◇SH2130◇債権法改正後の民法の未来60 約款・不当条項規制(8) 山本健司(2018/10/10)

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債権法改正後の民法の未来 60
約款・不当条項規制(8)

清和法律事務所

弁護士 山 本 健 司

 

Ⅲ 議論の経過

2 議論の概要

(5) 第3ステージ

オ 加えて、第96回会議(H26.8.26)において、部会資料83の下記のような論点設定のもとに議論がなされた[1]

 部会資料83では、第1に、①「定義」について、「定型条項」という表記が「定型約款」という表記に変更された。個別条項ではなく条項の総体(契約条項群)に関する規定であることを明確にするためとされた。

 また、「定型約款」の主たる要件が、⑴取引の内容の全部又は一部が画一的であることが当事者双方にとって合理的な取引(=定型取引)であること、⑵契約の内容を補充することを目的として準備された条項の総体であることとされた。そして、要件⑴については、相手方が不特定多数で給付が均一である場合が例示とされ、製品の原材料の供給契約等のような事業間取引は、画一的であることが両当事者にとって合理的とまではいえないから上記の要件を満たさず定型約款に含まれない、ワープロ用のソフトウェアを購入する場合などは事業者間契約であるが上記要件⑴を満たすので定型約款にあたるとされた。また、要件⑵の「契約内容の補充」については、いわゆる「組み入れ」に相当するもので、当該取引においては通常の契約内容を十分に吟味して交渉するのが通常であると言える場合には、一方当事者が用意した交渉のたたき台としての契約書案は「契約の内容を補充する」目的があるとはいえないとされた。さらに、別途に契約内容を十分に認識して合意している基本合意書に基づき個別の売買契約を行っている場合の取引も定型約款による取引とはいえないものと解されるとされた。加えて、定型約款による取引は、交渉が行われず、相手方はそのまま受け入れて契約するか契約しないかの選択肢しかないといった特色を有するが、この点も従前と変更はないとされた。そのうえで、部会資料81Bにおいて但書とされていた「当事者が異なる合意をした条項の扱い」については、解釈によっても当然に導くことができるとして、明文の規定を設けないものと修正された。

 第2に、②「約款の組入要件」「開示義務」について、鉄道事業にかかる旅客運送のような例外的な場合には「表示」ではなく「公表」で足りる旨の(注)を付した点を除けば、従前の提案内容がほぼ維持された。

 第3に、③「不意打ち条項規制」「不当条項規制」については、従前の2つの立法提案内容を一本化して、新たに「⑴の条項には、相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、当該定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして民法第1条第2項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものは、含まないものとする」という規定(以下「みなし合意除外規定」という)を設けるという提案内容に、大きく方針変更がなされた。なお、「定型取引の態様」という考慮要素を挙げている理由は、契約の内容を具体的に認識しなくとも定型約款の個別の条項について合意をしたものとみなされるという定型約款の特殊性に鑑みれば、相手方にとって予測しがたい条項が置かれている場合には、その内容を容易に知り得る措置を講じなければ信義則に反することとなる蓋然性が高いこと、この限度で不意打ち条項規制の機能が維持されることを示すものとされた。一方、不意打ち条項性はその条項自体の当・不当の問題と総合考慮すべき事象であるとされた。

 第4に、④「約款内容の開示義務」について、従前の提案内容を基本的に維持しつつ、組入除外となる要件が「認識することを妨げる目的で不正に応じなかった」場合から、「定型約款準備者が請求を拒絶し、かつ、そのことについて正当な事由のない場合」に改められた。

 第5に、⑤「約款変更」について、従前の提案内容を基本的に維持しつつ、手続要件が詳細な規定内容とされた。また、実体要件の判断に当たっては、相手方に解除権を与えるなどの措置が講じられているか否かといった事情のほか、個別の同意を得ようとすることにどの程度の困難を伴うか(約款の変更による必要性)といった事情も考慮される、改正法施行前に締結した契約についても適用が可能なように経過措置で措置する予定であるとされた。

【部会資料83】

  1. 第28 定型約款
  2.  1 定型約款
     定型約款の定義について、次のような規律を設けるものとする。
     定型約款とは、相手方が不特定多数であって給付の内容が均一である取引その他の取引の内容の全部又は一部が画一的であることが当事者双方にとって合理的な取引(以下「定型取引」という。)において、契約の内容を補充することを目的として当該定型取引の当事者の一方により準備された条項の総体をいう。
  3.  2 定型約款によって契約の内容が補充されるための要件等
     定型約款によって契約の内容が補充されるための要件等について、次のような規律を設けるものとする。
  4.  ⑴ 定型取引の当事者は、定型約款によって契約の内容を補充することを合意した場合のほか、定型約款を準備した者(以下この第28において「定型約款準備者」という。)があらかじめ当該定型約款によって契約の内容が補充される旨を相手方に表示した場合において、定型取引合意(定型取引を行うことの合意をいう。以下同じ。)をしたときは、定型約款の個別の条項についても合意をしたものとみなす。
    (注) 旅客鉄道事業に係る旅客運送の取引その他の一定の取引については、定型約款準備者が当該定型約款によって契約の内容が補充されることをあらかじめ公表していたときも、当事者がその定型約款の個別の条項について合意をしたものとみなす旨の規律を民法とは別途に設けるものとする。【P】
  5.  ⑵ ⑴の条項には、相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、当該定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして民法第1条第2項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものは、含まないものとする。
  6.  3 定型約款の内容の開示義務
     定型約款の内容の開示義務について、次のような規律を設けるものとする。
  7.  ⑴ 定型取引を行い、又は行おうとする定型約款準備者は、定型取引合意の前又は定型取引合意の後相当の期間内に相手方から請求があった場合には、遅滞なく、相当な方法で当該定型約款の内容を示さなければならない。ただし、定型約款準備者が既に相手方に対して定型約款を記載した書面を交付し、又はこれを記録した電磁的記録を提供していたときは、この限りでない。
  8.  ⑵ 定型約款準備者が、定型取引合意の前において、(1)の請求を拒んだときは、2の規定は、適用しない。ただし、一時的な通信障害が発生した場合その他正当な事由がある場合は、この限りでない。
  9.  4 定型約款の変更
     定型約款の変更について、次のような規律を設けるものとする。
  10.  ⑴ 定型約款準備者は、次のいずれかに該当するときは、定型約款の変更をすることにより、変更後の定型約款の条項について合意をしたものとみなし、個別に相手方と合意をすることなく契約の内容を変更することができる。ただし、定型約款にこの4の規定による定型約款の変更をすることができる旨が定められているときに限る。

    1. ア 定型約款の変更が、相手方の一般の利益に適合するとき。
    2. イ 定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、定型約款に変更に関する定めがある場合にはその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき。
  11.  ⑵ 定型約款準備者は、⑴の規定による定型約款の変更をするときは、その効力の発生時期を定め、かつ、定型約款を変更する旨及び変更後の定型約款の内容並びに当該発生時期をインターネットの利用その他の適切な方法により周知しなければならない。
  12.  ⑶ 定型約款準備者は、⑴イの規定による定型約款の変更をするときは、⑵の時期が到来するまでに⑵による周知をしなければ、定型約款の変更は、その効力を生じない。

 第96回会議の議論では、①「定義」について「合理的」といった規範的要件は適用範囲が不明確である等といった意見が述べられた。

 また、③「不意打ち条項規制」「不当条項規制」を1本化した「みなし合意除外規定」について、不意打ち条項規制と不当条項規制は別に規定すべき制度である、消費者契約法10条との適用関係が不明確である、判断基準が不明確である、効果を無効とすべきである等といった意見が述べられた。

カ さらに、第98回会議(H27.1.20)において、部会資料86の下記のような論点設定のもとに議論がなされた[2]

 部会資料86では、まず、①「定義」について、不特定多数の者を相手方として行う取引であるという点を、例示から独立の要件に位置づけが改められた。また、上記の提案によれば、定型約款の定義の該当性は、①ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であるか否か、②取引の内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものか否か、③定型取引において、契約の内容を補充することを目的としてその特定の者により準備された条項の総体であるか否かという3点を判断することになるとされた。そして、事業者間のみで行われる取引において利用される約款や契約書のひな型は、基本的に定型約款の定義には該当しないと考えられるのに対し、預金規定やコンピュータのソフトウェアの利用規約のようなものについては該当するとされた。

 また、②「約款の組入要件」「開示義務」については、従前の提案内容を基本的に維持するとし、鉄道事業にかかる旅客運送のような例外的な場合には「公表」で足りる旨は整備法で対応する予定とされた。

 さらに、③「不意打ち条項規制」「不当条項規制」を一本化した「みなし合意除外規定」について、最高裁判例も、定型約款中の条項に当事者が拘束されるか否かについては、当該条項の内容面における不当性のみに着目するわけでもなく、相手方が当該条項の存在を明確に認識していないことを加味した上で、当該条項の内容の相当性を消極的に評価し、その結果として相手方がこれに拘束されないとの判断が行われているものもある、そのような裁判実務の運用が困難にならないようにする必要がある等として、提案内容を維持するとされた。

 加えて、④「約款変更」について、従前の提案内容を基本的に維持する、旧定型約款に変更条項が定められていない場合は、整備法で変更条項を定めることができる旨を措置するとされた。

【 部会資料86 】

  1. 第28 定型約款
  2.  1 定型約款の定義
     定型約款の定義について、次のような規律を設けるものとする。
     定型約款とは、定型取引(ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものをいう。以下同じ。)において、契約の内容を補充することを目的としてその特定の者により準備された条項の総体をいう。
  3.  2 定型約款による契約の内容の補充
     定型約款による契約の内容の補充について、次のような規律を設けるものとする。
  4.  ⑴ 定型取引を行うことの合意(3において「定型取引合意」という。)をした者は、次に掲げる場合には、定型約款の個別の条項についても合意をしたものとみなす。
  5. ア 定型約款によって契約の内容を補充することの合意をしたとき。
  6. イ 定型約款を準備した者(以下「定型約款準備者」という。)があらかじめその定型約款によって契約の内容が補充される旨を相手方に表示していたとき。
  7.  ⑵ ⑴の条項には、相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、当該定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして民法第1条第2項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものは、含まないものとする。
  8.  3 定型約款の内容の表示
     定型約款の内容の表示について、次のような規律を設けるものとする。
  9.  ⑴ 定型取引を行い、又は行おうとする定型約款準備者は、定型取引合意の前又は定型取引合意の後相当の期間内に相手方から請求があった場合には、遅滞なく、相当な方法で当該定型約款の内容を示さなければならない。ただし、定型約款準備者が既に相手方に対して定型約款を記載した書面を交付し、又はこれを記録した電磁的記録を提供していたときは、この限りでない。
  10.  ⑵ 定型約款準備者が定型取引合意の前において⑴の請求を拒んだときは、2の規定は、適用しない。ただし、一時的な通信障害が発生した場合その他正当な事由がある場合は、この限りでない。
  11.  4 定型約款の変更
     定型約款の変更について、次のような規律を設けるものとする。
  12.  ⑴ 定型約款準備者は、次に掲げる場合には、定型約款の変更をすることにより、変更後の定型約款の条項について合意があったものとみなし、個別に相手方と合意をすることなく契約の内容を変更することができる。ただし、定型約款にこの4の規定による定型約款の変更をすることができる旨が定められているときに限る。

    1. ア 定型約款の変更が、相手方の一般の利益に適合するとき。
    2. イ 定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、定型約款に変更に関する定めがある場合にはその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき。
  13.  ⑵ 定型約款準備者は、⑴の規定による定型約款の変更をするときは、その効力発生時期を定め、かつ、定型約款を変更する旨及び変更後の定型約款の内容並びにその効力発生時期をインターネットの利用その他の適切な方法により周知しなければならない。
  14. ⑶ ⑴イの規定による定型約款の変更は、⑵の効力発生時期が到来するまでに⑵による周知をしなければ、その効力を生じない。

 第98回会議の議論では、①「定義」について、事業者間取引のマニュアルや基準の利用について弾力性が失われては困るといった意見、定型約款の範囲は限定されており、今後は個別合意、従前の約款法理、定型取引に関する定型約款という三層構造になるといった意見、契約内容が画一的である理由が単なる交渉力の格差によるものであるときには相手方にとって合理的なものであるとは言えないから定型約款の定義から外れるとされるが、その場合には直ちに合意内容とはならないことになるのではないかといった意見などが述べられた。

 また、③「みなし合意除外規定」について、不意打ち条項規制と不当条項規制は本来的に別個に規定すべき制度である、それらの規定が無い時点での判例は過渡期の判例である、理論的な違和感は消えない等といった意見が述べられた。

 加えて、④「約款変更」について、変更条項の存在を要件とすべきではない、整備法で変更条項の付加まで措置しなければならないものなのか、今回の立法では厳格な定型約款の定義に当てはまる約款であれば変更がやり易くなるということになるのではないか、価格・料金は契約内容を補充するものなのか、定型約款の定義に入らなければ約款変更の対象ともならないのではないか等といった意見が述べられた。



[1] 第96回会議の配付資料・議事録(http://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900226.html

[2] 第98回会議の配付資料・議事録(http://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900241.html

 

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