◇SH2228◇ロンドンで活躍する日本人弁護士、Ashurstパートナー岩村浩幸氏に聞く② 西田 章(2018/12/04)

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ロンドンで活躍する日本人弁護士、Ashurstパートナー岩村浩幸氏に聞く②

Ashurst LLP
弁護士(英国法および米国法) 岩 村 浩 幸

(聞き手)西 田   章

 

 前回(第1回)は、岩村浩幸弁護士が、新卒で就職したコンサルティング・ファームを4年間勤務した後に辞めて米国ロースクールのJDに進学されたこと、猛勉強の末に好成績を収めて米国の連邦裁判所のクラークを経験されたこと、米国系のローファーム勤務を経て、英国のローファームで働くようになり、英国法資格も取得した後に、リーマンショックによる影響で採用が凍結されていたAshurstのロンドンオフィスに「ジャパン・プラクティスをやりたい」と宣言して入所されたところまでの経緯をお伺いしました。

 今回(第2回)は、岩村弁護士が、Ashurstのロンドンオフィスでジャパン・プラクティス・チームを拡大されて、現在、どのような業務を担っているのか、同チームでどのような人材を求めているかについてお伺いします。

 

 ジャパン・プラクティスは、立上げ早々に伸びていったのでしょうか。
 全然そんなことはありません。2010年は、リーマンショックの影響が続いて、あまり仕事がないままに、年を終えました。翌年、やっと仕事が入って来そうになったところで、東日本大震災が起こりました。そのため、びっくりするぐらい、仕事がありませんでした。
 タイでは洪水も起こりましたね。
 はい、自動車会社も、欧州で大きな投資をするという雰囲気ではありませんでした。
 自ら、ジャパン・プラクティス・グループを企画して持ち込んだので、仕事がないと、肩身が狭いですね。
 私の上司であるパートナーからは「もうそろそろ次のことを考えたら」と言われるようにもなりました(苦笑)。酷いなぁ、とは思いましたが、しょうがないですよね。
 どん底からの転換点は何だったのでしょうか。
 その後、日本の食品メーカーが、欧州で買収をする、という案件があり、我々のところに、提案を出してくれ、と声をかけてくれました。その会社の担当者の方に対して、我々が、日本語でアドバイスを提供したところ、重宝してくれて、続けて、次の欧州での買収案件でも、我々に依頼してくれました。そして、売却案件も我々が全部お手伝いをさせていただいたことから、弾みがつきました。その会社さんとは、今も引き続き英国での法律問題に関するお手伝いをさせていただいています。
 そこで、「日本企業の欧州での投資案件でのリーガルサービスはAshurstに」という評判が確立したのですね。
 おかげさまで、そこからは、順風満帆で、ビジネスはどんどん大きくなっています。
 買収、M&A対応の仕事がメインですか。
 はい。ただ、それだけでなく、現地でオペレーションすれば、雇用とか、不動産関連とか、色々な問題が起こるじゃないですか。Ashurstには、それぞれの法分野の専門家が所内にいます。ちょっとした相談ならば、私たち自身でも対応しますが、複雑になってきたら、それら専門家にもチームに加わって対応しています。
 岩村先生は、米国のローファームで働いた後に、英国のローファームで働かれていますが、米国と英国で、弁護士の仕事スタイルに違いはありますか。
 業務内容、やっていること自体はあまり変わらないと思います。でも、働き方は、米国のローファームのほうがずっと大変ですね。
 米国系のほうが忙しいですか。
 イギリスは、「ワークライフバランスを保たせてあげよう」という気持ちはありますよね。それが実際にどこまで出来ているかどうかは別として(笑)。
 米国系では、その気持ちもないのですか(笑)。
 それは、稼働時間のターゲットの違いに現われています。イギリス系のローファームは、年間の稼働時間のターゲットは、1600~1700時間だと思います。これは、週末に働かなくとも、平日に少し残業すれば達成できる水準です。
 米国系ファームの稼働時間のターゲットはもっと高いでしょうか。
 米国系は、2000時間以上を設定していると思います。これは、土日も働くことが前提とされている数字ですよね。でも、その分、米国系のほうが給料は高目です。稼働時間は長いけど、給料は高いほうがいい、という弁護士には米国系が向いています。
 岩村先生は、いつ頃、Ashurstでパートナーに昇進されたのですか。
 Ashurstに勤めて5年目ぐらいの2015年です。
 パートナーになるための倍率、競争は激しいですよね。
 倍率は低くはないですね。全世界で、毎年、200名ぐらいの新人弁護士を雇っていると思いますが、パートナーに昇進できるのは、年に20名ぐらいだと思いますので、倍率としては、10分の1ぐらいですね。
 日本での大手法律事務所パートナーの昇進よりも大変ですよね。そこでの選考基準は、やはり、事務所に貢献できるか、売上げ的要素が強いのでしょうか。
 倍率的には、日本の事務所よりも高いかもしれませんね。事務所への貢献度が見られる、というのはその通りだと思います。
 結果的に、今、岩村先生は、イギリス系ローファームのパートナーとして活躍されているわけですが、米国留学をされる前は、イギリスで弁護士として働く、というのは、想像していなかったですよね。
 まったく考えていませんでした。最初は、ずっとアメリカで仕事をしようと思いました。連邦裁判所でクラークをした後は、「アメリカで訴訟弁護士になるのもいいかな」とさえ思っていました。
 イギリスでは、訴訟弁護士は無理ですかね。
 無理ではないのかもしれませんが、イギリスでは、ご存知のとおり、バリシターとソリシターに分かれています。バリシターになるのは勉強をしなおさなければならなかったですし、ソリシターで訴訟を行うのもバリシターのサポートがメインとなりあまり面白みがなさそうでしたので、自分の専門として行うのは考えませんでしたね。
 今、振り返って見て、アメリカの連邦裁判所でクラークをされたのは、英語力、法的思考力を鍛える点で、勉強になったと思われますか。
 とても勉強になりましたね。
 アメリカの訴訟実務を経験した、ということにも意味はあるでしょうか。アメリカの訴訟弁護士にならないとしても。
 私は、コーポレートロイヤーの仕事をする上でも、訴訟経験は役に立つと思っています。コーポレートの契約交渉も、訴訟対応を意識することは非常に重要だと思います。何かあったときに、どちらが勝つか?という論点に帰着します。どうでもいい点は折れて、重要なところをピックアップして依頼者の利益を守る、という交渉をするためにも、訴訟実務経験は役に立っていると思います。
 でも、「アメリカにわたって、連邦裁判所のクラークになる」というのは、普通の若手弁護士には、なかなか真似できないので、参考にしづらいかもしれませんね(笑)。
 私の経歴は、ちょっと変わっていますからね(笑)。
 失礼な表現をさせていただくと、「行き当たりばったり」という感じもするのですが、ご自身ではどう思われているのでしょうか。
 その場その場で、状況が変わりますので、調整は必要ですよね。父親が亡くなったり、大震災があって、一人暮らしの母親のことが心配になったり、と家族のことも含めて自分ではコントロールできないこともあるので。
 ただ、一応、大きな方向性と、短期的な目標設定は常に立てるようにしていました。米国留学中に「アクセンチュアの経験を活かして、大きい事務所に入って、なおかつ、クラークシップをできればやりたい」という発想から、勉強の目標を立てて、与えられた選択肢の中からベストなものを選んで来たつもりです。
 微調整は必要ですが、大きな方向性を持っていないと、ブレてしまいますよね。
 それでは、次に、Ashurstについてお尋ねしていきたいと思います。歴史や規模のざっくりとしたところを教えていただけますか。
 200年ぐらいの歴史があり、ロンドンのシティでも、最も古いローファームのひとつです。弁護士数は、グローバルで1600名ぐらいいます。そのうち、パートナーは400名弱です。規模としては、イギリス系のマジックサークルよりは、少し小さいです。
 イギリスとオーストラリアのオフィスが一番大きくて、それ以外にも、アジア各国にも、欧州もほとんどカバーしていますので、他のグローバルファームとカバーしている地域は同様です。
 どんな特色があるのでしょうか。
 クライアントから聞く「コマーシャルだ」「ビジネスマインドに優れている」という言葉は、「法律ではこうです」で終わらずに、クライアントが求めているアドバイスを提供する、という意味で、褒め言葉だと受け止めています。
 コンサル出身の岩村先生にはぴったりですね。
 自分も、Ashurstのカルチャーに合っていると感じています。
 すべての一流ファームがそういうマインドなわけでもないのですか。
 そうですね、たとえば、私の前職のHerbert Smithには、よりガチガチの法律論、Black Letter Lawを重視するカルチャーを感じました。それはそれで素晴らしいと思いますので、どちらかが正しいということではなく、目指しているところは微妙に違うという印象です。
 Ashurstの東京オフィスは、どのようなオフィスなのでしょうか。
 私は、東京オフィスに属しているわけではないので、形式的なことしか申し上げられませんが、東京オフィスには、日本法の弁護士が4名程度、外国法の弁護士が15名程度で、実働合計20名程度います。
 東京オフィスは、政府系金融機関や商社を依頼者とするプロジェクトファイナンス案件や、エネルギー系会社を依頼者とする資源系の仕事を受けています。
 海外オフィスとの連携が強みになりそうですね。
 はい、東京オフィスの人員はそれほど多くありませんが、海外オフィスとの連携で大型案件にも対処しています。
 Ashurstは、イギリスとオーストラリアにも、日本人のコーポレートのパートナーがいる唯一のグローバルファームなので、日本、イギリス、オーストラリアの3拠点をつなぐような案件は、他のグローバルファームに負けません。
 次に、ロンドンオフィスのジャパン・プラクティスのチームについて教えてください。
 ロンドンのジャパン・プラクティス・チームには、私がパートナーとして居て、日本人アソシエイトが3人います。そのうち、2名は日本法資格者です。それに加えて、優秀なパラリーガルも1人います。
 また、パーマネントなメンバーではないのですが、日本の大手法律事務所からは、毎年、1名~2名のアソシエイトの出向者を受け入れています。なので、私も含めて、合計で、7~8名ぐらいの体制で仕事を回しています。

 

 それでマンパワー的に足りているのですか。
 いえ、人手が足りていません。そこで、今、日本法資格者をもうひとり雇いたい、と考えているところです。
 日本企業からの依頼を、ジャパン・プラクティス・チームが窓口となって受けて、具体的な案件は、Ashurstの他部門と連携して対応する、という感じでしょうか。
 そうですね。ジャパン・プラクティス・チームの日本人メンバーでも、一般的なアドバイスは可能ですが、現地の不動産関連や労働関連に関する法規制の専門性があるわけではないので、そこは、当該専門分野の弁護士と連携してアドバイスしています。
 イギリスに限らず、欧州全体をカバーされているのでしょうか。
 はい、そうです。フランス、ドイツ、スペイン、ベルギー等にもジャパン・プラクティス・チームで恒常的に連携しているパートナーがいます。
 日本企業にとっては、Ashurstという、英国法やその他欧州の各国の現地の法規制の専門家の知見をベースとしつつ、ジャパン・プラクティス・チームを通じて、日本語でコミュニケーションをとれることに便宜さを感じているのでしょうか。
 そうですね、日本企業に対して、日本語でアドバイスを提供できる、というのが、私たちチームの一番の強みではあります。それは、単に言語だけの問題でなく、日本企業の文化も理解している、という意味もあると思います。
 また、一度、当チームを利用してくれたクライアントでは、現地法人の英国人担当者も普通に英語での相談を直接に依頼してくれるようにもなります。日本の本社や現地の日本人の方々が我々を使ってくれているということで、日本人じゃない方も我々を安心して使ってくれるのかと思います。
 確かに、日本企業は、欧州案件についても、本社の取締役会での承認が必要だったりしますので、純粋に、英国法の法律論だけでなく、「日本の株式会社の取締役会では、どのような点が確認された上で承認まで至るか?」といった部分までサポートしてもらえるのは大きいですよね。
 そうかもしれません。
 意見書、メモランダムは、日本語でも書いてもらえるのでしょうか。
 はい、日本企業のクライアントに提出するのは、日本語の文書のほうが多いと思います。クライアント側で「英国人メンバーともシェアしたい」と言われたら、もちろん、英語でも作成します。両方に対応できるのが当チームの強みだと思います。
 「英語で作ったメモを和訳する」というわけではないので、正確ですよね。
 はい、間に翻訳業者が入るわけではないので、その点は安心してもらえます。また、クライアントとしては、無駄な翻訳費用がかからない点でも便宜なようです。
 イギリスのローファームでは、日本企業を大事にされているのでしょうか。噂では、欧州でも、中国企業のほうが大口のお客さんであり、日本企業の扱いが軽くなっているところもあるような噂も耳にしますが。
 他の事務所はそういう傾向があるかと思いますが、Ashurstでは、私がいるので、日本企業のクライアントは重視しており、私がいる限りはその方針を変わることは無いと思います。
 実際、ロンドンにある他のローファームが、日系企業を取り込もうとしても、Ashurstよりも、優れたサービスを提供できなければ、そちらを選ぶ理由がないですよね。
 我々としては、他のどのローファームと比べても、日系企業が欧州で活動するために、最もよいサービスを提供していきたい、と思っています。
 Ashurstのジャパン・プラクティス・チームが出向を受け入れる先を、日本の大手法律事務所からに限定している、というのも、日本の一流企業がベストのサービスを受けられるため、ということでしょうか。
 大手事務所に限っているわけではありませんが、我々が必要とする経験などを勘案して、出向者の選択をすると、日本のトップローファームからだけ受け入れることになっている、というのはその通りです。
 日本の法律事務所が欧州に出先機関を設置する動きもありますが、そのような動きに脅威は感じますか。
 いえ、特に感じていません。出先機関に数名を置いても、現地法のアドバイスは、結局のところ、現地の弁護士に依頼せざるを得ません。
 私たち、ジャパン・プラクティス・チームも、M&Aとか、GDPRとか、我々自身の専門分野については一流のアドバイスができますが、現地の法規制、不動産とか労働については、一般的なことしかコメントできませんので、複雑な事例では、所内の現地法の専門家と連携しなければ、質の高いサービスは提供できません。
 日本の法律事務所を窓口にしても、結局、現地の事務所と連携するならば、フィーのコントロールも難しくなりますよね。現地の事務所の請求書を値引きするわけにもいかないので。
 その点、当事務所のジャパン・プラクティス・チームが窓口になれば、私自身が、Ashurstのパートナーなので、クライアントの予算に応じて、フィーをコントロールすることはいくらでも可能です。
 ただし、日本で常に付き合っている日本の法律事務所の方に案件で入っていただくことは非常に有意義なことも多いです。この辺りは餅は餅屋で、クライアントにとってベストな選択肢を共同して提供できるような関係を日本の事務所の弁護士の先生方と構築できるように心がけています。
 先ほど、ロンドンオフィスのジャパン・プラクティス・チームで、アソシエイトの採用を考えている、というお話がありました。アソシエイトは、どういう仕事を任されているのでしょうか。岩村先生との役割分担はどのようになっているのでしょうか。
 ジャパン・プラクティス・チームでは、パートナーである私が、仕事を取って来る役割を担っていて、アソシエイトがそれを処理して、私は、それをレビューする、重要なミーティングには、私も参加する、という感じです。このような役割分担を昨年から確立することができました。
 岩村先生のサポートをしてくれるアソシエイトが育って来た、ということでしょうか。
 ロンドンオフィスでは、日本法資格者の伊藤慎悟さんが来てくれて、2年半ぐらいになります。彼が、イギリス法資格も取得してくれて、よい仕事をしてくれています。西村あさひ出身で、私よりも間違いなく優秀な弁護士です。
 日本法資格者でも、ロンドンで経験を積めば、自ら仕事を回せるようになるのでしょうか。
 伊藤さんも、最初は苦労していたと思いますが、今は、もう仕事の回し方をよくわかっています。わからないことがあっても、自分で、所内の関連する現地パートナーに聞きに行って、ひとりで案件を回せる感じになっています。そして、その伊藤さんの仕事を、他のアソシエイトと出向者がカバーする、という形で、今は、すごくうまく回っています。  そのおかげで、私のほうは、仕事をとってきたり、セミナーをしたり、という業務に専念できるようになりました。
 ジャパン・プラクティス・チームの仕事はまだまだ広がりがありそうでしょうか。
 まだビジネスがあるので、もっと大きくしたいと思っています。そして、今後は、伊藤さんがパートナーになって、今の伊藤さんの役割は、その下のアソシエイトに代わってもらって、近い将来に、パートナー2名体制に出来ればと思っています。パートナー2名体制になれば、その下にアソシエイトは3、4名は必要になってきます。
 いずれは、岩村先生が、パートナーを引退される頃には、それを承継するパートナーも出て来るわけですね。
 はい、イギリスの法律事務所では55歳でパートナーを引退する人が非常に多いです。私自身も、いつまでもパートナーのポストにしがみつくつもりはまったくありません。私がリタイアするときには、そのパートナー枠は、伊藤さんに続く弁護士の方に承継してもらいたいと思っています。
 いずれにせよ、今は、業務拡大中です。
 日々は、どのような業務を受けているのでしょうか。
 メインは、M&Aですね。日本企業による欧州への投資案件です。ただ、今年は、GDPRが施行されたので、その対応で非常に忙しかったです。その忙しさは、7月半ばまで続きました。
 他にも、Brexitの影響の分析の依頼は引き続き多いです。金融機関の他のEU加盟国における拠点のセットアップの依頼等もあります。また、労働関連の相談は常にありますし、不動産の売買やリースの相談も常にあります。
 撤退案件もあるのでしょうか。
 はい、欧州ビジネスの縮小、会社を閉じる案件についても、しばしばご相談いただいています。
 それらも、ジャパン・プラクティス・チームが窓口になって、必要に応じて、所内の専門家と連携して対応されているのですね。ところで、訴訟も受けておられるのでしょうか。
 はい、訴訟パートナーもロンドンオフィスだけで10名以上いて、もちろん日系企業の英国での訴訟も代理しています。コーポレートが著名ではありますが、それに限らず、フルサービスでなんでも対応しています。

 それでは、次に、具体的に、ジャパン・プラクティス・チームで、どういうスペックの人材を求めているのか、をお尋ねしていきたいと思います。日本法資格は必須なのでしょうか。
 私は、チームには、日本法の資格者に参加してもらいたいと考えています。というのも、日本企業は、法務の担当者さんは非常に優秀で、弁護士資格がなくとも、弁護士に劣らない法律知識を備えている方がたくさんいらっしゃいます。また、今は、日本企業にもインハウスロイヤーが増えています。
 そういった、質の高いクライアントにも、価値があるリーガルサービスを提供するためには、当チームのメンバーにも、日本法資格は持っていてもらいたいと思っています。
 でも、岩村先生ご自身は、日本法資格は持っておらず、特にその必要性も感じておられないですよね。日本法のアドバイスをするわけではないのですから。
 ゼロから何かを作る段階では、私のように、無茶苦茶な人のほうがいいと思うんです(笑)。後先考えずに、とにかく突っ込んでいく、ブルトーザータイプですね。
 でも、いまは、チームも安定期に入り、質の高い企業からご相談を受けています。今は、日本で司法試験に合格して、トップファームで、3年以上、きちんとした経験を積んだ、伊藤さんのような弁護士が求められていると考えています。
 先ほどの出向者の受入れ先でも、大手事務所を、という話がありましたが、やはり、四大のような大手事務所での経験を重視されますか。
 大手事務所での経験、という表現は例示に過ぎません。要するに、その人が優秀であれば、どこの事務所出身でも構わないのですが、少なくとも、日本法の知識はしっかりと持っていていただきたいです。
 日本法、というと、分野的には、会社法ですか。
 そこは別に会社法にこだわっているわけではありません。日本の会社法のアドバイスをするわけではありませんので、会社法の細かい知識を知っていても、それを使う機会があるわけではありません。
 基本的な法律用語で会話ができて、日本の会社法の用語が、ローマ字でも、カタカナでも、漢字交じりでも出て来たときでも、きちんと読めて、理解してもらえたら十分です。
 法律事務所で、契約書やメモランダム等の文書も作成した経験があるほうが望ましいですか。
 法律文書の作成経験があったほうが望ましいですね。法律文書の読み書きができないと困るので。イメージ的には、3、4年の経験は欲しいかなぁ。
 法律文書は、日本語文書の作成経験だけでいいのでしょうか。
 はい、日本語での文書作成経験を評価しています。
 英語力は、もちろん、ロンドンで仕事をしていく以上、それなりにはないと困りますが、ただ、そこは、あっという間に上達します。ロンドンに住んで仕事をしていれば、もともと頭のよい人たちなので、英語については、特に心配はしていません。
 実際、伊藤さんも、来た当初よりもずっと英語がうまくなってきており、当初は多少英語で困ることもあったと思いますが、現在は仕事を行うために十分な英語力を身につけられたと思います。
 なるほど、英語力は、ロンドンで働きながらでも伸びていくので、未熟でも構わない。むしろ、日本法知識や日本語での法律文書作成能力は、ロンドンに行ってからの上達は望めないので、ある程度の完成したものを求めている、ということですね。
 仰る通りです。同様に、ビジネスセンスやコミュニケーション力も、最低限のものは持っていてもらいたいですが、それも、ロンドンで働きながら鍛えてもらえたら十分です。あらかじめ完成していてもらう必要はありません。
 他に必要なもの、といえば、何かあるでしょうか。
 性格的には、他の人と仲良くできる人でないと困りますね。あとは、「何かあったときに頑張れる人」ですね。
 「頑張れる」というのは、徹夜でもこなすようなイメージでしょうか。
 それは行き過ぎです。私が「頑張って欲しい」というのは、大事な仕事が入ったときに、22時ぐらいまで働けるか?というイメージです。
 それならば、大手事務所のアソシエイトには余裕ですね。彼らは、連日、2時、3時、4時、5時まで仕事する激務が常態化していますから(笑)。
 ハードワークすることよりも、私が、重要だと思っているのは、「型に捉われない」という発想ですね。
 「型に捉われない」ですか。
 リーガルサービスが生まれて、もう千年以上が経過していると思うのですが、おそらく、その仕事のスタイルって、これまでに大きくは変わっていないのですよね。法律が出来てから、それを現実にどう適用されるか、それについてのアドバイスを紙に書いて提供する、というスタイルは。
 でも、これから、まったく変わらないか? と言えば、私はそうは思っていません。
 AIの発達みたいな議論でしょうか。
 そうですね。クラウドベースで契約書を締結するような動きはすでに普及しはじめていますし、AIがアドバイスをする、という時代も、もうすぐ来るかもしれません。また、周りを見れば、他のアドバイザリー・ファームで、会計事務所もリーガルサービスを提供しています。
 異業種も参入した新しい競争も生まれている中で、我々弁護士が価値を出していくためには、「弁護士とはこういうことをするものだ」という型にハマった考え方だとついていけなくなります。それは、私が、部下に求める、というよりも、その人自身が生き残っていけなくなると思うんです。
 これから先は、凝り固まった、「これじゃなきゃダメ」というタイプよりも、やわらかい頭を持って、あたらしいアイディアを出して、そこでうまく行く方法を常に改善していける人のほうが、マーケティグにしろ、アドバイスのやり方にしろ、弁護士として生き残っていけるのではないかと思います。
 ロンドンのリーガルサービスは、日本のリーガルサービスよりも一歩進んでいるのでしょうか。
 進んでると思いますね。
 日本企業は、まだまだ細かいアドバイスを求めてきてくれる先もありますが、ロンドンでは、細かい仕事は、実はほとんど残っていません。例えば、少額の取引の契約書のレビューなんかは、英国の企業は、もう外部事務所に依頼していません。細かい法律のリサーチの相談もありません。ロンドンの現地企業は、それらはすべてインハウスに任せています。現地の日系企業は、まだインハウスが少ないので、我々外部事務所に相談してくれることもありますが。
 そして、外部事務所としても、もう、細かいジェネラルコーポレートの相談を狙っていません。産業が変化し、デジタル化していく中で、どういうリーガルサービスが求められているのか、を考えています。日本よりも、10年、20年先を行っているイメージがあります。
 確かに、他のコンサル、アドバイザリーファームが先に進んでいく中で、「待ち」の姿勢でいたら、法律事務所は、コンサルの下請けみたいな事務作業屋、書類作成業になってしまうおそれがありますね。M&A業務も、フィナンシャルアドバイザーの指示に基づいて、下請け的なDDをしている法律事務所もあると聞きます。
 GDPR対応でも、それが一部顕在化していました。
 私たちのチームは、GDPR対応でも、できるだけ、クライアント企業から直接に相談を受ける、という形でアドバイスを提供していましたが、そうでないローファームも多かったと思います。
 そういう時代の流れの中で、何か、こう「一緒に新しいサービスを作っていこう」と考えてくれる若者と一緒に仕事をしたいですね。

(続く)

 

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