◇SH2275◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(130)日本ミルクコミュニティ㈱のコンプライアンス② 岩倉秀雄(2019/01/11)

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コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(130)

―日本ミルクコミュニティ㈱のコンプライアンス②―

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、雪印、全農、全酪連が設立した合併組織で、筆者が設立に関与した日本ミルクコミュニティ(株)設立の経過について述べた。

 日本ミルクコミュニティ(株)は、雪印乳業(株)グループの食中毒事件と牛肉偽装事件をきっかけとして、2003年1月、雪印乳業(株)の市乳事業、全国酪農業協同組合連合会(略称 全酪連)の乳業子会社であるジャパンミルクネット(株)の市乳事業、全国農業協同組合連合会(略称 全農)の乳業子会社である全国農協直販(株)の合併により設立された市乳専門の乳業会社で、株主は全農(40%)、雪印乳業(30%)、全酪連(20%)、農林中央金庫(10%)であった。

 乳業界では、市乳事業は規模として大きいものの利益率が低いことから「儲からない事業」と言われており、日本ミルクコミュニティ(株)に対する業界の反応は、「儲からない事業を集約して規模を大きくしても利益が出るとは思えない」、「昨日まで激しい市場競争を繰り広げていた企業文化の異なる3社が1つになっても、相乗効果を発揮するどころか意思統一ができずに失敗するだろう」、「3社のブランドが一つになることで、アイテムを絞らざるを得ず、以前よりも店頭の売り場面積が減り、売上げも利益も大幅に減るだろう」等の冷ややかな見方が多かったが、同社は、設立時の倒産の危機を乗り越えて、「出るはずがない」と言われた利益を出し経営を軌道に乗せた。

 今回は、合併会社のマネジメントの困難性と市乳統合会社設立の組織決定について考察する。

 

【日本ミルクコミュニィティ㈱のコンプライアンス②:合併会社のマネジメントの困難性と組織決定】 

 合併会社は、それぞれの会社の組織文化の違いからくるコンフフリクトの発生・顕在化の可能性が一定の歴史を持つ単一の会社よりも高いことから、マネジメントの困難性(コンプライアンス違反の発生可能性)が高い。

 筆者が共同執筆した『日本ミルクコミュニティ史』発刊に当たり、同社を倒産の危機から救った当時の3人の経営者に思い出を寄稿してもらったところ、全員が企業文化の融和に気を配っていたことを、以下の通り述べており、改めて筆者の主張の正当性を確認する思いであった。(『日本ミルクコミュニティ史』雪印メグミルク編・発、2014年 520頁~526頁)

  1. <社長>
    「……私が思うには……合併新会社を経営するには、おのおの企業文化が骨の髄まで染み込んだ従業員を認めた上で意識改革を促す、いわば異体同心で最大の力を発揮していただくことがベースとなると思っています。……」
  2. <専務>
    「……寄り合い所帯に特有な異文化の混在とそれによる空気の澱みをできるだけ早期かつ短期に払拭し、会社全体に求心力を植え付けることを狙いとして(チーム力強化の取り組みを)……」
  3. <常務>
    「……3社の出身者からなる日本ミルクコミュニティ(株)という会社は、発足したばかりの会社であり、各社の出身会社の仕事の進め方、価値観、文化といったものがそのまま存在したことから、従業員の一体感、活力の発揮という面では一つの会社になりきれていませんでした。…会社が持続的に成長していくためには、全従業員の価値観、目標のベクトルをあわせ、……『日本ミルクコミュニティ(株)の企業風土』を作る必要性を強く感じていました。」

 このように、合併会社の経営では、組織文化の違いからくるマネジメント上の様々な課題を認識し克服する必要があるが、それは、準備段階から始まる

 本稿では、筆者の全酪連乳業統合準備室長兼市乳統合会社設立準備委員会事務局次長の経験を踏まえ、『日本ミルクコミュニティ史』における記述範囲内で、通常は表に出ない合併会社設立準備段階で議論された課題について述べ、その後、合併会社発足後のコンプライアンス体制構築とコンプライアンスプログラム推進の留意点について述べる。

 

1. 市乳統合会社設立の組織決定(『日本ミルクコミュニティ史』120頁)

 雪印乳業(株)は、2002年3月14日、全農・全酪連と共同して事業統合を視野に入れた市乳事業の構造改革を発表していたが、全酪連は2002年6月1日開催の理事会において、ジャパンミルクネット株式会社の分割と市乳統合会社への出資を決めるとともに、同日開催のジャパンミルクネット株式会社取締役会では、全国農協直販株式会社、雪印乳業株式会社と市乳統合に関する基本合意書を締結することを決議した。

 全農は2002年5月23日の理事会で、50億円を限度とした雪印乳業への出資と市乳統合会社への60億円を限度とした出資を了承、市乳統合会社では筆頭株主となる方向で、全国農協直販株式会社を分割し市乳統合に参加させることを決定した。(全農の出資は、同年7月25日の総代会において正式に機関決定した。)

 各組織の決定を踏まえ、2002年6月5日、全国農業協同組合連合会(全農)、全国酪農業協同組合連合会(全酪連)、雪印乳業株式会社、全国農協直販株式会社、ジャパンミルクネット株式会社、農林中央金庫(農中)の6者が、東京港区白金台の都ホテルで午後1時より市乳事業統合に関する調印式を行ない、午後4時25分に第1回市乳統合会社設立準備委員会を開催、午後5時より同ホテルで共同記者会見を開き、市乳統合会社設立の基本合意書を締結したことを発表した。

  1. 発表内容
  2. ① 設立予定日    平成15年1月1日
  3. ② 株主       全農(40%)、雪印(30%)、全酪連(20%)、農中(10%)
  4. ③ 資本金      150億円程度
  5. ④ 本社所在地    東京
  6. ⑤ 売上高目標    2,300億円程度
  7. ⑥ 損益       平成16年度黒字化(単年度)
  8. ⑦ 従業員数     2,000名程度
  9. ⑧ 業務内容     牛乳・乳飲料・醗酵乳・果汁等の製造販売
  10. ⑨ 会社名・ブランド 会社名は検討中、ブランドは農協・全酪・雪印の既存ブランドの継続、
             及び新ブランドの構築
  11. ⑩ 主要施設     生産拠点は直営15工場 営業拠点は支店・営業所30ヵ所

 次回は、設立準備委員会の設置について考察する。

 

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