◇SH2154◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(111)雪印乳業㈱グループの事件を組織論的に考察する㉑岩倉秀雄(2018/10/23)

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コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(111)

―雪印乳業(株)グループの事件を組織論的に考察する㉑―

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、大阪工場の衛生上の問題点と事故原因の究明が遅れた理由について述べた。

 大阪工場は年間製造量11万キロリットル(1999年度)の飲用乳、ドリンクヨーグルト及びクリームを生産する市乳の主力工場であった。

 厚生省・大阪市原因究明専門家会議による2000年12月の最終報告では、最終的に食中毒事件の原因から除外されたが、原材料の使用記録の不備、再製品の使用記録がないこと等、様々な衛生管理の不備報道が、雪印製品の信頼を失墜させることにつながった。

 今回は、不祥事発生後の企業対応の参考として、食中毒事件後の雪印乳業(株)の対応と訴訟について考察する。

 

【雪印乳業(株)グループの事件を組織論的に考察する㉑:食中毒事件後の対応と訴訟】

 事件報道直後より消費者からの苦情・問合せが殺到し、雪印乳業(株)は誠心誠意対応する方針であったが、当初の対応の不備もあり、苦情・問合せ総数は3万1,000件を超えた。

 雪印乳業(株)は、事件後直ちに食中毒事故対策本部を西日本支社と本社に設置し、全国の事業所から従業員を動員して消費者へのお詫びと治療費等への支払いに当たった。

 

1. 緊急対策本部の設置

 6月30日、本社と西日本支社にそれぞれ緊急対策本部を設置し、7月5日には西日本対策本部内に、事実解明委員会、広報委員会、流通対応委員会、消費者対応委員会(消費者からの苦情に対する訪問対応+電話対応)を設置した。

 また、7月6日には本社対策本部内に部会(西日本支援部会、事故調査部会、顧客・得意先対応部会、関係企業部会、官庁対応部会、工場指導部会、酪農部会、広報部部会)を設置した。

 

2. 特別対応チームの編成

 7月9日には、被害者に応じた適切な対応を図るため、通常の訪問チームとは別に、解決の難航が予想される案件を扱うSチーム妊産婦の対応に当たる妊産婦チーム及び医療チームを設置した。

(1) Sチーム

 被害者の要求する補償内容が明らかに不当・過大な場合や、案件が複雑で通常の応援者では対応困難な案件について対応する。これには、各支店の消費者対応のベテランを配置し対応した。

(2) 妊産婦チーム

 被害を受けた妊産婦については、病産院に通じているプロパー(育児品担当者)を配置し対応した。

(3) 医療チーム

 被害者に対する医学的な説明や文書作成を行なうことを主として、医薬品部と生物科学研究所から人選し対応した。

 

3. 弁護士等外部からの支援

 事件当初より、顧問弁護士が本社に駐在するとともに、困難な案件に対応するために、一定期間弁護士が大阪支店に常駐した。

 なお、特別な案件には警察OBが助言、指導した。

 

4. お客様ケアセンター室の設置

 食中毒患者への継続的な対応を図るため、2000年8月~2009年3月、代表取締役常務を室長とする本社直属の組織として、お客様ケアセンター室(正式名称:大阪工場食中毒事故お客様ケアセンター室)を西日本支社新大阪ビル内に設置した。

  1. 【主な業務内容】
  2. ・ 発症した消費者への定期的巡回と容態の確認
  3. ・ 発症した消費者の負担した医療費等の精算業務
  4. ・ 苦情解決までの時間を要する消費者への対応
  5. ・ 必要に応じて、弁護士及び専門の医師を選定し、支援要請の実施
     

5. 食中毒事件に関わる訴訟

 食中毒事件で大阪府警は、2001年3月16日、石川哲郎前社長ら9名と法人である雪印乳業を書類送検した。

 石川前社長の容疑は、公表遅れで被害を拡大させたとして業務上過失致傷を適用、前専務と汚染源の大樹工場の5名には、低脂肪乳を飲んだ奈良県の女性(当時84歳)が食中毒を発症、持病の慢性腎疾患を悪化させて死亡したことから業務上過失致死傷容疑とした。

 また、大樹工場関係者と衛生管理が問題となった大阪工場関係者は食品衛生法違反、法人としての雪印乳業(株)にも同法違反の両罰規定が適用された。

 2001年7月、大阪地検は、大樹工場の前工場長ら3名を業務上過失致死傷で起訴したが、石川前社長らは嫌疑不十分で不起訴となった。

 雪印乳業(法人)は、大樹工場の原因究明中に発覚した日報の改ざんと、大阪工場における加工乳の再利用に対して食品衛生法違反で略式起訴され、罰金50万円の略式命令を受けた。

 2001年10月31日、大阪地検が前社長の石川前社長と前専務を不起訴処分としたのに対し、大阪府内の被害者女性2名が不起訴不当の議決を求め、大阪第一検察審査会に審査を申し立て、翌2002年4月、大阪第一検察審査会が石川前社長らの不起訴不当を議決した。

 検察審査会の議決を受け再捜査していた大阪地検は、2003年3月、再び石川前社長らを不起訴処分とした。

 2001年12月、大阪地裁で元大樹工場長ら3名の初公判が開廷、翌年1月、被告のうち元大樹工場製造課長が交通事故死し公訴棄却となった。

 5月27日、大阪地裁の判決で元大樹工場長に禁固2年、執行猶予3年、罰金12万円、元製造主任に禁固1年6月、執行猶予2年の処分が下され、6月10日に処分が確定した。

 なお、女性1人が死亡したケースについては、判決は食中毒と死亡の因果関係を否定し業務上過失致死罪の成立は認めなかった。

 民事訴訟、2001年7月、被害者5家族9名が製造物責任(PL)法に基づき総額約6,600万円の損害賠償請求訴訟を提訴した。

 当該食中毒事件では初の民事訴訟で、食中毒事件でPL法に基づき損害賠償を求める訴訟も初めてのことであった。

 4家族8名は比較的症状も軽く2003年8月に和解したが、残った原告1名(事件当時70歳)は、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症し、通院治療が長期化し、懲罰的慰謝料も含め総額6,000万円を超える損害賠償を求めていた。

 訴訟では、PTSDとして食中毒との因果関係が争点となったが、2005年9月26日、判決予定日の直前に裁判所が呈示した和解案を双方とも受諾し、最終解決に至った。

 次回は、食中毒事件後の再発防止策について考察する。

 

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