◇SH2216◇債権法改正後の民法の未来66 利息超過損害(1) 川上 良(2018/11/28)

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債権法改正後の民法の未来 66
利息超過損害(1)

弁護士法人大阪西総合法律事務所

弁護士 川 上   良

 

1 はじめに

 今回の民法(債権関係)の改正では、数多くの制度が議論されてきた。その中でも、今回、取り上げる「利息超過損害」は、民法の原則に関わるような論点ではなく、トピックとして大きく取り上げられることはなかった。しかしながら、民法(債権関係)の改正の過程では、このような細部に至るまで民法の見直しと検討が行われたことや「利息超過損害」の議論の足跡を残しておくことは、債権法改正後も残された問題があることを示す一例として意義のあることと思われるので、取り上げることにした。

 

2 「利息超過損害」とは

 金銭債権については、「金銭債務の特則」として、改正前の民法419条が存在する。同条1項では「金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、法定利率によって定める。ただし、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による。」と定められ、同条2項では「前項の損害賠償については、債権者は、損害の証明をすることを要しない。」と定められていた。

 この条文から、金債債務の履行遅滞に基づく損害賠償の範囲は「法定利息」か「約定利息」の高い方になる一方で、損害の証明は不要であるとされてきた。

 「利息超過損害」の問題は、金債債務の履行遅滞に基づく損害賠償請求において、債権者が、上記利率により算定された損害を超える損害が発生したことを立証した場合には、その実損害の賠償が認められるのではないかという問題である。

 

3 従前の議論の状況

 (1) この「利息超過損害」については、最一小判昭和48・10・11集民110号231頁が「民法419条によれば、金銭を目的とする債務の履行遅滞による損害賠償の額は、法律に別段の定めがある場合を除き、約定または法定の利率により、債権者はその損害の証明をする必要がないとされているが、その反面として、たとえそれ以上の損害が生じたことを立証しても、その賠償を請求することはできないものというべく」と判示し、利息超過損害を否定する立場を明らかにしている。実務上は、この最高裁判決にしたがい、利息超過損害は請求できないとの運用が定着していた。

 他方、学説の状況は、どのような場合に利息超過損害が請求できるかという要件は種々であるが、一定の場合には、利息超過損害を認める見解が通説であると言える状況にあった(奥田昌道『債権総論〔増補版〕』(悠々社、1992年)50頁、平井宜雄『債権総論〔第2版〕』(弘文堂、1994年)110頁、加藤雅信『新民法大系Ⅲ債権総論』(有斐閣、2005年)167頁、前田達明『口述債権総論〔第3版〕』(成文堂、1993年)214頁、中田裕康『債権総論〔第3版〕』(岩波書店、2013年)186頁、潮見佳男『債権総論Ⅰ〔第2版〕』(信山社出版、2003年)380頁))。

 (2) このように「利息超過損害」については、実務では否定説が定着している一方、理論的には肯定説が通説という状況にあった。このような中で、民法(債権法)改正検討委員会が、「<3>債権者は、【3.1.1.67】の定めるところに従い、<1>に定められた額を超えた損害の賠償を請求することを妨げられない。」(民法(債権法)改正検討委員会編『別冊NBL126号 債権法改正の基本方針』(商事法務、2009年)142頁【3.1.1.72】(金銭債務の特則))と、金銭債務の不履行について法定利率または約定利率による損害賠償を請求するときは、損害の発生の立証は不要であるが、それを超える損害の発生が立証された場合には、債務不履行の一般原則にしたがい利息超過損害の請求も可能とするとの提案が火付け役となり、民法(債権関係)の改正の論議の対象となった。

 

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