◇SH2189◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(117)雪印乳業㈱グループの事件を組織論的に考察する㉗岩倉秀雄(2018/11/13)

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コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(117)

―雪印乳業(株)グループの事件を組織論的に考察する㉗―

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、雪印食品(株)の概要と事件の背景について述べた。

 雪印食品(株)は、雪印乳業の子会社で、東証第2部及び札幌証券取引所上場の公開会社だった。

 主力事業は創業以来ハム・ソーセージ部門(会社収益の8割〜9割を占める)で、事件を発生させたミート部門は、他の事業に比べて収益性が悪く、1992年以降は毎年数億円の赤字を計上していた。

 ミート事業の担当者は、相場推移の的確な予測、食肉の品質を見分ける高度の専門知識と長年の経験が必要とされ、長年ミートを専門的に扱う傾向が強く、他部門との人事交流が乏しく、職人気質で独立性が強いという特性があった。

 食中毒事件の影響等により、雪印食品(株)の経営状況は2000年度決算、2001年中間決算も大幅な赤字で、そこにBSEの影響による消費者の牛肉買い控えが重なり、期末には多額の評価損や販売損の発生が見込まれていた。

 また、同社は、経営再建策の一環として、2001年11月に希望退職者を募っており、職員の間には、業績やリストラへの不安が広がっていた。

 今回は、上記の背景の中で行われた牛肉偽装事件の経緯について考察する。

 

【雪印乳業(株)グループの事件を組織論的に考察する㉗:事件の経緯】

1. ミートセンター長会議

 2001年10月、本社でミートセンター長会議が開催され、牛肉の在庫量と販売見通し、評価損・販売損が多額になること等が報告され、センター長より会社としての対応が求められたが、具体的な対策は検討されなかった。

2. 国産牛肉買い取り事業についての情報

 この頃、食肉業界では、国が全頭検査前に屠畜処理された国産牛肉を買い上げる制度の実施を検討しているとの情報が出回り、安価な経産牛を買いあさって国に買い上げさせようとする業者や、不良在庫となっている輸入牛肉を買い上させようとたくらんでいる業者がいるという噂が広まった。

 国産牛肉の買取価格は、当時のオーストラリア産牛肉より2~3割高かったので、雪印食品㈱のミート事業担当者は、販売見込みのない輸入牛肉を買い上げさせたいと考えるようになった。

3. 偽装の状況

(1) 関西ミートセンターにおける偽装工作

 2001年10月31日、関西ミートセンター長とその指示を受けた社員が西宮冷蔵を訪れ、冷蔵室内で輸入牛肉を国産牛肉と表示された箱に詰め替えた。

 また、後に関西ミートセンターで1,480キログラムの輸入牛肉を国産牛肉用の箱に詰め替え、西宮冷蔵に搬入した。

 西宮冷蔵の在庫証明書には、国産牛肉約13万9,668キログラムを保管している旨記載されていたが、うち約1万3,873キログラムは輸入牛肉だった。

(2) 本社ミート営業調達部における偽装工作

 2001年11月1日、本社ミート営業調達部では、国産牛肉に偽装する輸入牛肉を、保管中の東京から北海道の雪印乳業の子会社である道南雪印食肉(株)(茅部郡森町)に国産牛肉として搬送した。

 そこで、輸入牛肉を国産牛肉に見せかける加工処理を行い、国産牛肉の箱に詰め替えて札幌の営業倉庫に入庫した。

 営業倉庫では、本社ミート営業部調達部分及び北海道ミートセンター分として国産牛肉を合計約2万9,400キログラム保管している旨の在庫証明書を発行したが、そのうち本社ミート営業調達部分の約1万2,600キログラムが輸入牛肉だった。

(3) 関東ミートセンターにおける偽装工作

 2001年11月1日及び2日にわたり、関東ミートセンター長の指示により、東京の営業倉庫に保管中の輸入牛肉約3,667キログラムを取引先の食肉卸に搬入、輸入牛肉を国産牛肉に加工処理し、再び東京の営業倉庫に国産牛肉として搬入した。

 東京の営業倉庫では、11月6日付けで、関東ミートセンター及び本社ミート営業調達部分として国産牛肉約8万5,790キログラム保管している旨の在庫証明を発行したが、関東ミートセンター分の約3,520キログラムは輸入牛肉であった。

(4) 牛肉の売買契約

 雪印食品(株)は2001年11月6日、この詰め替えた肉を含む牛肉計約280トンを、日本ハム・ソーセージ工業協同組合に買い取りを申請し、売買代金約3億1,100万円の売買契約を締結、2003年1月7日、日本ハム・ソーセージ工業協同組合から、買い取り金の一部約1億9,500万円を受け取った。

4. 事件発覚

 2002年1月22日午後、雪印食品本社広報室に新聞社から偽装工作の疑いがあることについて問合せが入ったため、直ちに本社から3名を関西ミートセンターへ派遣し確認したところ、関西ミートセンター長が深夜に偽装工作の事実を認めた。

 なお、これより先の2001年12月上旬、新聞社より関西ミートセンター従業員らに対し、輸入牛肉の詰め替え作業の有無の取材があり、本社ミート営業調達部部長が内部調査を行なったが、偽装工作は認められないとの報告があり、調査を打ち切ったことが、後日判明した。

 1月23日朝、新聞各紙に雪印食品の国産牛肉詰め替えの事実が掲載され、同午前11時半より、雪印食品㈱社長の吉田升三は、東京本社で記者会見を開き、事実関係を全面的に認め謝罪すると共に、社内調査委員会の設置を発表した。

 同席したデリカハム・ミート事業担当専務は、「虚偽申請はセンター長が独断で行ない、これを知る上司はいなかった」と述べ、会社関与の不正を否定した。

 一方、詰め替え作業の現場となった西宮冷蔵の社長は、午前に記者会見し告発した経緯や理由を説明した。

 同日、農水省が事実関係の調査を、兵庫県警が詐欺容疑で捜査する方針をそれぞれ発表した。

 また、日本ハム・ソーセージ工業協同組合は、買い上げた牛肉を雪印食品に返し、代金の返還を求めると発表した。

 雪印食品(株)は、1月24日、本社に輸入牛肉詰め替え問題調査委員会(社長ら13名と弁護士、公認会計士の計15名、委員長は加毛修弁護士)を設置し、1月26日には社告を掲載し偽装を謝罪した。

 次回は、事件発覚後から会社清算に至る経緯について考察する。

 

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