企業活力を生む経営管理システム
―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―
同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー
齋 藤 憲 道
1. 企業規範の4つの層 各層の内容と制定責任者
(2) 第2層(方針)
2)「決裁規程」で、経営の意思決定プロセスと組織責任者への権限委譲の範囲を示す。
- (注)「決裁規程」自体は、取締役会が決めるべき事項である[1]。
取締役会は、社長その他の役職者・組織責任者に付与する決裁権限と責任の範囲を「決裁規程」で明らかにして、社内に周知する。
決裁規程では、決裁事項ごとに個々の案件の重要性を勘案して、最終決裁権者(特に重要な事項及び法定事項は取締役会)を定め、かつ、関係部門の合意[2]を要する事項を定めて、経営における意思決定のプロセスを明らかにする。
1件の決裁にどの範囲まで含めるかは、事業の実態を考慮して会社ごとに決める。
- (注1) 工場建設の場合、そのプロジェクト全体(例えば、土地50億円、建物100億円、機械装置300億円、従業員100名等)を「方針決裁」とし、土地・建物・機械装置等の購入を個別の「実施決裁」とする例もある。
- (注2) 定型業務については、厳格な内部牽制システムが構築されていることが多い。この場合は、そのシステムを稼働させることを含め一括して1件として決裁し、そこで処理される個々の案件の上限(金額等)を定めて、その範囲内であれば案件毎の決裁を必要とせずに運用することが考えられる。
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(注3) 重要性を評価する際に考慮する要素の例
法律に抵触する可能性がある案件か否か、1年間に発生する件数、その業務の定型化の程度、支出金額の大小・自社の負担能力の程度・支払方法(1回か、複数回分割か)、将来への影響(収支・資金、市場競争、ブランドイメージ、技術展開、取引関係等)の大きさ、実施段階における内部牽制の強さ・内部監査の実効性の程度
経営判断の結果(可決・否決・保留、合意者の意見等)は、記録(通常は、決裁願への押印・電子スタンプ、及び意見付記)して保管される。
決裁願は、決裁規程に定めた最終決裁権者が決裁し、「可決」案件を起案者が実施する。
次に、決裁規程の主な内容を示す。
- ⑴ 決裁願の作成・提出に関する事項(例)
- 1 起案部門
- 2 書式(記載事項:目的、実施事項、金額、時期、効果等)、添付書類
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3 回付手続き(差戻しの場合を含む)
合議者の合議印(実施上の条件があれば、それを付記する)、最終決裁権者の決裁印
(注) 近年は、書面の決裁願に押印する例が減少し、コンピュータ・システム上で決裁入力する例が多い。 -
4 決裁願の管理事務(管理責任部署を明らかにして、管理する。)
受付、受付番号付与、回付、決裁の可否通知(代理決裁・事後承認の扱いを含む)、保管決裁後の修正(周囲の状況変化に対応)、実施結果の報告
- ⑵ 決裁事項(例)
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1 資産の取得・仕入、譲渡・販売、除却・廃棄
固定資産(土地、建物、構築物、機械装置、車両運搬具、工具器具備品等)
棚卸資産(商品、仕掛品、原材料)
無形固定資産(知的財産<発明、考案、植物新品種、意匠、著作物、商標、商号、営業秘密、ソフトウェア等>等) - 2 会社・支店・出張所の設立(国内、海外)
- 3 組織変更 (注) 重要性に応じて決裁権者を定める。
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4 経営計画の決定 (注) 会社経営の基本事項を決める全社計画は、取締役会で決議する。
年間経営計画(開発、設備投資、在庫、商品別の販売・利益、採用、資金の調達・社内配分・運用等) - 5 採用、人事異動(役職任命、配属、昇進・昇格を含む)、処分、解雇
- 6 研究開発テーマの設定・変更・廃止
- 7 資金調達の決定・変更(増資、社債発行、借入金の増減等)
- 8 金融機関との新規取引、取引停止
- 9 契約の締結
- 10 決算の確定(グループ連結・当社単独・事業部門の決算。年度・半期・四半期・月次の決算。)
- 11 債権放棄、寄付行為
- 12 第三者への保証、担保設定
- 13 紛争の解決(訴訟の提起、応訴、和解、賠償金の支払、司法取引、ADR上の和解等)
- 14 広報
- 15 宣伝
- 16 官公庁への提出・届出(税務申告、有価証券報告書、独占禁止法の課徴金減免制度の適用、他)
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17 社内規程の制定・改廃
(注) 各職能の働き方は事業に影響を及ぼすので、通常、取締役会で決議する。
例)取締役会規程(取締役会で定める)、人事規程、経理規程、品質管理規程、商品事故防止規程、情報システム規程、情報セキュリティ管理規程、個人情報保護規程、リスク管理規程 他 - 18 その他の事項
[1] 決裁規程の中の「取締役会に付議すべき事項」は、会社法362条4項「取締役会は、次に掲げる事項その他の重要な業務執行の決定を取締役に委任することができない。」の中の「その他の重要な業務執行」に該当すると考えられる。
[2] 経理・人事・法務等のスタッフ部門であることが多い。