◇SH2443◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(152)日本ミルクコミュニティ㈱のコンプライアンス㉔ 岩倉秀雄(2019/04/02)

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コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(152)

―日本ミルクコミュニティ㈱のコンプライアンス㉔―

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、スタート時の混乱への対応と経営への影響について述べた。

 日本ミルクコミュニティ(株)は、設立時の混乱を乗り切るために、情報の一元化と課題の進捗管理を行う「本社商品供給危機管理委員会」(1月14日から「本社安定供給対策委員会」に改称)を立ち上げ、その下に、事業部の状況を把握し課題について協議・調整・決定を行う「4部連絡協議会」を設けて、連日対応に当たった。

 特に、大きなトラブルが発生した関西地区と中部地区では、本社・他事業部からの応援派遣だけでは対応できず、旧3社の退職者や関係会社にも応援を依頼した。

 社長は、連日の緊急対応について、従業員にメッセージを発信して協力を呼びかけるとともに、労働組合に対しても「緊急対応に伴う勤務体制について」を提出して協力を要請した。

 その結果、トラブルは徐々に解消し、1月22日開催の「本社安定供給対策委員会」では「全体的に混乱が収束傾向にある」との認識が示された。

 しかし、スタート時の混乱の経営への影響は大きく、混乱収束後の2003年度上期の実績は、売上高1,136.5億円(予算比91.1%)、経常利益▲77.5億円、当期利益▲75.8億円となり、債務超過の危機が高まっていた。

 10月の売上高も予算比94.5%に留まったことから、11月に臨時株主総会及び取締役会が開かれ、会社設立後1年も経ずに、社長以下10名の常勤取締役の退任が決議され、経営執行体制が大幅に変更された。

 経営の継続性を維持するために小原實専務が代表取締役社長に就任し、非常勤の社外取締役が留任、関東事業部長が執行役員として残った他、メインバンクである農林中央金庫出身の代表取締役専務が交代、全農酪農部次長が常務取締役に就任し、10名の常勤取締役を3名に削減して経営再建に取り組むことになった。

 今回は、新執行体制の下に実施された構造改革について考察する。

 

【日本ミルクコミュニティ㈱のコンプライアンス㉔:構造改革①】
(『日本ミルクコミュニティ史』215頁~216頁及び455頁~462頁)

 新執行体制が決定した翌日の2003年11月21日、小原新社長は記者会見を開き、新執行体制、上期実績、構造改革プランについて説明するとともに、構造改革プランを推進するに当たり社員に徹底することとして「実力主義」と「現場主義」の社長方針を掲げた。

 構造改革プランは、当初計画の大幅未達という現実を踏まえ、売上増に頼らず現状の売上で、利益率を改善し費用率を低減することにより利益が確保できる事業構造を構築しようとするもので、2005年度に単年度黒字化、2008年度に累積債務の解消を目指した。

 日本ミルクコミュニティ㈱の存続は、構造改革プランを成功させることができるか否かにかかっていた[1]が、その具体策は以下の通りである。

1. 基本施策

  1. (1) 生産・物流体制の再構築
  2. ① 売上規模に見合う工場の再編・統合
  3. ② 物流デポの整理・統合等によるロジスティクス費用の大幅削減
  4. ③ 不採算アイテムの整理(1,900アイテムを1,000程度に絞り込む)と内製化の促進
     
  5. (2) 中期営業政策の確立
  6. ① 重点チャネルと縮小・撤退チャネルの選別
  7. ② チャネル戦略と連動した重点カテゴリー・商品戦略の構築
  8. ③ 商品構成及び宣伝促進費の適正化
     
  9. (3) 経営体質の強化
  10. ① 中期要員政策(2008年までに退職者不補充による総員370名の削減)
  11. ② 資材費・管理費等あらゆるコストの見直し・削減
  12. ③ 収支管理の徹底

 なお、構造改革プランと当初の中期経営計画(MC05)との関係は、目指すべき企業像[2]はMCO5と変わらないものの、想定した経営状況に大きなかい離が生じたことから、取り組むべき喫緊の課題と対策を提示したものである。

 すなわち、構造改革プランの位置づけは、MC05のうち①お客様との新たな信頼関係の構築、②事業基盤の確立、③求心力の構築についてはMC05の基本方針を継承しながら現状を踏まえた施策に見直して実行するとともに、④経営基盤の確立を構造改革プランの施策に置き換えるものであった。

 

2. 構造改革プランの推進体制

 2004年1月1日、構造改革推進のために経営企画部に専任部署として構造改革推進グループを新設するとともに、財務部財務課の機能を同部に移し、経営計画の推進と進捗管理の一体化を図った。

 構造改革プランの進捗状況は、構造改革委員会を毎月開催、全国の支店・営業所、工場、事業部から提出された構造改革進捗報告書及び事業部別会議から抽出した本社担当部署による管理事項への取組状況について事務局に報告した他、構造改革委員会で確認した内容を、毎月開催の経営会議に報告した。

 また、2004年度の業務計画は構造改革の実行を数値化して各部門の計画に直結させて人事評価に反映させた。

(つづく)

 

表.構造改革プランによる収支計画

(単位:億円)
年 度 売上高 経常利益
2003年度 2.315 ▲132
2004年度 2,345 ▲43
2005年度 2.268 25

※『日本ミルクコミュニティ史』215頁より



[1] 2004年1月発行の社内報5号のインタビューで、「もしこのままの状態が続けば、会社はどのようになりますか」というインタビュアー(若手女性社員)の質問に、小原社長は「債務超過に陥ってしまいます、債務超過は即倒産ではないが、累積赤字が自己資本を上回り、返済の見込みのない借入金が発生してしまう状態です。……通常の会社であれば倒産や法的整理の対象になります。現在当社は株主のご理解の下で事業を継続している状態であり、だからこそ早急にコストダウンなどを図って利益の確保できる事業構造に転換する必要があります。そのために早急に新しい執行体制への移行と、構造改革プランを断行する必要があったのです。」と答えている。(『日本ミルクコミュニティ史』216頁)

[2] 中期経営計画(MC05)では、2005年度に達成すべき企業像を「ミルクコミュニティに参加数する全ての人々と新しい信頼関係を築き、21世紀にふさわし市乳会社として成長の基盤を確立します」とし、中期経営目標を、①お客様との新たな信頼関係の構築、②事業基盤の確立、③求心力の構築、④経営基盤の確立とした。

 

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