◇SH2414◇公取委、「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律案」の閣議決定 松原崇弘(2019/03/20)

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公取委、「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律案」の閣議決定

岩田合同法律事務所

弁護士 松 原 崇 弘

 

 「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律案」(いわゆる、独占禁止法)が、平成31年3月12日、閣議決定された。

 改正案の基本方針は、事業者に対して、公正取引委員会の調査に協力するインセンティブを高める仕組みを導入し、事業者と公正取引委員会の協力による効率的・効果的な実態解明・事件処理を行う領域を拡大すること、また、複雑化する経済環境に応じて適切な課徴金を課せるようにすることにある。

 報道によると、改正案は、3月にも通常国会に提出される見込みとされている。以下、改正案の要点を概説し、法改正が成立した場合に、調査対象事業者に求められる自主的な調査、協力の在り方について紹介する。

 

1 改正案の要点

  1. ◦ 課徴金減免制度の改正

    1. ・ 減免申請による課徴金の減免がなされるとともに、新たに、事業者が事件の解明に資する資料の提出等をした場合に、公正取引委員会が課徴金の額を減額する仕組み(調査協力減算制度)を導入。
    2. ・ 減額対象事業者数の上限を廃止。
       
  2. ◦ 課徴金の算定方法の見直し
  3.   課徴金の算定基礎の追加、算定期間の延長等課徴金の算定方法の見直し。

     

  4. ◦ 罰則規定の見直し
  5.   検査妨害等の罪に係る法人等に対する罰金の上限額の引上げ等。

 

2 求められる自主的な調査、協力の在り方

⑴ より能動的な自主的な調査の実施

 まず、現行法の課徴金減免制度では、申請者数の上限が設定されている。他方、改正案では、減額対象の事業者数の上限が廃止されるとされている。

 具体的には、調査開始前で申請順位が6位以下の場合、現行法では減免されないが、改正案では申請順位に応じた減免率だけでも5%の減額が認められる。また、調査開始後であっても、現行法では減免が認められるのは、調査開始日前と合わせて5位以内で、かつ、最大3社に限られるが、改正案では、それ以外であっても、減額が認められる(以上につき、下記図参照)。

 改正案では、減額対象の事業者数の上限が廃止されることで、全ての調査対象事業者に自主的な調査協力の機会が与えられることになるため、調査対象事業者としては、課徴金の減額を受けるため、後順位であっても、積極的に調査協力が行われることが見込まれる。

⑵ 提出証拠の一層の充実に向けた取組み

 次に、改正案では、調査への協力度合いに応じた減算率が適用されること、事業者による協力の内容と公正取引委員会による減算率の付加について両者間で協議することが予定されていることの2点が重要な改正点である。

 現行制度では、申請順位に応じた減免率のみが設定されているため、減免率に、事業者の実態解明への協力度合いが反映されない。

 他方、改正案では、①減免申請の順位による課徴金の減免に加えて、②調査協力減算制度として、事業者が事件の解明に資する資料の提出等をした場合に、公正取引委員会が課徴金の額を減額することとされている。そして、後者の②調査協力減算制度の減算率は、調査開始前で最大40%、調査後でも最大20%を予定しており、前者①申請順位に応じた減免率よりも、後者②協力度合いに応じた減算率の最大値の方が、減額率が高い(下記図参照)。

 具体的に検討すると、調査開始前で申請順位が3位の場合、現行法では減免率は30%であるが、改正案では、協力度合いによる減算率次第で、最大で50%の減額になり得る。また、調査開始前で申請順位が2位の場合、現行法では減免率は50%であるが、改正案では、協力度合いによる減算率次第で、最大で60%の減額になり得るものの、協力度合いが低いと評価された場合には、現行の減免率の50%を下回る可能性がある(最低で20%の減額に留まることもあり得る)。

 したがって、改正案による改正が施行されれば、調査対象事業者としては、上位での申請に加え、高い協力度合いによる高い減算率を得られるよう、公正取引委員会に対し、短時間で、実態解明に資する証拠を提出する必要性が一層高くなることが見込まれる。

 以上の⑴⑵より、改正案による改正が施行された場合においては、不当な取引制限が発覚したときの危機管理のあり方として、迅速かつ充実した社内調査が行えるよう、法改正前よりも一層のリソースが必要になることを理解しておく必要があろう。

 

 〔現行法と法改正後の比較〕

※調査開始前と合わせて5位以内である場合に適用
(公正取引委員会資料[1]から再構成)

 

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