◇SH2426◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(150)日本ミルクコミュニティ㈱のコンプライアンス㉒ 岩倉秀雄(2019/03/26)

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コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(150)

―日本ミルクコミュニティ㈱のコンプライアンス㉒―

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、日本ミルクコミュニティ(株)の内部監査について述べた。

 初年度は、会社設立に伴う大混乱が発生していたので、2003年1月1日~3月末日までの3ヵ月間に対して、内部監査テーマを「会社の理念・方針の理解と浸透状況」、「業務遂行体制の構築状況と課題」、「規則等の周知をはじめとする業務管理の適正状況」、「業務の効率性・合理性の状況」に絞り、32部署に対して実施した。

 その結果、会社の理念・方針は本社各部では概ね理解されていたが、事業部では理解・浸透が不十分であり、業務執行体制の構築は、本社の部で一部整備されていたが事業部との連携は不十分だった。

 一方、事業部では、混乱への対応に追われ、債権管理等の業務管理体制ができておらず、本社のロジスティクス部門・システム部門・財務部門では時間外労働が長時間に及び故障者も出ていたので、その改善を指摘した。

 その後、日本ミルクコミュニティ(株)は、設立時の大混乱により債務超過の危機に陥り、2003年11月には、社長以下役員の大幅交代が行われた。

 新社長は、就任の記者会見で、赤字脱却のための構造改革プランを発表し、その推進のために、「実力主義」と「現場主義」の方針を打ち出した。

 そこで、2年度目の内部監査では、全国59部署に対して構造改革プランの進捗状況と方針の周知徹底について確認・検証することにした。

 内部監査の結果、業務管理の適正率は前年度に比べて向上したが、滞留債権の回収は不十分だったので、その早期回収と(労働法の改正を踏まえて)残業の削減を全社的に指摘した。

 構造改革プランについては、全部署が業務計画にブレークダウンして取り組んでおり、計画を大幅にクリアーしていた。

 全ての現場で「実力主義と現場主義」のスローガンを掲示し、所属長から従業員に対する説明も行なわれていたが、標語への共感はあるものの内容に対する統一的イメージは伝えきれていなかった。

 経営幹部が現場に出向く「現場主義」は頻繁に行なわれ好感を持たれていたが、現場の意見を吸い上げ現場の活力を活かす本来の「現場主義」は十分に行なわれているとは言えなかった。

 今回は、日本ミルクコミュニティ(株)の設立時の混乱について考察する。

 

【日本ミルクコミュニィティ(株)のコンプライアンス㉓:会社設立時の混乱①】(『日本ミルクコミュニティ史』180頁~183頁)

 既述したが、日本ミルクコミュニティ(株)は、雪印乳業(株)グループのの不祥事をきっかけに、全農、全酪連、雪印乳業(株)、農林中央金庫が出資して、雪印乳業(株)の市乳部門、全国農協直販(株)の全体、全酪連の乳業子会社であるジャパンミルクネット(株)の市乳部門が、約6ヵ月という極めて短い準備期間で、昨日までのライバル関係を超えて合併した市乳統合会社である。

 設立準備委員会では、準備期間の不足に対する懸念の声が上がっていたが、設立時期を延ばすことは、雪印乳業(株)の経営破たんを早めることにつながることから、会社の設立は当初予定通りの期間で行われたが、会社が動き出すと、懸念は現実のものとなった。

 

1. スタート時の混乱

 アイテム数の削減が設立準備委員会で議論になり、削減を主張したロジスティクス部門が、得意先との関係からアイテム維持を主張する営業部門に押し切られたことは既述したが、実際に会社が稼働し始めると、これが大きな問題になった。

 3社分の商品を統合物流拠点から配送するためには、納入アイテムの決定、取引先口座の統合、配送コースの統合を短期間に実施し、マスターに登録しなければならなかったが、互いに他社取扱商品に関する知識が無い上にシステムに対する習熟も不十分で、更に関係先に周知徹底できなかったこと等から、登録ミスと商品供給トラブルが全国的に多数発生した。

 牛乳では、新会社が新たに開発し主力ブランドに育てたい「メグミルク牛乳」の全国的なCMキャンペーンを、会社設立前から実施していたために、予想を超える大量の注文が殺到し、これが混乱に拍車をかけた。(特に、関東、中部、関西、九州では、配送遅延と欠品のトラブルが頻発した。)

 主力商品の牛乳のブランドは、旧3社の既存ブランドである「雪印牛乳」、「農協牛乳」、「全酪牛乳」に加え、新発売の「メグミルク牛乳」、地域における「産地限定牛乳」、大手流通各社のPB(プライベートブランド)牛乳やWB(製造者と販売者の記載されているダブルブランド)牛乳が多数あった。

 準備段階では、新会社としての新規コード登録、生産・物流体制の整備等の準備を進めてきていたが、3社の物流管理システムの統合がスタート時に間に合わず、一部は旧システムを継続使用しながら1月15日の統合を目指した。

 この並行稼働でシステムの連携に不備が生じ、想定外の負荷と要員不足から、受発注ミス・出荷ミスを頻発させ、営業、生産、物流、情報システム、財務・経理部門ではマンパワーの限界を超え、心身に支障をきたす者も出た。

 営業は、新会社のスタート時からトラブルによる遅配・欠品のお詫びと販売休止商品の案内に追われ、生産部門は、工場の生産能力を超えた地域の物量を確保するために、他地域の工場からの緊急供給に忙殺された。

 また、最も混乱したロジスティクスセンターや物流拠点における要員不足に対しては、本社及び他事業部から応援に駆け付けて対応した。

 本社では、「本社商品供給危機管理委員会」を設置し、その下に4部連絡委員会(営業企画部、ロジスティクス部、情報システム部、生産技術部)を設けて、全事業部の朝夕の状況を把握し、対応策を協議・実施した。

つづく

 

トラブル発生要因(『日本ミルクコミュニティ史』183頁を筆者が簡略化)

 

 

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