◇SH1905◇チェックアンドバランスが機能するコーポレートガバナンス(6) 饗庭靖之(2018/06/14)

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チェックアンドバランスが機能するコーポレートガバナンス(6)

首都東京法律事務所

弁護士 饗 庭 靖 之

 

7 社内出身の取締役が取締役会で求められる役割を果たすことを阻害する要因の除去

 上述したような業務執行者を監督する義務は、社内出身の取締役も負うが、社内的に上下関係にあった者が、社長に対して監督権を行使できるかの問題がある。

 企業事業の財・サービスの提供を通じた企業価値の最大化を実現するために、社員を会社事業にどのように配置するかを決定する人事は、代表取締役などの業務執行者が、事業活動を進めるにあたっての最重要の経営判断事項の一つである。

 一方、社長以下の社員にとって、会社の業務に従事する中で自己実現をしていくうえで、自己が人事でどのような処遇を受けるかは重大な関心事である。したがって、人事の裁量権を持っている者に対して、その意向に沿うように行動することを強いられる状況が生まれると、人事権を有する者は、社員に対して支配権を有することとなる。社員が人事権者の意向に沿うように行動することと、人事権の行使とが無関係である保証がないとき、社員が人事権者の意向に沿うように行動することを強いられることとなる可能性は排除されない。

 会社の最も重要な人事は、代表取締役の後任を決めることと取締役会構成メンバーである業務執行取締役の人事であるが、株主総会への取締役選任議案の決定権は実質的に代表取締役にある。

 代表取締役が次期代表取締役や業務執行取締役などの会社の最も枢要な人事を実質的に決定することは、人事を通じてこれらの者を支配する可能性がある状況であり、その結果社内出身のこれらの者が中心となって構成される取締役会が、代表取締役を監督することは事実上困難となる可能性がある。

 「会社の業務執行の決定」と「取締役の職務執行の監督」は取締役会の職務であるが、取締役会が代表取締役に対する監督機能を事実上果たすことができなくなるおそれがある。

 取締役会が業務執行者に対する監督機能を十分に果たすためには、代表取締役に人事権を通じて影響される可能性がある次期代表取締役候補者や業務執行取締役などの業務執行者を取締役会から除くことが望ましいことになるが、次期代表取締役候補者や業務執行取締役などの業務執行者を取締役会から除くことは、取締役会が有すべき「慎重な合議による会社の業務執行の決定」という機能を弱めることとなってしまう。

 以上のとおり、監査役設置会社の取締役会は、「慎重な合議による会社の業務執行の決定」と「業務執行者の職務執行の監督」という矛盾した職務を行う要請をされているような困難を強いられているが、取締役会は、この両方の職務の遂行を調和的に実現しなければならない。そのためには、業務執行取締役やその候補者に対する人事権の行使によって、代表取締役の意向に沿うように行動せざるを得なくなる可能性を排除し、社内出身の取締役が代表取締役に従属しない関係性を構築する必要がある。そして、社内出身の取締役が代表取締役や社外取締役とともに同等の発言力を持って、取締役会において、実質的な合議がなされることにより、経営判断事項を決定するという経営機能と業務執行者への監督機能が確保されることが必要である。

 

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