◇SH2252◇法務担当者のための『働き方改革』の解説(20) 横澤靖子(2018/12/17)

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法務担当者のための『働き方改革』の解説(20)

定年後再雇用と同一労働同一賃金 ~九州惣菜事件判決の概要~

TMI総合法律事務所

弁護士 横 澤 靖 子

 

Ⅷ 定年後再雇用と同一労働同一賃金 ~九州惣菜事件判決の概要~

 前稿で検討した定年後再雇用と同一労働同一賃金に関する長澤運輸事件(最二判平成30年6月1日労判1179号34⾴)は、定年後再雇用にあたって職務の内容等を変更せずに賃金を下げたケースであった。本稿では、定年後再雇用にあたって職務の内容等を変更し賃金も下げたケースである、九州惣菜事件(福岡地裁小倉支部平成28年10月27日労判1167号58頁、福岡高裁平成29年9月27日労判1167号49頁)をご紹介し、同事件の実務に与える影響について検討する。

 

1 事案の概要

 本件は、惣菜類を製造する会社にフルタイム勤務していた労働者が、会社の継続雇用制度に基づき定年後の再雇用を希望したところ、会社からは、定年前の月収ベースの賃金が約75パーセント減少するパートタイマーへの転換を提案されたが、労働者はこの提案に応じず、再雇用契約は締結に至らなかったことから、会社に対し、①主位的に、定年後も会社との間の雇用契約が存在し、賃金については定年前の8割相当とする黙示的合意があるとして、雇用契約上の地位の確認を求め、②予備的に、会社が大幅な賃金の減少を伴う不合理な労働条件の提示(以下「本件提案」という。)しか行わなかったことが、労働者の再雇用の機会を侵害する不法行為を構成するとして、損害賠償を請求した、という事案である。当該労働者の定年前の給与は、所定労働時間を1週平均40時間以内、1日7時間30分として月給33万5500円(時給1944円)であったにもかかわらず、定年後の再雇用に際して、会社が、週3日又は4日勤務、勤務時間実働6時間、時給900円(1か月の就労日数を16日とした場合の月額賃金は8万6400 円)という労働条件を提示したものである。

 

2 判決内容の検討

 一審判決(福岡地裁小倉支部平成27年10月27日判決)は、労働者の請求を全て棄却した。高裁判決(福岡高裁平成29年9月7日判決)は、主位的請求(①)は認めなかったものの、予備的請求(②)の不法行為の成立を認め、会社に対して、100万円の慰謝料の支払いを命じた。なお、最高裁は労働者及び会社双方の上告を受理しなかったことから、高裁判決が確定した(最高裁第一小法廷平成30年3月1日決定)。

 福岡高裁は、本件では定年後再雇用に際して労働契約が締結されていないとして、正社員と有期契約社員の不合理な格差を禁じた労働契約法第20条の違反はないとした。他方で、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(以下「高年法」という。)9条1項2号に基づく高年齢者雇用確保措置を講じる義務は、事業主に定年退職者の希望に合致した労働条件の雇用を義務付けるといった私法上の効力を有するものではないものの、その趣旨・内容に鑑みれば、労働契約法制に係る公序の一内容をなしており、本件提案が継続雇用制度の趣旨に沿うものであるといえるためには、大幅な賃金の減少を正当化する合理的な理由が必要であるとして、会社が合理的な理由の認められない本件提案に終始したことは継続雇用制度導入の趣旨に反し、裁量権を逸脱又は乱用したものであり、違法性があるとした。

 本件では、定年後再雇用に際し、雇用契約の締結に至らない場合には雇用契約上の地位を認めないという判断がされている。しかし、再雇用契約締結の交渉にあたって、会社が提示する労働条件が不合理な場合には、当該労働条件の提示行為自体が高年法における継続雇用制度の導入の趣旨に違反し、高年齢者が有する65歳までの安定的雇用を享受できるという法的保護に値する利益を侵害するものとして不法行為を構成する可能性があることを示した。

 

3 本件が実務に与える影響

 定年後再雇用においては、定年前よりも労働条件が低下すること自体は一般的であるが、本件のように、極端に低い労働条件を提示することは不法行為に該当する可能性があるため、実務上は、使用者が定年後再雇用の場面で労働条件を提示する際、定年前の労働条件と定年後再雇用における労働条件の内容の差異を検証し、差異がある場合には、それが合理的なものであることを説明及び立証できるよう準備することが必要である。したがって、使用者としては、労働者が定年を迎える前までの労働条件、特に賃金カーブのつけ方を含む賃金体系全体について検証しておく必要がある。

 なお、政府は平成30年10月22日に開催された未来投資会議(議長:安倍晋三首相)において、70歳までの雇用を促進するため法制度化を議論する考えを打ち出した。定年後再雇用と同一労働同一賃金というテーマについては、今後も引き続き政策の動向について注視しながら実務対応を検討していく必要がある。

 

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