◇SH2491◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(157)日本ミルクコミュニティ㈱のコンプライアンス㉙ 岩倉秀雄(2019/04/19)

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コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(157)

―日本ミルクコミュニティ㈱のコンプライアンス㉙―

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、日本ミルクコミュニティ㈱の経営危機を乗り越えた当時の役員の心境について述べた。

 3人の経営者は、組織存続の危機の中で、問題を共有し強い目的意識をもって構造改革を成功させた。

 筆者らは、『日本ミルクコミュニティ史』を編纂するに当たり、3人の経営者に、個別に当時の心境についての寄稿を依頼したが、全員が、日本ミルクコミュニティ(株)の組織風土改革運動である「チーム力強化」の取組みについて触れ、「合併会社では、統合に参加した各社の組織文化の違いを認め、それを踏まえ新会社としての新たな組織文化を形成するための運動を実行する必要性があり、それが団結を促し構造改革を成功に導いた」との認識を示した。

 「チーム力強化」の取組みは、合併会社における「出身会社主義」を排除し、要員のモチベーションを高め貢献を引き出すために必要な、ある意味当然の活動であるが、通常ならこのような活動は建前になりやすく成果を挙げにくいと思われるが、それが成功できたのは、経営危機をバネに経営者同士・経営者と従業員が団結したこと、経営者が方針を明確に示したこと、従業員の意識の把握に努めたこと、方針を裏付ける制度改革を行いぶれずに実行したこと等による、と思われる。

 今回からは、組織の危機管理について考察する。

 

【日本ミルクコミュニィティ(株)のコンプライアンス㉙:組織の危機管理①】

 日本ミルクコミュニティ㈱の主要株主(全農、雪印乳業(株)、全酪連)は、いずれも不祥事の発生による経営危機に陥り監督官庁の業務改善命令を受けており、また、日本ミルクコミュニティ(株)自身は、債務超過の経営危機からV字回復を果たしてようやく生き残った会社であったことから、株主も経営者も危機管理の重要性を強く認識し関心を持っていた。

 筆者は、全酪連の「牛乳不正表示事件」発生時に、危機対応、経営刷新、組織風土改革運動、経営再建等を実践した経験があり、拙著(『コンプライアンスの理論と実践』(商事法務、2008年))7章では、その時の経験と日本ミルクコミュニティ(株)コンプライアンス部長の経験を基に、組織の危機管理について経営者の役割を中心に考察した。

 筆者の基本認識は、その時の考察と大きく変わらないので、今回は、まず当時の考え方を確認するところから始めたい。

 そのうえで、日本ミルクコミュニティ(株)の危機管理体制はどうだったのか、また、雪印乳業(株)と合併し雪印メグミルク(株)になったことにより得た知見と感想を基に、留意すべき危機管理の要諦は何かについて、更に考察する。

 

1. 危機管理に関する筆者の基本的考え方(『コンプライアンスの理論と実践』230頁~231頁)

  1.  「どれほど真摯にコンプライアンス強化に取り組んだとしても不測の事態は発生する。
  2.    企業は、危機発生前・危機発生時・危機収束後のそれぞれの組織状況に応じた危機管理の準備をしなければならない。
  3.    危機管理の最上の策は『危機の予防』であるが、そのために最も重要なものは、『経営者のマインド』である。
  4.    これは、アイアン・ミトロフによる「たまねぎモデル」でも指摘されている(アイアン・ミトロフ著(上野正安=大貫功雄訳)『危機を避けられない時代のクライシス・マネジメント』(徳間書店、2001年)67~72頁)が、要は、経営トップがリスク管理や危機管理の重要性を組織内に共通認識化し、組織文化にビルトインする努力をしなければ、担当部門がいくら重要性を叫び、シミュレーションを繰り返しても組織成員には伝わらず、危機の芽は見過ごされて成長し、組織は危機に陥るということである。
  5.    具体的には、経営トップは現場のマイナス情報がもみ消されない風通しの良い組織文化を作るために、自ら率直なコミュニケーションを行って範を示すとともに、減点主義の組織文化や専制的マネジメントスタイルに陥らないように自ら努力するばかりでなく中間管理職層にも徹底させ、従業員との信頼関係を構築する必要がある。
  6.    また、最悪の事態を想定した危機対応計画を策定し標準化(規定化、マニュアル化)するとともに、シミュレーションを実施する必要があるが、計画の最終決定に当たっては必ず経営トップが協議して決めなければならない。
  7.    その他に、平時から専門家のアドバイスを受けてメディアトレーニングを実施し、組織の意思が経営トップから社会にきちんと伝わるように準備しておく必要がある。
  8.    組織の存続に重大な影響を与える危機発生時には、経営トップは危機対策本部長として瞬時に大量の意思決定を行わなければならない。
  9.    具体的には、初期対応方針やポジションペーパーを策定するとともに、危機対応チームを任命し、記者会見が必要な場合には社長またはこれに準ずる経営トップ層のメンバーが記者会見を行う。
  10.    また、重要なステークホルダーへの対応も経営トップの役割である。
  11.    危機的事態が継続する場合には、全体の流れを見直し戦略的に対応する必要が出てくるので、その判断も経営トップが行わなければならない。
  12.    危機収束時には、経営トップは、事態の推移状況を判断し危機収束宣言を発して内外にけじめをつけるとともに、危機発生原因について組織のあり方の本質に迫った見直しを行い、再発防止のための改善策を実施する必要がある。
  13.    特に、組織文化に問題があり組織崩壊の可能性のある重大な危機から再生する場合には、経営者の強いリーダーシップの下に新たな理念やビジョンを呈示し、迅速・ドラスティックな組織文化の革新が全ての階層を巻き込んで実施されなければならない。
  14.    また、新たなビジョン・経営再建計画に組織一丸となって取り組んでいることを内外に訴え、ステークホルダーの理解と信頼の再構築のためにリーダーシップを発揮するのも経営トップの役割である。」

 これを執筆した当時は、経営トップが主導する不祥事が今日ほど頻繁に発覚していなかったが、今日これに付け加えるとしたら、いかにガバナンスを強化して経営トップの暴走を止めるのかというテーマについて、より考察を深める必要性があると考える。

つづく

 

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