◇SH1095◇韓国のソウル回生法院の設立に関して 林 治龍(2017/04/04)

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韓国のソウル回生法院の設立に関して

金・張法律事務所

弁護士 林   治 龍

 

1.回生法院の設立経緯

 ソウル回生法院が、2017年3月2日に開院した。これをもって大法院、高等法院、地方法院の3つの一般裁判所以外に家庭法院(46名の裁判官)、行政法院(46名の裁判官)、特許法院 (高等法院級 17名の裁判官)、回生法院(35名の裁判官)の4つの専門裁判所が設置されたことになり、専門裁判所の設置は、1998年の特許法院、行政法院の開院以来、19年振りである。回生法院を独立した裁判所として設置するために、2016年に法院組織法が改正され、予算と人的組織を回生法院長が管掌することになった。回生法院の設立に関連した債務者回生及び破産に関する法律(「債務者回生法」)の改正はない。

 2016年に改正された債務者回生法では、債務額が500億ウォン以上、債権者の数が300人以上である法人に対する回生または破産事件に対しても、既にソウル中央地方法院に管轄権を重複して認めており、回生法院の新設前から、事実上全国の大規模回生及び破産事件はソウル中央地方法院破産部が管轄権利を有していた。また国際破産事件については、債務者回生法の下でもソウル中央地方法院の専属管轄とされていたので、これをソウル回生法院が担当することになったことを除き従来から変更はない。

 法院組織法上、回生法院[1]は他の地方法院にも設立できるとされているが、現在のところソウルのみにソウル回生法院として設立され、他の地方では設立されていない。

 

2.ソウル回生法院の前身であるソウル中央地方法院破産部

 回生法院の歴史は、ソウル地方法院の首席部である民事第50部に始まる。民事50部の部長判事は、高等法院部長判事が首席部長として勤務する際に、一般仮処分事件以外に会社整理事件(日本の会社更生事件と同じ)と和議事件を担当した。1997年末からアジア金融危機が韓国に到来する直前の年である1996年に、全国の倒産受件件数は、会社整理事件52件、和議事件9件、営業者破産事件9件、個人破産事件2件の合計72件であった。特に、1990年から1995年までは個人破産申請事件は全くなかった。ところが、1998年には、会社整理事件が143件、和議事件が727件、営業者破産事件が102件、個人破産事件が359件の合計1,331件の倒産申請事件が集中的に申し立てられた。

 その結果、金融危機当時、会社整理法、和議法、破産法の専属管轄規定が一致せず、そのため手続の迅速性と専門性に欠けるという問題が発生した。すなわち、当時の法律によると、会社整理事件だけソウル地方法院の本院管轄であり、破産事件と和議事件はソウル地方法院の各支院管轄であった。すなわち、倒産事件のうち会社整理事件は民事50部が担当して、破産及び和議事件はソウル地方法院の各支院などが管轄した。会社整理手続が廃止され、牽連破産宣告をすることになれば、ソウル中央地方法院からソウル中央地方法院の支院に事件が移送されなければならず、支院の裁判部は破産手続や和議手続に慣れていないため、迅速な企業退出手続の足かせとなったのである。

 このような問題に対処するため、まず最初の段階では、1998年に破産事件及び和議事件の管轄権を地方法院の本院合議部に専属させるよう破産法と和議法を改正することによって、ソウル市に居住したり所在する営業者の破産、法人破産、消費者破産及び和議事件全部をソウル地方法院の管轄に集中させた。そして次の段階で、このように急増した倒産事件を速かに専門的に担当するため、1999年3月にソウル中央地方法院の民事首席部から破産部を分離して裁判部を補強した。当時の破産部は、首席部長判事(高等法院部長判事)1人、地方法院部長判事1人、陪席判事4人の計6人の裁判官で構成されていたが、その後、全国的に倒産事件が増加していくにつれて、全国の地方法院に破産部が専門裁判部として拡大して設置されるに至った。

 

3.債務者回生法の改正と倒産事件の増加

 2006年4月1日に施行された債務者回生法は、過去の倒産3法(会社整理法、和議法、破産法)を統合したものである。債務者回生法は、第1編総則、第2編回生手続、第3編破産手続、第4編個人回生手続、第5編国際破産で構成されている。第2編回生手続は日本の会社更生手続と類似しているが、株式会社以外にもすべての法人及び個人に関して回生手続を申請できることとされた。また、担保権者も手続に服して担保権の行使に制限を受けるという点で、日本の民事再生事件とは異なり、むしろ米国の第11章手続(いわゆるチャプターイレブン手続)に類似する手続となった。第4編は米国の第13章手続(定期的収入のある個人債務者の再生手続)と類似している。

 和議法は廃止され、過去の和議法の失敗を教訓にして、別除権者に対する権利行使を許容する日本の民事再生手続は韓国の実情に合わないと判断され、導入されなかった。

 また、法人に対する回生手続の開始後は、既存の経営陣に重大な経営責任が認められない限り、原則として既存の経営主が管理人(日本の管財人と同一)となることができることとし、また既存の経営主を管理人とみなす既存経営者管理人制度を債務者回生法第74条に規定することなどによって、財政的に危険に陥った企業の経営陣が早期に回生手続の申請をするよう、誘導策がとられた。「主な債権者の同意」は、既存の経営者管理人選任の要件から除外されている。債権者委員会の要請がある場合として、相当な理由がある場合には、第三者を管理人として選任できるように規定されているが、ソウル中央地方法院破産部の実務上、相当な理由は簡単には認められない。2006年から2013年のソウル中央地方法院破産部に受け付けられた法人回生事件の統計を分析すると、計1,260件が申請され、開始決定873件がなされたが、そのうち第三者管理人が66件、共同管理人が28件、既存の経営者を管理人が338件、みなし管理人が441件であった。すなわち、第三者管理人が選任された事件は7.5%に過ぎない一方、既存の経営者が単独で管理人として選任されたりみなされた事件が89%に及んだ。

 倒産事件が引き続き増加するにつれ、ソウル中央地方法院の破産部の構成員は増員された。2017年に回生法院が設立される直前、ソウル中央地方法院の破産部は1人の首席部長判事、3人の地方法院部長判事、25人の判事の計29人で構成されていた。しかし、回生法院は29人の判事と4人の部長判事、1人の高等法院部長判事、法院長1人の計35人の裁判官で構成され、ソウル中央法院破産部時代に比べて判事が6人増加した。

 かつてソウル中央地方法院の破産部は、ソウル中央地方法院の民事部、刑事部のように一つの裁判部に過ぎなかったので、事件が減ると廃部となる可能性もあったが、回生法院を廃止するためには、法院組織法を改正しなければならないため、容易に廃部されることはなくなった。回生法院が引き続き存続するためには、今後適正な数の倒産事件が維持されなければならない。参考までに、2016年に全国の法人回生事件は935件、個人などの回生事件は755件で計1690件が受け付けられ、法人破産事件は692件、個人破産事件は50,288件、定期的な収入がある個人のための個人回生事件が90,400件受け付けられた。

 

4.回生法院の新設による変化と課題

 回生法院の新設によって倒産事件の管轄範囲が拡大した。

 債務者回生法で規定された回生法院(回生事件が係属している地方裁判所)または破産法院(破産事件が係属している地方裁判所)が管轄していた事件は、いずれも新設された回生法院が管轄することになった。過去、ソウル中央地方法院の民事部が担当した。破産債権または回生債権調査確定裁判、それに対する異議の訴え、及び否認権に基づく訴えはソウル中央地方法院破産部が担当し、また、債権者表をめぐる執行文付与の訴え、請求に関する異議の訴え、執行文付与に対する異議の訴えなどは、ソウル中央地方法院の民事部が担当していた。

 しかし、回生法院が設立されてこのような手続はすべて回生法院が担当することになり、これに合わせて回生法院は回生債権調査確定の訴え及び否認の訴えを専担する裁判部を新しく設立した。[2]

 次に、回生法院は事業再生事件の取扱い方について、新たな方向性を模索し始めている。すなわち、これまで国策銀行主導で行われたワークアウトと法定倒産手続である回生手続の長所を合わせた韓国型プレパッケージ制度を活用しようとしている。さらに、回生法院と倒産専門家との定期的な交流を計画し、また回生法院の裁判官は、国際的な水準の倒産実務を運営するために、国際破産法会議に積極的に参加し始めた。

 また、これまで破産部の裁判官の任期は3年程度だったが、今後4年程度に延長する可能性が高い。[3]

 回生法院の設立に対しては、設立前後にわたって社会各層は友好的である。2014年7月に、倒産法研究会などの主催で倒産専門裁判所の導入のためのシンポジウムを通じてその必要性が力説され、新聞社の世論も賛成した。回生法院の設立後、消費者破産事件を担当する実務家は、回生法院が過去の破産部より債務者に友好的な態度を取って家計負債問題の解決に大きな役割を期待する寄稿をした。

 新聞では、大法院長が祝辞を通じて、低成長基調と経済不況が重なっているために経済的に厳しい状況に置かれている個人と企業に対して、回生法院が専門性を備えた迅速かつ適正な法的判断を提供して、国民経済の構成員として再起の機会を付与する後見的、治癒的司法の役割を強化しなければならないと訴えたことが報道された。また、初代の回生法院長は、「現状況で我々が苦心しなければならないことは、企業と個人債務者が迅速に再起できる方法の定着である」とし、「債務者別の特性を十分に反映して制度と手続を運営する」と述べた。そしてそのために、大規模企業の回生手続では債務者も回生計画案を事前に提出できる「韓国型プレパッケージ(Pre-Package)」制度を積極的に活用すると明らかにした。

 また、中小企業の回生のためには、代表者個人の回生事件を企業回生事件と同時に進めて経営者の実質的な再起を支援する方法を考慮している。個人回生や個人破産手続では、債務者が簡単に裁判所の敷居をまたぐことができるように関連機関との連係システムを拡大し、個人回生・破産手続につき統一基準を設けるため、統合研究班も構成する予定である。回生法院庁舎1階には「ニュースタート(New Start)相談センター」を開設して、破産管財人、回生委員、信用回復委員会の職員がボランティアの一環として無料相談をするプログラムを始めた。

 



[1] 新法院は、その名称を破産法院とすることも論議されたが、一般人に破産、倒産等の用語が与える否定的な語感を考慮して韓国語では回生法院と名称を定めた。しかし、英文名称はSeoul Bankruptcy Courtである。回生法院に勤務する裁判官の資格要件は一般裁判官と同一で、回生法院勤務希望者の中から法院行政処が選抜している。

[2] ソウル回生法院の関連部は、回生・破産合議部10個、調査確定合議部4個、民事合議・民事控訴・民事抗告部2個、個人回生・個人破産単独37個の裁判部で構成されていた。

[3] ただし、裁判官一般のソウル勤務希望を考慮すると、回生法院所属の裁判官をソウルに長期勤務とする点に関しては、他の裁判所に勤務する裁判官との衡平が議論となる可能性がある。

 

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