◇SH3369◇中国:深セン市が全国初の個人破産条例を可決(下) 川合正倫(2020/11/05)

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中国:深セン市が全国初の個人破産条例を可決(下)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 川 合 正 倫

 

4. 破産手続が開始したら、どのような義務が課される?

 破産手続に入った債務者は、直ちに本人及び配偶者、未成年子女の財産状況等を申告し、かつ破産申立受理日から2年間、財産変動を申告しなければならない等の制限を受ける(個人破産条例33条、34条、35条)。

 また、破産債務者は、破産申立受理日から残債務の免除裁定日までの間(免責観察期間より長い期間)、次の義務を負う(個人破産条例21条)。

  1. ① 裁判所、破産事務管理部門[1]及び管財人の要求に従い、資料及び追加資料を提出し、調査に協力すること
  2. ② 債権者会議に出席し、債権者の質問を受けること
  3. ③ 債務者の氏名、連絡先、住所等個人情報に変更がある時又は住所地を離れる必要がある時は速やかに破産事務管理部門、管財人に報告すること
  4. ④ 裁判所の許可なく出国しないこと
  5. ⑤ 期限通りに裁判所、破産事務管理部門に破産申立、財産及び債務状況、重整計画又は和解協議、破産期間の収入及び消費状況等を含む個人破産重大事項を登記し、申告すること
  6. ⑥ 1千元(約1万6千円)以上の借入又は与信限度額を取得する場合、貸出人又は亜与信付与者に破産状況を自ら表明すること
  7. ⑦ 裁判所、破産事務管理部門及び管財人に協力し破産手続に関するその他業務を行うこと

 なお、免責考察期間中、破産債務者は、毎月定期的に破産事務管理部門の破産情報システムにて個人収入、支出、財産等状況を登録しなければならない(個人破産条例99条)。

 

 さらに、債務者の配偶者、子女、共同生活する親族、財産管理人等の利害関係人も裁判所、破産事務管理部門又は管財人による調査に協力する義務を負う(個人破産条例22条)。債権者、その配偶者、親族が上記の義務に違反した場合、法的責任を追及される(個人破産条例168条)。

 

5. 免除を受けられない債務の有無?

 債権者による債権放棄が行われる場合を除き、以下の債務は免除の対象とならない(個人破産条例97条)。

  1. ① 故意又は重大過失による他人の身体権又は生命権への侵害による損害賠償金
  2. ② 法定身分関係に基づく養育費、扶養費等
  3. ③ 雇用関係に基づく報酬請求権及び前払金返却請求権
  4. ④ 破産債務者が認識しながら債務リストに記載されていない債権(債権者が破産宣言を明らかに認識している場合を除く)
  5. ⑤ 悪意の不法行為による財産損害賠償金
  6. ⑥ 未払税金
  7. ⑦ 違法や犯罪行為による過料、罰金等
  8. ⑧ 法に従い免除できないその他の債務

 

6. 債務免除を受けられない可能性はある?

 破産債務者は次のいずれかに該当する場合、残債務の免除を受けることができない(個人破産条例21条、23条、33条、34条、35条、86条、98条)。

  1. ① 債務者の消費制限に故意に違反した場合
  2. ② 債務者の就業制限に故意に違反した場合
  3. ③ 債務者が遵守すべき義務に故意に違反した場合
  4. ④ 財産の報告義務に故意に違反した場合
  5. ⑤ 贅沢消費、賭博等の行為によって、重大な債務を負担し又は財産を著しく減少させる場合
  6. ⑥ 秘匿、移転、損害、不当処分その他不当に財産価値を減少する場合
  7. ⑦ 財産状況に関連する帳簿、証憑、文書類その他物品を隠匿、偽造、改造、破棄する場合
  8. ⑧ 法に従い免除できないその他の状況

 

7. まとめ

 個人破産条例は、深センをかわきりに他の地域でも制定されるものと考えられるが、深センにおける運用が参考とされるものと思われるため、本条例の実務運用について注視する必要がある。

 

以上



[1] 個人破産案件は深セン市中級人民法院が管轄するとされているが、個人破産条例施行後、個人破産案件が大幅に増加した場合、裁判所だけでは対応が困難であることが予想されるので、個人破産事務の行政管理職能は深セン市人民政府が定める作業部門が破産管理行政機構として行使することになった。どの政府部門が破産事務管理を担当するのか、裁判所と破産管理行政機関がそれぞれどのような権限を持つのかについては、法令動向に注目する必要がある。

 

 


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(かわい・まさのり)

長島・大野・常松法律事務所上海オフィス一般代表。2011年中国上海に赴任し、2012年から2014年9月まで中倫律師事務所上海オフィスに勤務。上海赴任前は、主にM&A、株主総会等のコーポレート業務に従事。上海においては、分野を問わず日系企業に関連する法律業務を広く取り扱っている。クライアントが真に求めているアドバイスを提供することが信条。

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