◇SH3860◇中国:仲裁法の改正(2)――仲裁判断の執行、「渉外要素」の認定・解釈 青木 大/莫 燕(2021/12/21)

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中国:仲裁法の改正(2)

―仲裁判断の執行、「渉外要素」の認定・解釈―

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 青 木   大

莫     燕

 

 本稿では前回に引き続き、中国仲裁法の改正に関連する論点の解説を行う。

 

3. 外国仲裁機関により中国において下された仲裁判断の執行

 中国民事訴訟法は、仲裁判断の国籍について、「国内裁決」、「渉外裁決」、「外国裁決」、「非内国裁決」などの区分を設けているが、中国国内における外国仲裁機関の下した仲裁判断がいずれに当たるかについては必ずしも明確ではない。現行の仲裁法は「仲裁地」の概念を明確に規定しておらず、かつては外国仲裁機関の本部所在地(例えばICCであればフランス)をもって仲裁判断の国籍を判断する傾向もみられた。また、中国国内を仲裁地として外国仲裁機関の下した仲裁判断を「非内国裁決」にあたるとして、ニューヨーク条約に基づいて執行を認めた下級審判例も存在する。「非内国判断」とはニューヨーク条約第1条第1項第2文に記載される「内国判断と認められない仲裁判断」に相当するが、中国はニューヨーク条約同条同項に関し相互主義の留保を付していることとの関係で法的な疑問があるとの指摘もある。

 この点、広州市中級人民法院は、2020年、広州を仲裁地とするICC仲裁判断について、「非内国裁決」ではなく、民事訴訟法第273条に定める「渉外裁決」(渉外要素のある国内仲裁判断)に該当すると判断し、同条に従って執行を求めることができると判示した(布蘭特伍徳事件)。しかし、同判断は地方人民法院の判断であり、外国仲裁機関により中国において下された仲裁判断の国籍は必ずしも明確といえる状況には未だない。

 この点、改正法案第27条第2項は、「仲裁地」の概念を中国仲裁法に初めて導入し、仲裁判断は仲裁地で下されたとみなされる旨を明確に規定する。これにより、中国国内を仲裁地として外国仲裁機関により下された仲裁判断の国籍が「渉外裁決」として執行可能なことがより明確となることが期待される。

 

4. 「渉外要素」の認定・解釈について

 民事訴訟法第271条によると、渉外経済貿易、運輸、海事により発生した紛争について、当事者が契約に仲裁条項を定め、又は事後に合意した書面による仲裁合意に達し、中国の仲裁機関又はその他の仲裁機関に仲裁を申し立てるものについては、人民法院に対して訴訟を提起することができないとされている。すなわち、渉外経済貿易、運輸、海事により発生した紛争に関しては「その他の仲裁機関」に該当される外国仲裁機関に対しても、仲裁を申し立てるものができるものと解されている。他方で、渉外要素を有しない紛争については、最高人民法院は、渉外商事開示審判実務問題解答第83条で、「国内当事者が渉外要素を有しない契約又は財産権益紛争に関して外国仲裁機関に仲裁を申し立てる又は外国で臨時仲裁を行うことを約定した場合、人民法院は関連仲裁合意が無効であると認定しなければならない。」と明確に回答している。これによれば、渉外要素を有しない契約について、外国仲裁機関を選定することはできないものと一般的に考えられている。

 かかる「渉外要素」の有無を認定する際、人民法院は、①紛争当事者の国籍や常居所地、②目的物の所在地、③主な法律事実の発生地等に関して外国要素があるかという基準で審査を行う(「渉外民事関係法律適用法」適用の若干問題に関する解釈(一)第1条)。この点、外国企業が中国国内で設立した子会社(外資企業)は中国で登録された中国法人であるため、外資企業同士又は外資企業と中国国内企業との間の紛争は、一般的には渉外要素を有しないと認定される(ただし、自由貿易区に登録された外資企業に関しては特別な扱いがある。2016年に公布された「最高人民法院による自由貿易区の建設に司法保障の提供に関する意見」第9条によれば、当事者の一方又は双方が自由貿易試験区内に登録された外資企業である場合、当該紛争には渉外要素を有するとみなされ、商事紛争につき外国仲裁機関に申し立てることができる。)。

 この点、改正法案において「渉外要素」の認定や解釈に関する定めが新たに設けられるものではなく、その認定や解釈に影響を与えうる条項もないため、「渉外要素」の認定に関しては、基本的には現行法に沿った運用がなされるものと推測される。前述の通り、改正法案によっても、外国仲裁機関の選択は渉外要素のある場合についてのみ認められるものであり、注意を要する。

 なお、「渉外要素」のない契約については、中国法以外の法律を選択することはできないものとされており(渉外民事関係法律適用法によれば、渉外民事関係に適用する準拠法は当事者間で選択することができるが、その他の場合には当事者間で他国法の合意はできないものとされている(渉外民事関係法律適用法司法解釈第4条))、他国法を選択することで上記の制約を回避することは難しいものと考えられる。したがって、渉外要素のない契約については、基本的には中国国内仲裁機関(そうでなければ裁判)を選択せざるを得ないことになる。なお現状、香港法は中国において外国法として取り扱われ、またHKIACも外国仲裁機関として扱われており、渉外要素のない契約について、香港法を準拠法としたりHKIACを仲裁機関として選択したりすることにも問題があることも注意を要する。

 


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(あおき・ひろき)

2000年東京大学法学部、2004年ミシガン大学ロースクール(LL.M)卒業。2013年よりシンガポールを拠点とし、主に東南アジア、南アジアにおける国際仲裁・訴訟を含む紛争事案、不祥事事案、建設・プロジェクト案件、雇用問題その他アジア進出日系企業が直面する問題に関する相談案件に幅広く対応している。

 

(Yan・Mo)

日本長島・大野・常松律師事務所駐上海代表処 顧問。2012年華東政法大学経済法学部卒業、2017年ノースウェスタン大学ロースクール(LL.M)卒業。現在長島・大野・常松法律事務所上海オフィスの顧問としてM&A、企業再編及び一般企業法務を中心に幅広い分野を取り扱っている。(※中国法により中国弁護士としての登録・執務は認められていません。)

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