◇SH1208◇『民法の内と外』(3) 中休みを頂き、若干の予告と補足を 椿寿夫(2017/06/05)

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連続法学エッセー『民法の内と外』(3)

中休みを頂き、若干の予告と補足を

京都大学法学博士・民法学者

   椿   寿 夫

 

〔Ⅰ〕 プロローグ

 資料探索のほかに荷送りの問題もあって、第6回目の締め切りは危ないと予想していたが、やはり2月初めから順次、文献・資料が手元を離れてマンハイムの宿舎で箱に詰められていき、一応わが家で利用できる程度に整理し終えるのは5月末までかかった。

 当初のプランでは「契約の終了」か「民法と強行法・任意法」を次に書こうと考えていたが(これらはもちろん私の発案による共同研究用のテーマである)、上記のような理由で資料確認が間に合わないため、先送りした。

 

〔Ⅱ〕 民法の一部改正

 衆院法務委員会への係属以来、“記事中(きじなか)”的な小事扱いであったこの問題は、成立報道も、例えば朝日紙によると詳報は総合欄のたしか6くらいであった。毎日微に入り細をうがった記事の踊る共謀罪に比べると、新聞の場合にはそんな所が妥当な位置づけだろうが、これから3年ほどの間、新法解説や教科書の書き改めで著者の皆さんはさらに多忙となろう。私も二、三の入門書を持っているけれど、どうするかかなり迷うにいたっている。昨年2月、対象領域がかなり重なっているフランス民法(1804年成立)の「契約法・債務法」改正も行われたが、なかなか新法解説に出会えず、夏にダローズの六法と少数の薄っぺらの解説をまず入手し、11月と今年2月に、パリで法律書を置く3軒の有名書店で座りもできないまま、選択に迷うくらい増え続ける関係図書を長い時間立ち眺めて――私の仏語力では“立ち読み”と言えるほどの状態にはならない――それらのうち若干を郵送してもらった。我が家の民法書籍も、これまで頂いたり買ったりして数十年間に生まれた洋和書籍のパンク状態の解消に着手しなければならない。それには少なくはない本を捨てるという気持ちの上での難事がつきまとっている。

 ところで、今から8年前、「債権法改正の基本方針」の発表会があり、ちょうど他のテーマの設定を二、三始めていて出席を渋る私に、松澤三男商事法務研究会専務理事が「まあ、とにかく出てきなさいよ」と引っ張り出してくれ、聴いているうちに興味が出てきて、「傍聴所感」を書いた(NBL 906907909号)。3回では終わらず、当時の編集部員から延長ダメを喰らったが、懲りずに他社で皆さんのご意見集を編集したりした。下書きを普通には行わない習癖のため、NBLで後1回か2回何を言いたかったのか記録も記憶もないが、今回はわれわれの勉強会(ニックネーム「椿塾」)でも幾つかの角度から研究してみよう、と芦野事務局が張り切っている。

 

〔Ⅲ〕 このエッセーの親切度と対策

 過日、この企画の仕掛け人である編集長に、「レヴェル・ダウンすることを気にしておられたが、どうですか?」と尋ねたところ、「少し硬くて難しい」という感想が返ってきた。

 第2テーマの『多角取引』は、複合取引と言い替えれば、論文や解説もかなり出ていて、皆さんもすぐ見当がつくはずなのに、何を小難しく提案するかという疑問を抱かれた向きもおられよう。おまけに、その解説の末尾〔Ⅴ〕には、幾つも説明し残しが擧示されている。これでは課題をただ投げかけただけで、どう考えろと言うつもりかと問う人も出てこよう。私は昨秋の私法学会に病気欠席したので、学会誌『私法』をやがて見るまではその場で出た議論状況もはっきりしないが、少しだけ補説しておこう。議論の全体像は少しだけ説明すればわかる、という問題ではないので、ここではご勘弁願いたい。

 ④の問題は、実務的には、契約および不法行為それぞれの“要件”を充たすかぎり、どちらでも選べるという結論で片付けられるであろう。これが2個の請求権の独立かつ競合を肯定する考え方である。しかし、売買などの契約にはそれに適し、不法行為の条文からは出てきにくい解決もあり得る。私見によれば履行請求権がそれに属する。また、共同者や従属者の範囲も同じか。消滅時効の問題も組み立て方が同じではない。――こうなると、二つの制度は、契約を不法行為の特別法と見るか、全く別個無関係と見る考え方へ傾斜するのではないか。ここでは、請求権競合・法条競合・別個独立という古くからの議論が下敷きとなる。

 ⑥と⑤は、私が学理として最も狙っている論点であり、古来疑いもなく通用してきた“法学常識”への批判を秘めている。ひと言でいえば“三者間の契約”をどう見るかの問題である。これは、契約における“当事者および第三者”の定義に関わる問題として入門的にも実用的にも無視し難い論点となるであろう。

 

〔Ⅳ〕 契約や債権関係の譲渡・処分

 本シリーズの第1テーマについては、お断りしたように、論究ジュリストの持ち込み原稿として無理をお願いしながら、議論の中心となる“契約譲渡・契約引受”には紙幅超過により若干しか割くことができなかった。契約総則の規定(今や旧規定・旧法規定と呼ばねばならない)を見ると、「契約の成立」「契約の効力」「契約の解除」の3款から成っていたが、新規定では第5款「定型約款」のほかに「契約上の地位の移転」がたった1か条ながら第3款として付加された。昔の教科書には、債務引受ですら項目となっていないものさえあったが、私にとりこの変化は感慨深い。7月初めに所属する現代担保法・財産法研究会で、この第1テーマにつき報告し、しばらくしてかなり大型の論考を発表する予定である。それの解説もこのシリーズで行いたいので、恐縮ながら補填はお待ち願いたい。なお、債権譲渡に関する池田真朗の労作において、古い学説として彼が一括した中に椿の名前があった。時期の古い論考もあるが、内容的には現在なお最も先端的な契約引受学説であるはずなので、報告と論考では親しい友人ながら批評を加える予定である。もちろん、当方も仏新法などからの示唆を加えての作業となる。

(2017-06-02稿)

 

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