無人航空機(ドローン)の目視外飛行と第三者上空飛行に関する法規制と論点(2)
西村あさひ法律事務所
弁護士 掘 越 秀 郎
2. 目視外飛行に関する航空法上の規制
(3) 目視外飛行の承認要件緩和
官民協議会においては、2018年度中に無人地帯での目視外飛行(補助者なし)を実施すること、目視外飛行に係る審査要領の改訂を行うことが目標として掲げられており、2017年9月より「無人航空機の目視外及び第三者上空等での飛行に関する検討会」(以下「検討会」という。)にて目視外飛行の要件緩和の検討が進められた。その検討結果を踏まえて、2018年3月、国土交通省より「無人航空機の目視外飛行に関する要件」が発表され、パブリックコメント手続を経て、2018年9月14日に審査要領が一部改正され(国空航第951号、国空機第619号)、2018年9月18日から施行されている。
この改正により、有人航空機からの視認性に配慮すること、ドローンの状況確認に関する一定の要件を充足すること、地上においてドローンの進路、高度、速度及び周辺の気象情報等を把握できること、操縦者が一定水準以上の訓練を受けていること、安全確保のための必要な体制に関して一定の基準に適合すること等を条件に、補助者なしでの目視外飛行が認められることになった(審査要領5-4)。
飛行経路は、原則として、第三者が存在する可能性が低い場所(山、海水域、河川、湖沼、森林、農用地、ゴルフ場等)に限定されている(審査要領5-4(3)(c)(ア))。これは、現在のドローンの技術レベルでは、補助者の役割を、機上装置や地上装置等で代替しきれないというのがその理由にある。もっとも、飛行経路を設定する上でやむを得ない場合には、道路、鉄道を横断する飛行、家屋の密集している地域以外の家屋上空で離着陸時等の一時的な飛行も許容される余地を残している(審査要領5-4(3)(c)(ア)但書)。これは、無人地帯での目視外飛行の場合でも、道路・鉄道等の上空を回避することが困難な場合もあり、この点に配慮したものと考えられる。飛行高度は、有人機が飛行しない150m未満かつ制限表面未満とされている(審査要領5-4(3)(c)(イ))。
「無人航空機の目視外飛行に関する要件」が発表された2018年3月以降、物流分野での無人地帯における目視外飛行に関する実証実験の計画が複数発表されており[1]、審査要領の改正を契機に、実証実験の実施が本格化すると予想される[2][3]。
(4) 国家戦略特別区域法に基づく目視外飛行のみなし承認(地域限定型サンドボックス制度)
審査要領に基づく承認要件の緩和とは別に、国家戦略特別区域において、実証実験を行うための目視外飛行の承認を容易にするための制度の導入が進められている。いわゆる「地域限定型規制のサンドボックス制度」であり、これを創設するための国家戦略特別区域法の改正案が現在提出されている[4]。この制度は、ドローンの実証に関して、作成された技術実証区域計画(サンドボックス実施計画)について、内閣総理大臣の認定を受けると、特区内において人口集中地区の上空の飛行、夜間飛行、目視外飛行等に関する航空法上のみなし許可・承認を受けることができるものである(同法案25条の5)。また、実証に必要な無線を確保するために、速やかに電波法上の無線局の免許を受けることもできる(同法案25条の6)。
ドローンの飛行に関しては、2016年1月29日に、千葉市が特区の指定を受けており、2016年3月24日以降、千葉市ドローン宅配等分科会の下で、幕張新都心に近接する東京湾臨海部の物流倉庫から、海上や一級河川の上空を飛行し、新都心内の集積所まで荷物を運んだ上、住宅地内のマンション各戸への宅配を行うことを想定したドローンの飛行が検討されている[5]。
この場合に想定されている飛行を実現するためには、改正後の審査要領であっても、その基準からすると許可・承認要件を充足することが困難な場合もあると思われる。このような場合には、技術実証区域計画を作成のうえ、認定を受ければ、みなし許可・承認を取得することにより、実証実験が可能になると思われる。
(つづく)
[1] 例えば、国土交通省と環境庁は、2018年8月に、山間部や離島等における物流の課題を解決することを目的とするドローンによる荷物配送の検証実験を行う地域として、公募の中から、福島県南相馬市、埼玉県秩父市、長野県白馬村、岡山県和気町及び福岡市の5箇所を選定し、いずれにおいても、政府からの一定の補助の下、実証実験が計画されている(2018年8月27日「山間部等でのドローン荷物配送の本格化に向けて」)(http://www.mlit.go.jp/report/press/tokatsu01_hh_000400.html)(最終閲覧2018年10月11日)。
[2] 検討会の物流分科会は、2018年9月18日に、民間事業者が、審査要領の改正により許容されることとなった目視外補助なし飛行により荷物配送を行う場合に自主的に遵守すべきルールを定めた「無人航空機による荷物配送を行う際の自主ガイドライン」を発表している(https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2018/10/001254372.pdf)(最終閲覧2018年10月11日)。
[3] なお、農業分野においては、人手不足・担い手の高齢化を背景に、農薬散布や、農作物のモニタリング等のためのドローン利活用のニーズが高いこと、ドローンを低空で飛行させることが多く、農地への第三者の立ち入りも限られ、想定される事故被害も小さいことから、目視外飛行等に関するより柔軟な基準の採否に関する検討が、「農業分野における小型無人航空機の利活用拡大に向けた検討会」において進められている。詳細について、2018年10月3日付の規制改革推進会議農林ワーキンググループにおける農林水産省の説明資料(https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2018/10/181003nourin02.pdf)(最終閲覧2018年10月11日)を参照。
[4] 2018年10月3日現在、衆議院で閉会中審査の状況である(http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/kaiji196.htm)(最終閲覧2018年10月11日)。
[5] 千葉市ドローン宅配等分科会のホームページ(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/tokyoken/chibashi.html)(最終閲覧2018年10月11日))を参照。