◇SH2382◇企業活力を生む経営管理システム―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―(第14回) 齋藤憲道(2019/03/07)

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企業活力を生む経営管理システム

―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―

同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー

齋 藤 憲 道

 

第3部 さらなるリスク発見と対策が必要な分野
     例えば、「製品の性能・安全の問題」、「秘密情報流出」

 経理に関する不正や粉飾決算、株価に影響する経営情報を持つ内部者に関するインサイダー取引等については、会社法(旧商法)・金融商品取引法(旧証券取引法)等が頻繁に改正されて対策が行われた。

 営業が関わることが多いカルテル・入札談合については独占禁止法が改正されて規制が強化されている。

 しかし、製品の性能・安全性の問題、あるいは秘密情報(営業秘密・個人情報を含む)の社外流出等の不祥事に係る対策は、法律毎に検討されることが多く、総合的な経営課題として議論されることが少なかった。

 コーポレート・ガバナンス、内部統制等の考え方は既に整理され、これらを実践する仕組みもできたはずなのだが、現在も、設計・製造等の現場で長年続けられてきたルール違反に関する不祥事の報道が繰り返されている。

 本項では、開発・設計・製造・施工・情報システム等の部門で起きた製品や個人情報に関する不祥事に見られる共通的な対策(会社法・金融商品取引法以外)を整理し、従来の内部統制等の盲点や弱点を示す。

 なお、大きく報道された不祥事については、本項の後半で紹介する。

 

1. 共通的な対応策

 製品・サービスの性能・安全や、秘密情報の漏洩に関する過去の事故・事件(後述)及びその対策を筆者が並べて整理してみると、次の①~④のように、企業、第三者認証機関・行政機関、業界等において他種の不祥事にも応用できる共通的な対策が行われていることが分かる。

 これらの共通的な対策は、企業の監査を行い、あるいは企業不祥事の再発防止策を検討する際に、チェック・リストとして役に立つ。

  1. (注) この検討を行うには、複数の分野(経営工学、情報システム工学、商学、法学等)を総合した知見が必要になる。

① 企業が行う対策

1) 業務実施体制を充実・強化する。
  (技術水準を向上、技術陣容を強化、関係部門間の責任分担を明確化)

  1. 1  開発プロセスを改善する。(法規を守るプロセスを組み込む)
  2. 2  信頼性保証の仕組みを改善し、正しく運用する。

    1. ・ 品質保証関連規程を整備する。
    2. ・ 行政機関の認証等手続きと企業内の信頼性保証の仕組みを併せて、全体で改善する。
    3. ・ 施工管理体制を整備する。(法令に従って、専任技術者を設置、一括下請けを禁止)
    4. ・ 検査・計測の方法を簡易化してデータ記録を自動化し、人による隠蔽・改竄・他データ流用の余地を無くす。
    5. ・ 検査・計測する担当者の技術水準を確保する。
      (注) 製品が良品であるか否かを評価するためには、設計上の技術基準、検査方法、計量・検査機器、計量・検査する者の技術水準等が全て適切であることが必要である。

2) 業務の監視・チェック体制を強化する。

  1. ・「設計」と「製造、施工」の間で、連携と相互牽制を徹底する。
    適切な材料を、適量発注して、製品を完成させる。(設計の指示書から材料使用量を計算して発注する。)
    必要がある場合は、「設計」と「工事監理」の一括発注を禁止する。
  2. ・「施工業者」が行う自主チェックの信頼性には限界があり、チェック作業を「見える化」する手段を付加する。

3) 従業員等が意図的に(悪意で)行う製品安全に対する攻撃を防ぐ。

  1. ・〔ハード〕ICカードで入退場管理、監視カメラ増設、入退場時に手荷物チェック等  
  2. ・〔ソフト〕専任チームを設けて、職場に適した具体策を起案・実施
    (注) 食品の場合は、「フード・ディフェンス」の体制を構築する。

4) 市場クレーム受付時は、最悪の事態を想定して対応する。

  1. ・ 早期に察知し、迅速に対策する仕組みを作る。(同種のクレーム件数が□件を超えたら製品の不良・欠陥を疑う等)

5) 組織・人事・風土を変革する。

  1. 1  グループのガバナンス・危機管理体制(危機管理統括を設置等)を整備し、企業内の管理水準を高位平準化する。

    1. ・ 企業倫理委員会等を設置する。
    2. ・ グループ全体の情報セキュリティ管理体制を整備し、権限・責任を専門部署に集中する。
      (注) 情報セキュリティ強化のため、データ・ベースの保守・運用業務を全てグループ内に取り込む例もある。
    3. ・ 外部に、「自社の特定テーマ」を客観的に監視する機関を新設(又は、依頼)する。
    4. ・ 初動体制を整備する。(緊急時対応体制を予め定める。初期対応マニュアルを作成し、周知する。)
      (注) リコール・危険情報の周知を行うときは、「お客様相談窓口」の数(電話回線等)を最大限確保する。
       「連絡できない」ことが消費者の不安を増幅し、社会的問題になる例が多い。
    5. ・ 社外取締役を選任する。幹部に多数の外部出身者を起用する。
       
  2. 2  人事制度を変える。

    1. ・ 屋上屋を重ねる制度・組織・取り組みを、可能な限り、無くす。
    2. ・ 組織の「閉鎖性」「ブラックボックス化」を解消する人事制度にする。(定期の人事ローテーション等)
    3. ・ 事故・事件に関与した責任者・実行者を厳重に社内処分する。場合によっては、刑事告訴する。
    4. ・ 労務問題を改善して、従業員の不満を減少する。
    5. ・ 工場内で「上司-部下」「職場の同僚の間」の意思疎通を活性化する。
      社員の参画による風土改革:変革運動、社内意識改革、お客さまモニター制度を導入等。
  3. 3  社員教育、企業風土を醸成する。

    1. ・ 法令の「趣旨」を理解する教育を行う。
    2. ・ 重大な事故・事件の風化を防止する。(「○○事故の日」を制定する等)

6) ブランドの信頼回復を図るための広報を行う。(工場見学会の実施等)

 企業の対策は、「原点に立ち返って考える」ことを基本スタンスにして検討することが重要である。

  1.    近年、企業の商品企画・設計段階のミスや製造・工事現場における作業(計測を含む)ミスによる商品の安全問題が企業不祥事としてしばしば報道される。このとき、大半の企業が、「商品の安全性に問題はありません」とコメントする。
  2.    多くの場合、設計段階では強度・電圧・摂取量等に安全率(物理的な限界値÷使用上の最大値)を設けて安全側に余裕を持たせ、製造段階では材料・機械・作業者等が均質でないために生じる製品特性のバラツキに対して許容できる上限と下限を定めてその範囲内の製品を良品と判定しているので、実際の使用上における問題が発生する可能性はゼロ(又は「ほぼゼロ」)である。
  3.    企業間の部品・材料の取引においても、発注者が受入検査で不合格になった部品等を用いても完成品の品質には問題がないと判断して特別採用(特採)することがあり、取引契約の中にもこの特採条項が存在する。特採は、予定された取引条件であり、異常な取引ではない。
  4.    しかし、科学的根拠に基づいて定めた当初の技術基準を、一定の条件の下で、逸脱しても問題が無いからといって、実務において(勝手に)厳格な基準を緩めて運用するのは筋違いである。
  5.    技術や市場の変化に伴って求められる設計・製造の技術水準が変わった時は、原点に立ち返って、適用した基準を見直すのが本筋である。
    (注) 基準の見直しでは、適用する基準のレベル(必要以上に厳格な場合)を下げること、基準自体が陳腐化している場合はその設定権者(国、地方公共団体、第三者認証機関、業界団体等)に更新を求めること、等が考えられる。

 

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