◇SH2160◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(112)雪印乳業㈱グループの事件を組織論的に考察する㉒岩倉秀雄(2018/10/26)

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コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(112)

―雪印乳業(株)グループの事件を組織論的に考察する㉒―

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、不祥事発生後の企業対応の参考として、食中毒事件後の雪印乳業(株)の対応と訴訟について述べた。

 事件報道直後より消費者からの苦情・問合せが雪印乳業(株)に殺到した。 

 雪印乳業(株)は、直ちに食中毒事故対策本部を西日本支社と本社に設置し、全国の事業所から従業員を動員して消費者へのお詫びと治療費等への支払いに当たった。

 また、被害者に応じた適切な対応を図るため、通常の訪問チームとは別に解決の難航が予想される案件を扱うSチーム妊産婦の対応に当たる妊産婦チーム及び医療チームを設置した他、弁護士が本社と大阪支店に常駐し、特別な案件には警察OBの助言、指導を受けた。

 そして、食中毒患者への継続的な対応を図るため本社直属の組織として、お客様ケアセンター室を西日本支社内に設置した。

 食中毒事件に関わる訴訟では、石川前社長らは嫌疑不十分で不起訴となったが、雪印乳業(法人)は、大樹工場の日報の改ざんと、大阪工場における加工乳の再利用に対して食品衛生法違反で略式起訴され、罰金50万円の略式命令を受けた。

 また、元大樹工場長に禁固2年、執行猶予3年、罰金12万円、元製造主任に禁固1年6月、執行猶予2年の処分が下され、6月10日に処分が確定した。

 民事訴訟では、被害者5家族9名が製造物責任(PL)法に基づき総額約6,600万円の損害賠償請求訴訟を提訴し、最終的に和解した。

 今回は、雪印乳業(株)が実施した食中毒事件の再発防止策を考察する。

 

【雪印乳業(株)グループの事件を組織論的に考察する㉒:再発防止策】

 2000年12月22日、事件の責任をとって辞任した石川社長の後任の西紘平社長は、東京本社で記者会見を行なった。[1]

 西社長は、「当社は食品を扱う企業として、何よりも優先しなければならない品質管理が徹底していなかったことを深く反省し、食品衛生法、HACCPはもちろん、社内基準を遵守し、社会の信頼に応えられる組織風土に改めるべく、倫理憲章、行動基準の制定を準備中で、これを実践するとともに、全ての工場について以下の再発防止策を実行する」と述べた。

 具体的施策は、次の通りであった。

  1. 1. 商品安全監査室(社長直轄)を設置し、不備を指摘した事項に対して改善命令を発令させると同時に、必要に応じて予算措置を行なう。
  2. 2. 工場の衛生管理を強化・充実させるためのマニュアル類の整備・策定と日報(記録)の見直しを行なうとともに、専門チームをつくり、従業員の衛生教育を計画的に実施する。
  3. 3. エンテロトキシンの検査機器を全工場に導入、製品出荷検査のみならず、工程検査にも活用し、安全性確認の検査体制を強化する。
  4. 4. 設備上の不具合個所及び人的な判断誤りを誘引する個所等については設備的な改善を計画的に行なう。また、突発的なトラブル時の異常を解明するために温度記録システムの充実を図る。
  5. 5. 事故発生に伴なうお客様への被害・危険防止のために、エンテロトキシン検査を含めた製品出荷前の検査に万全を期す。
  6. 6. 万一出荷後においてお客様に被害が及んだ場合に備え、365日、苦情をフリーダイヤルで受付けるコミュニケーションセンターを開設し、お客様との連絡を密にする。
  7. 7. 被害が他のお客様に及ぶ恐れがある場合には、直ちに告知、回収できる社内体制を構築し、その責任権限を明確にするべく、組織体制の見直しを行なう。

 以上の再発防止策とその内容は、下表の通りである。

 

表.食中毒事件再発防止策

対 策 主 な 内 容 目 的 実施状況
1. 企業風土改革 従業員の責任ある行動を徹底するために企業行動憲章(雪印乳業行動憲章・企業行動指針)を制定 風土改革 2001.4.1制定
2. 商品安全監査室設置
  1. ① 社長直轄で品質及び工場の状況を直接監査
  2. ② 検査方法等のアドバイスを受けるため社外有識者を2名招聘
  3. ③ 市乳全工場(含関連会社)の監査・改善指示
  4. ④ 脱脂粉乳全9工場の監査実施
  5. ⑤ 工程内滞留乳など問題になった個所のマニュアルの改善
工場監査 2000.7.28設置
3. 工場の衛生教育実施 食品衛生とHACCPの教育を見直し、本社での集合研修や工場での研修を充実させた。一部工場では地元保健所から講師を招聘 再発防止 (教育) 2000年度実施
4. 検査体制の充実強化
  1. ① 黄色ブドウ球菌検査実施対象の拡大
  2. ② 自社全33工場、分析センター及び関連会社7社において毒素(エンテロトキシン)検査機器を導入
品質検査 2000年.7月~8月 市乳20工場に導入
5. 要改善ラインへの設備投資 監査(行政及び当社)により改善すべきと指摘されたラインの設備改善 再発防止 (設備) 2000年度実施
6. 品質管理要員の強化 工場品質管理室 25名増員 品質検査 2000年度実施
7. コミュニケーションセンター設立
  1. ① お客様情報の迅速な収集と早期対応
  2. ② 情報の迅速なフィードバックによる品質事故削減
  3. ③ フリーダイヤル365日対応、9時~19時受付
  4. ④ お客様情報と商品改良・新商品開発との連動
異常品発生時対応、情報収集 2000年 12.25設立
8. 異常品発生時の連絡体制見直し
  1. ① 危機レベルに応じた責任の所在と全社の体制(緊急品質委員会、危機対策本部の設置など)の明確化
  2. ② 経営トップへの迅速な連絡体制の構築
異常品発生時対応 2000年度実施
9. 食品衛生研究所設立 食中毒メカニズムの研究、衛生教育・研修の実施、研究成果の社会への還元 衛生研究 2001.3.1設置
10. お客様ケアセンターの設置 大阪工場製造製品に起因する食中毒患者への継続的な対応 被害者対応 2000.8.7設置

 なお、雪印乳業(株)は、2000年9月26日、当期業績予想の修正[2]と①企業風土の刷新、②品質保証の強化、③2002年度黒字化施策を骨子とする経営再建計画(牛肉偽装事件発覚前)を発表している。

 次回は、この再建計画について考察する。



[1] 雪印メグミルク編『雪印乳業史 第7巻』(雪印メグミルク、2016年)418頁~419頁

[2] 当初売上高13,200億→11,550億、経常利益当初230億→▲538億、当初当期利益90億→▲475億

 

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