◇SH2143◇無人航空機(ドローン)の目視外飛行と第三者上空飛行に関する法規制と論点(1) 掘越秀郎(2018/10/16)

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無人航空機(ドローン)の目視外飛行と第三者上空飛行に関する法規制と論点(1)

西村あさひ法律事務所

弁護士 掘 越 秀 郎

 

1. はじめに

 無人航空機(ドローン)は、機体の性能・安全性の進歩に伴い、物流、災害対応、警備、インフラ維持管理、農林業等の多分野に亘り、商業利用のための検討・実用化が進展しており、ドローン関連分野に参入する企業の数も増加している。政府は、ドローンの産業への利活用を後押ししており、小型無人機に係る環境整備に向けた官民協議会(以下「官民協議会」という。)が発表した2018年6月15日付「空の産業革命に向けたロードマップ2018」(以下「ロードマップ」という。)では、2018年から2020年代前半までの期間における、ドローンの利活用・環境整備・技術開発等に関して、フェイズ毎の具体的な目標が設定され、この目標に沿って政府による各種施策が実施されている[1]

 物流の分野に関して、過疎化が進んでいる地域(離島・山間部)へのドローンによる荷物の配送が、過疎化や人手不足の対策として期待されているが、これを実現するためには、目視範囲内での飛行のみでは足りず、目視外飛行の実現が必要である。更に、飛行が市街地エリアに及ぶ場合には第三者上空飛行を要する。すなわち、ドローンの商業利用を本格化させるためには、現在法規制上制限されている目視外飛行、ひいては第三者上空飛行を可能にしていくことが必要であり、そのための、各種技術開発及び環境整備を要することになる[2]。ロードマップにもこの点が織り込まれており、2018年度中に無人地帯での目視外飛行(レベル3)の実現が目標とされている。その具体策として、2018年9月14日に、航空法上の許可・承認基準を定める「無人航空機の飛行に関する許可・承認の審査要領」(以下「審査要領」という。)が一部改正され、目視外飛行の要件が緩和された[3]。この要件緩和は、ドローンの商業利用の本格化に向けて、実務上、ターニングポイントともいえ、重要な意義を有するものである。

 本稿では、ドローンの物流分野での利活用の例を念頭に、審査要領の改正内容、及びドローンの目視外飛行と第三者上空飛行に関する法規制について論じることを目的とするものである。なお、本稿中の意見は筆者個人のものであり、筆者が属する法律事務所の意見ではないことを付言しておく。

 

2. 目視外飛行に関する航空法上の規制

(1) ドローンの飛行に関する航空法上の規制~飛行空域・飛行方法の制限

 航空法上、ドローンの飛行に関して、(1) 飛行空域の規制と (2) 飛行方法の規制が存在する[4]

 (1) の飛行空域に関しては、①空港等の周辺(進入表面等)の上空の空域、②150m以上の高さの空域、及び③人口集中地区の上空の飛行は、原則として禁止され、これらの空域で飛行するためには、所定事項を記入した許可申請書を提出のうえ、国土交通大臣から許可を得ることを要する(航空法132条、航空法施行規則236条乃至236条の3)。

 (2) の飛行方法に関しては、①夜間飛行、②目視外飛行[5]、③ドローンと地上又は水上の人又は物件との間の距離が30m未満となる飛行、④多数の者が集合する催しが行われている場所の上空の飛行、⑤危険物の輸送を伴う飛行、及び⑥物件投下を伴う飛行は、原則として制限され、これらの飛行を行うためには、所定事項を記入した承認申請書を提出のうえ、国土交通大臣から承認を得ることを要する(航空法132条の2、航空法施行規則236条の4乃至236条の6)。

(2) 目視外飛行が承認されるための要件

 国土交通大臣が上記(1)及び(2)の許可・承認を行ううえでの審査基準は、審査要領に具体的に定められている。

 いずれの許可・承認事由に関しても、基本的な基準に適合する必要がある。具体的には、①機体の機能及び性能に関する事項(審査要領4-1)、②ドローンの飛行経歴並びにドローンを飛行させる者の必要な知識及び能力(同4-2)、③安全を確保するために必要な体制(同4-3)に関する事項である[6]。いずれの飛行の場合でも、③に関連して、原則として、第三者の上空での飛行は禁止されている(審査要領4-3-1(1))。

 その上で、上記①から③に関して、各許可・承認事由特有の追加的な基準が定められており(審査要領5以下)、目視外飛行の場合も同様である(審査要領5-4以下)。

 そして、2018年9月14日付で改正される前の審査要領(以下「改正前審査要領」という。)においては、目視外飛行を実施するには、③に関して原則として、補助者を付けることが求められており、「飛行経路全体を見渡せる位置に、無人航空機の飛行状況及び周囲の気象状況の変化等を常に監視できる補助者を配置し、補助者は、無人航空機を飛行させる者が安全に飛行させることができるよう必要な助言を行うこと」が必要とされていた(改正前審査要領5-4(3))。

 しかし、物流分野で利活用することを想定した場合、長距離飛行となるため、「飛行経路全体を見渡せる位置に、無人航空機の飛行状況及び周囲の気象状況の変化等を常に監視でき、操縦者に対して助言する補助者」を配置することは困難である。

 従って、改正前審査要領の下では、物流分野で利活用するための実証実験に関して目視外飛行の承認を取得することが規定上困難であった。

(つづく)


[1] 経済産業省のホームページ(http://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/robot/drone.html(最終閲覧2018年10月11日))を参照。

[2] 海外においても、目視外飛行が規制されている国は少なくないが、ドローンの商業利用のため目視外飛行の実証実験を実施し、規制の緩和が検討されている国もある。例えば、米国は、連邦航空局(Federal Aviation Administration)が実施しているIntegration Pilot Programの下で、選定されたエリアにおける目視外飛行を含む実証実験の実施を認め、その結果を踏まえて、ドローンの商業利用のための規制内容が検討される予定である。Integration Pilot Programについては、2018年10月に成立したFAA Reauthorization Act of 2018に制度化されている(同法Section 351)。Integration Pilot Programの内容については、https://www.faa.gov/uas/programs_partnerships/uas_integration_pilot_program/(最終閲覧2018年10月11日)を参照。

[3] 国土交通省のホームページ(https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2018/10/001254115.pdf(最終閲覧2018年10月11日))を参照。

[4] 航空法上のドローンは200g以上のものとされているが(航空法2条22項、航空法施行規則5条の2)、商業利用のための機体の重量は200g以上になるのが当然であり、これを前提に検討する。

[5] 航空法上、ドローンの飛行に際しては、機体及びその周囲の状況を目視により常時監視して飛行させることを要する。「目視」とは、ドローンを飛行させる者本人が自分の目で見ることを意味し、補助者による目視、モニターを活用して見ること、双眼鏡やカメラ等を用いて見ることは、いずれもこれに該当しないとされている(航空局「無人航空機に係る規制の運用における解釈について(国空航第690号、国空機第930号))。

[6] なお、ドローンの最大離陸重量が25kg以上の場合には、堅牢性・耐久性等に関する要件が加重されている(審査要領4-1-2)。

 

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