◇SH2197◇債権法改正後の民法の未来65 背信行為による贈与契約の解除(3・完) 奥津 周(2018/11/16)

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債権法改正後の民法の未来 65
背信行為による贈与契約の解除(3・完)

堂島法律事務所

弁護士 奥 津   周

 

Ⅳ 立法が見送られた理由

 上記の中間試案に対するパブリック・コメントでは、このような規定を創設するほどに裁判例や学説が成熟しておらず、どのような具体的な場面で解除を認めるべきかの共通理解は十分でないとの指摘や、贈与契約は親族間においてのみされるものではないのに、相続法の規定である民法第892条に準拠することには合理的な理由がないといった指摘があり、そもそもこのような規定をおくこと自体に反対するものが一定数あった。

 また、規定の設立自体には賛成するものの中でも、背信行為等による贈与契約の解除の趣旨を、受贈者に対する制裁的な措置であると理解し、解除権を一身専属のものとすることや、返還義務の範囲を現存利益とすることについて疑問を呈する見解が一定数あった。

 このように、パブリック・コメントの結果からは、中間試案の考え方は、必ずしも大方の賛同を得ているとはいい難い状況にあった[1]

 また、中間試案に対するパブリック・コメント後の法制審議会の議論においても、背信行為等による贈与契約の解除の趣旨を個人的な信頼関係の破綻にあるという点については異論をみなかったものの、適切な法制上の要件を導き出すことは困難ではないかという指摘があり、また、「著しい非行」を解除の要件とした際に、受贈者が贈与者との関係で非行と言われるかもしれないことをしてはならない状況に置かれることになり、契約のルールによるコントロールとして、贈与をする市民と受け取った市民とをこのような状態に置くことが、健全な社会を導き出すのに果たして適切なことであるのか、といった疑問が呈された。

 このようなパブリック・コメントの内容や、法制審議会における議論をふまえて、「贈与一般において信頼関係の破壊がどのような観点からどの程度あればよいのかについてはこれを示した判例もなく、下級審裁判例の蓄積も乏しい上、中間試案が要件設定の参考とした民法第892条に依拠することも困難であり、これに代わる適切な要件を定立することも容易ではない」として、立法としては取り上げないこととされた[2]

 

Ⅴ コメント

 大阪弁護士会での議論

 大阪弁護士会の意見としては、背信行為等を理由とする贈与契約の解除の規定を設けることに賛成であった。贈与が個人的な人間関係に基礎をおくものであり、その基礎となる人間関係や信頼関係を破壊させるような行為が受贈者にあったときには、贈与者に解除権を認めるのが国民感情に沿うものと思われるからである。また、裁判例は多くはないが、価値判断として贈与者に贈与契約の解除等を認めるべき事案において、裁判所がその法律構成に苦労している面が見受けられ、そうであれば適切な要件設定をして、立法すべきものと思われる。

 また、大阪弁護士会としては、贈与の履行の前後で要件を分け、履行の前の段階においては、より要件を緩やかに解除を認めるべきという意見であった。確かに履行後の背信行為については、法的安定性を確保するべきという要請もあるし、上記Ⅳの2項で紹介したとおり、履行後に長期にわたって贈与者と受贈者との間に非行をしてはならない(ペナルティとして贈与が解除される)という関係性に常に置くのが適切か、という問題もあることから、履行後については解除の要件を限定的にすることが妥当である。一方で、履行前であれば、法的安定性について考慮する要請に乏しいし、履行時まで、贈与の基礎となった人間関係等を前提に、贈与者と受贈者を一定の規律下におくことも不当ではないと思われる。そして、履行前において、贈与の背景となった事情や信頼関係が受贈者側の背信的な行為によって失われたときに、贈与者が履行を強制されるのは酷であるし、受贈者の保護の必要性にも乏しいから、広く解除を認めてよいと思われる。

 今後の議論

 法制審議会の議論においても、背信行為等を理由とする贈与契約の解除の規定を設けること自体については、これに賛成する意見が多かった。また、過去の裁判例が認めているとおり、贈与の基礎となる人間関係や信頼関係が破綻したときに、贈与者が履行を強制されたり、受贈者が受け取った利益をそのまま享受するのが不合理である事案は今後も発生すると思われる。

 また、類似の論点として、贈与者が贈与契約時点では予見できなかった事情の変更が生じ、贈与者が生活に困窮する状態に至ったときには、未履行部分に限って贈与契約を解除できるという議論がある[3]。この点も中間試案でも提案されたが、立法化は見送られた。

 これらの論点は、今回は立法化は見送られたが、贈与契約後の事情によって、贈与契約の解除が認められるべき事案があり得ることには異論はなく、今後の裁判例の積み重ねの状況をふまえて、今後の議論による法制化を期待したい。

以上



[1] 部会資料75B

[2] 部会資料81-3

[3] 中間試案36-4

 

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