◇SH2441◇法務担当者のための『働き方改革』の解説(28) 上﨑貴史(2019/04/01)

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法務担当者のための『働き方改革』の解説(28)

長時間労働の防止策

TMI総合法律事務所

弁護士 上 﨑 貴 史

 

XIV 長時間労働の防止策

1 はじめに

 2019年4月1日(一定の中小企業は2020年4月1日)より、時間外労働・休日労働の上限規制を法定化する改正労働基準法が施行される。改正後の上限規制の内容は、原則として時間外労働を月45時間/年360時間以内とし、年6回までを限度とする特別条項の適用月においては例外的に時間外・休日労働の合計を複数月平均80時間以内かつ単月で月100時間未満とするものである。改正法の施行により、労働基準監督署による取締り強化も見込まれるため、各企業における長時間労働の是正策の実行は急務である。

 本稿では、各企業で導入されている長時間労働の是正策について紹介したい。

https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2019/03/000332869.pdfより

 

2 全従業員の意識改革のための措置

 長時間労働防止のための改革に向けて、社長や経営層が全従業員宛てに「長時間労働禁止」を掲げたメッセージを発信したり、全従業員向けの長時間労働是正に関する研修を実施するといったケースがある。長時間労働を美徳とし、働き方改革をどこか「他人事」と捉える旧態依然とした意識・風土が残っている企業は少なくない。こうした意識・風土は、下記の各種是正策の実行における根本的な部分で大きな障害となる。そのため、後述のような具体策の前提として、社長によるメッセージ配信等により、「会社の風土が変わった」という意識を全従業員に浸透させるための対策も重要となる。

 

3 労働時間のモニタリング及びアラート

 労務管理の担当部門や各部門の上長(管理者)が、システム上で従業員の労働時間記録を随時モニタリングし、上限規制に抵触する労働者について適時にアラートが発出される仕組みの導入は、違法な長時間労働発生防止のための直接的な対策となる。例えば、システム上で、時間外労働月45時間(特別条項適用月には時間外・休日労働月80時間など)の超過前に、自動的に管理者にアラートが発出される、限度時間に達した場合には時間外労働・休日労働を禁止する旨が随時通知されるといった仕組のほか、特別条項の適用限度回数なども管理・チェックできる仕組みを構築することが考えらる。

 

4 違法な長時間労働と管理者に対する不利益な評価又は懲戒処分

 管理者に対する人事考課において「部下に違法な長時間労働が発生した場合」を不利益に評価するケースもある。こうした不利益な取り扱いにより、管理者自身が積極的に当事者意識をもって違法な長時間労働の防止に取り組むことが期待される。

 また、一歩進んで、部下に違法な長時間労働を行わせたこと(特にサービス残業の強要のような悪質なケースなど)を懲戒事由とし、該当する管理者に対して懲戒処分を実施するケースもある。但し、当該管理者の属する部門に与えられた業務量からして、部下に違法な時間外労働を行わせたこともやむを得ず、管理者個人の責任を追及することが不相当と考えられる事案も想定されるところであるため、懲戒権の濫用とならないよう、ケースバイケースでの適切かつ相当な判断が必要となる。

 

5 サービス残業の発生防止のための措置

 上記のようなモニタリングや長時間労働を放置する管理者に対する不利益な評価は、いわゆるサービス残業のような記録に残らない形での時間外・休日労働の発生を誘発するリスクがある。そこで、こうした隠れたサービス残業の抑止のために、以下のような防止措置が考えられる。

 (1) 管理部門による抜き打ち監査

 管理部門が不定期で各現場を抜き打ち監査し、現場状況や記録の確認、ヒアリングを実施して、サービス残業の有無をチェックする。実際に抜き打ち監査が実施されることが周知されれば、それ自体がサービス残業発生の抑止にもつながる。

 (2) 内部通報窓口の設置

 内部通報窓口を設け、従業員からのサービス残業等の通報を求める。但し、サービス残業を強要されるような場面では内部通報自体も抑止されている可能性も十分に考えられるため、従業員からの自発的通報に過度に頼らないよう留意する必要がある。

 

6 長時間労働が評価される人事評価制度の見直し

 長時間労働(時間数)が人事考課において肯定的に評価されるような評価制度の存在は、当然ながら長時間労働削減の障害となる。労働基準法の労働時間規制の下において求められているのは、限られた上限規制の中で、如何に効率的に成果を生み出せるか、という点である。そのため、難しい問題ではあるが、長時間の労働自体が評価されるような評価制度となっている企業においては、効率性を重視した評価制度への見直しを検討することも考えられよう。

 

7 おわりに

 そのほか、22時の一斉消灯やPCの強制シャットダウン、勤務間インターバル制度の導入など、長時間労働防止策は様々なものがあるが、「働き方改革」時代における各企業の組織の在るべき姿に向け、各企業が、強い意志をもって、それぞれの実態に応じた実効的な対策を検討し、実行していくことが求められている。

 

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