実学・企業法務(第77回)
第2章 仕事の仕組みと法律業務
同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー
齋 藤 憲 道
Ⅳ 総務・管財
〔不動産の管理〕
企業の不動産(土地・建物等)の取得・管理・処分に関する事務を担当する。不動産登記は、自ら行なう場合もあるが、外部の司法書士に依頼する企業も多い。
土地を売買する場合は、所有権や抵当権等の権利関係を明らかにして後日紛争が生じないようにする。
土地については、化学物質等で汚染されていないか調査し、規制対象の有害物質が検出された場合は土壌汚染対策法の規定[1]に従って、都道府県知事または政令市長に届け出、封じ込め・拡大防止・汚染の除去・不溶化・土壌入替え等の対策を講じる。
〔登記事務〕
登記の予定日から逆算して登記申請書や添付書類(即ち、証拠書類)の準備を行う作業を通じて、業務スケジュール管理の基礎を習得し、何が証拠書類になるのかを法律に基づいて考える訓練ができるので、登記事務は企業法務担当者の育成に極めて有益なOJTの場になる。
株主総会・取締役会・不動産に関する業務には登記が伴うが、法務局への登記実務は、社内で行う会社と外部の司法書士に依頼する会社に大きく二分される。登記申請書に添付する書類(株主総会議事録、取締役会議事録、売買契約書、委任状等)の作成は、法務と総務が連携して行う例が多い。
(1) 商業登記
株主総会と取締役会の決議の中には、商法及び会社法が営業上の重要事項(会社設立時の登記事項を参照)として登記すべき事項がある。
登記事項には、役員変更のようにほとんど毎回の定時株主総会及びその直後の取締役会で決議後に登記する事項と、商号や本店所在地変更のようにまれに議題になる事項がある。従って、登記担当部門の責任者は、株主総会及び取締役会の議案が確定した段階で、登記事項の有無を確認し、登記の日程と登記事務責任者を決めて、登記を失念することがないようにする。
会社法所定の登記事項に変更が生じたときは、2週間以内に変更登記しなければならず、これを懈怠した取締役・監査役等は、(刑事罰を科されない場合は)100万円以下の過料を課される(会社法915条1項、976条1項1号)。
(2) 不動産登記
土地・建物の所有権・抵当権等の権利関係に変更が生じる(設定、保存、移転、変更、処分の制限、消滅)契約を締結した場合や、建物を建築・増築した場合(表示に関する登記)は、法務局で登記する(不動産登記法)。
日本では不動産登記が第三者に対する対抗要件になる(民法177条)ので、登記を失念してはならない。
[1] 平成21年に土壌汚染対策法を改正。詳細については、土壌汚染対策法施行令(平成21年改正政令)、土壌汚染対策法施行規則(平成22年環境省改正規則)、汚染土壌処理業の許可の申請の手続等に関する省令(平成22年改正処理業省令)等で定める。