一部無効かは解釈に委ねることの是非、⑤不当条項リストを設けることの是非といった論点設定のもと、議論がなされた。[2][3]

【 部会資料42 】

  1. 第3 不当条項規制
  2.  1 不当条項規制の規定の要否、適用対象等
     不当な内容の契約条項の効力を規制するためのルールを明確化する規定を設けるかどうかについては、次のような考え方があり得るが、どのように考えるか。
  3.  【甲案】 約款が使用された契約を対象に、不当な内容の契約条項の効力を規制するための規定(その具体的な内容は後記2以下参照)を設けるものとする。
  4.  【乙案】 規定を設けないものとする。
  5.  2 不当条項規制の対象から除外すべき契約条項
  6.  ⑴ 仮に、約款が使用された契約を不当条項規制の対象とするという考え方を採る場合には、約款に含まれている契約条項であっても個別に交渉されたもの[個別に合意されたもの]は不当条項規制の対象としない旨の規定を設けるものとしてはどうか。
     約款使用者の相手方が事業者である場合には、現に個別交渉が行われなくても、その可能性があれば不当条項規制の対象としない旨の規定を設けるという考え方があり得るが、どのように考えるか。
  7.  ⑵ 仮に不当条項規制に関する規定を設ける場合に、契約の中心部分に関する条項を不当条項規制の対象とするかどうかについては、次のような考え方があり得るが、どのように考えるか。
  8.  【甲案】 不当条項規制の対象をどのように規律するかにかかわらず、契約の中心部分に関する条項[対価に関する条項]は不当条項規制の対象としない旨の規定を設けるものとする。その例外として、消費者契約においては、中心部分に関する条項[対価に関する条項]も不当条項規制の対象とする旨の規定を設けるものとする。
  9.  【乙案】 規定を設けないものとする。
  10.  3 不当性の判断枠組み
     仮に、約款が使用された契約を対象とする不当条項規制に関する規定を設ける場合には、公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、約款使用者の相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、信義則に反して相手方の利益を一方的に害するものを不当な条項とする旨の規定を設けるという考え方があり得るが、どのように考えるか。
  11.  4 不当条項の効力
  12.  ⑴ ある条項が不当と評価された場合には、その条項は無効とするものとしてはどうか。
  13.  ⑵ ある条項が無効とされた場合に、当該条項の全部が無効となるか、その条項が不当であると評価される限度で無効となるに過ぎないかについては、特段の規定を設けないものとしてはどうか。
  14.  5 不当条項のリストを設けることの当否
     民法に不当条項に関する規定を設けるものとする場合に、不当な条項を無効とする旨の一般的な規定のほか、不当なものと評価される(可能性がある)条項を具体的に列挙する規定(不当条項リスト)を設けるという考え方があり得るが、どのように考えるか。

 第50回会議及び第51回会議の議論では、①「約款条項に関する不当条項規制の要否」について、約款内容の合理性の担保の観点から必要であるという意見が多く述べられる一方で、合理性の確保は不意打ち条項規制や信義則で足りるという意見も述べられた。

 また、②「個別交渉条項ないし個別合意条項」の取り扱いについて、約款条項のような包括的合意に基づく契約条項ではない個別に合意された契約条項の内容規制は通常どおり公序良俗によれば足りる等といった意見が述べられる一方、個別交渉や個別合意の存在が形式的に判断されてはならない、個別交渉された部分とそうでない部分を事後的に立証することは困難である等といった意見も述べられた。

 さらに、「中心条項」の取り扱いについて、契約の中心部分は市場メカニズムに委ねるべきである、不当性を判断する基準が無い等といった意見が述べられる一方、対価に関する契約条項でも相手方が自覚を持って決めたとは言えない条項も存在する、中心条項でも透明性を欠く場合には効力が否定される余地がある、携帯電話の約款条項など中心条項と付随条項の区別は明確にはできない等といった意見も述べられた。

 加えて、③不当条項規制の一般条項について、前段要件に関しては、消費者契約法10条に関する最高裁判例等を踏まえて比較の対象を明文の任意規定に限定すべきではない、法文も「当該条項がない場合と比べて」といった文言にすべきである等といった意見が述べられた。後段要件に関しては、部会資料の提案内容に賛成する意見、仮に信義則を基準とするとしても、その理解については消費者契約法10条と同義ではなく、外国法で「健全な商慣習から著しく逸脱する場合」「信義誠実及び公正な取引から著しく逸脱する場合」が基準とされていることを参考にすべきである等といった意見が述べられた。

 さらに、④不当条項規制の効力については、全部無効を支持する見解、一部無効を支持する見解、一部無効と判示している裁判例もあることを踏まえると一部無効とする余地を残しておいた方が良いのではないか等といった意見が述べられた。

 加えて、⑤不当条項リストについては、予見可能性・法的安定性という観点から不当条項リストを規定することに賛成するといった積極意見も述べられる一方で、不当条項リストによって特定の契約条項が他の契約条項や契約の種類や交渉経緯等を総合的に考慮せずに硬直的に無効とされるならば弊害が大きい、外国における不当条項リストの多くは消費者契約における不当条項に関するものである、新しい契約類型や事業活動を阻害する可能性がある等といった消極意見も述べられた。

 


[1] 第50回会議の配付資料・議事録(http://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900140.html

[2] 第50回会議の配付資料・議事録(http://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900140.html

[3] 第51回会議の配付資料・議事録(http://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900141.html

 

 

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