◇SH2168◇法律文書の読解入門(7)―ふくおかFG/十八銀行(2) 白石忠志(2018/10/31)

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法律文書の読解入門(7)

ふくおかFG/十八銀行(2)

東京大学教授

白 石 忠 志

 

 前回に引き続き、長崎県の地銀の企業結合事例に関する公取委の審査結果の基本的なところを読み解きます。前回は市場画定まででした。今回は、画定された市場のうち、九州本島に所在する「県南等3経済圏」の中小企業に向けた貸出しの市場について、最後まで見ます。

 厳密には、公取委は、「県南経済圏」「県北経済圏」「県央経済圏」のそれぞれの中小企業に向けた貸出しの市場(3つの市場)があるとしているのですが、いずれにも同じ議論が当てはまるため、公取委が便宜的に「県南等3経済圏」と呼び、ひとまとめにしているものです。

 

1 条文

 前回も掲げたのですが、今回も、読み解きの基盤として、条文を確認しておきましょう。

 前回は条文の画像を掲げましたので、今回はテキストだけにします。独禁法10条1項は、「会社は、他の会社の株式を取得し、又は所有することにより、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合には、当該株式を取得し、又は所有してはならず……」と規定しています。

 つまり、株式取得「により」、一定の取引分野における「競争を実質的に制限することとなる場合には」、違反であり株式取得をしてはならないこととなっています。当事会社は、それでも株式取得をしたいならば、問題解消措置を申し出て、違反要件が満たされない状態に持ち込んで、これを条件としたうえで、公取委からクリアランス(「排除措置命令を行わない旨の通知」)を得ることになります。

 

2 競争の実質的制限

 きちんとした法律文書では、的確な目次構成がされ、見出しが付されています。県南等3経済圏の競争の実質的制限について論じている箇所は審査結果13〜14頁ですが、これがどのような見出しのもとでの記述であるのかを把握しておくと有益です。13頁の「イ 県南等3経済圏」は、11頁の「(2)各経済圏」のもとにあり、これはさらに9頁の「2 中小企業向け貸出し」のもとにあり、これはさらに6頁の「第5 事業性貸出しに係る競争の実質的制限についての検討」のもとにあります。

 そして、13〜14頁で種々述べた結果、「本件統合により、……県南等3経済圏における中小企業向け貸出しに係る一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなると認められる。」と述べ(13〜14頁)、違反であると言い切っています。

 画像は、14頁の部分のみです。

 「こととなる」などと微妙なことが書いてあるから違反と言い切っていないのではないか、という気もしますが、そうではありません。前記1の条文と照合してください。条文は、「競争を実質的に制限することとなる場合には」株式取得をしてはならない、つまり株式取得は違反となる、としています。県南等3経済圏に関する上記画像の部分の記述は、条文において違反となる条件をそのまま書いています。公取委は県南等3経済圏について違反と言い切った、ということがわかります。

 

3 問題解消措置の申出

 そうすると、株式取得を実行したい当事会社としては、問題解消措置を申し出ることになります。

 本件で当事会社が申し出た問題解消措置は、審査結果15頁に記載されています。

 まず、「債権譲渡」が県南等3経済圏のみについて申し出られたことになっていることが注目されます。他の経済圏については違反なしという判断になったことと関係していると考えられます。

 この「債権譲渡」という言葉については、「貸出先が当事会社グループの貸出債権を返済して他の金融機関に借り換えるものを含む。」とする括弧書が付されています。

 そのほかに、「金利等のモニタリング」が申し出られています。

 

4 問題解消措置に対する公取委の評価

 この問題解消措置に対する公取委の評価が、審査結果16〜19頁に記載されています。

 16頁において、本件債権譲渡によって「一定の顧客基盤を構築」できるという表現が2度用いられて強調されていることなどが目に付きますが、私が最も注目したのは、16頁の末尾です。

 これは、本件債権譲渡だけで、違反要件が不成立となる、ということを述べています。言い換えれば、「金利等のモニタリング」は、公取委の評価においては、問題解消のためには不要だった、ということになります。念のため付言すれば、本件債権譲渡が完了するまでの間は、金利等のモニタリングにも意味がある旨の記述を置いていますが(18頁)、全体から見れば小さなことです。

 このように、公取委の審査結果は、債権譲渡を重視し、モニタリングを重視しない、という内容となっています。公表文だけから、これだけ読み取れる、というのが、官庁文書の読解の、ある種の醍醐味であるとも言えます。

以上

 

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