◇SHR006◇冒頭規定の意義―典型契約論―【6】 契約法体系化の試み 浅場達也(2017/08/19)

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冒頭規定の意義
―典型契約論―

2 契約法体系化の試み

みずほ証券 法務部

浅 場 達 也

 

 周知のように、現行民法典は、各則の中の共通の規律を括り出して総則とする「パンデクテン体系」を採用している。しかしパンデクテン体系は、抽象的な「総則」が前に置かれているために、一般国民にわかりにくく、また、実際の事案に対応する場合に、関係条文が散在してしまう等の不備が指摘される。このため、パンデクテン体系とは異なる、「民法の体系化」の提案として、いくつかの考え方が提示されている。主な考え方として、次の2つが挙げられよう[1]。第1が、北川善太郎博士の「「問題」を中心とする機能的体系としての「開かれた体系」」であり、第2が、広中俊雄博士の「市民社会の基本的諸秩序を踏まえた上での、実質的意義における民法の体系化」(「総論」「人の法」「財産の法」「救済の法」[2])である。

 これに加えて、契約法の領域についてみれば、1990年代以降、内田貴教授、大村敦志教授、山本敬三教授、中田裕康教授、平井宜雄教授等の論稿[3]により、現代における契約法の在り方が活発に議論されてきた。これら論稿は、「意思自律」を基本とする古典的契約像を相対化し、現代的な契約法の問題状況に対応することを通じて、契約法という領域における一定の(新たな)体系化を模索してきたともいえるだろう。

 ここでは、本稿の視点からみたときに、承継すべきものを多く含んでいると考えられる北川善太郎博士の見解を検討することにしよう。そして、これまでの検討を踏まえた、本稿の視点からの「契約法体系化」を試みることにしたい[4]

 

Ⅰ 北川善太郎博士の契約法体系の特徴

 まず、北川善太郎博士の契約法体系の特徴を概観しておこう。本稿のこれまでの検討を踏まえると、次の3点が重要であると考えられる。

 

1. 「問題」を中心とする機能的体系

 第1の特徴として、北川博士の体系は、何よりも「問題」を構成要素として体系を構築しようとしたことが挙げられる。北川博士は、「『概念』より『問題』へ[5]」と題する箇所において、次のように述べる。

 

「(パンデクテン体系では)同一の事実経過が体系的には全く別の法分野に分けて規制されている。そのために、問題によっては体系のあちこちで分断して扱われることになる。[6]
「――法体系のあり方について発想の転換が必要であろう。そのための方法として、法体系が法概念より構成されていると考えないで、それは、無数の問題(たとえば、商品の安全性、債権担保、取引規制)とその法的解決のための対応からなると解する立場が考えられる。そこでは、問題とその解決のための法的対応(損害賠償、行政処分等)とが体系の構成要素となっている――。法概念は問題と対応との相互関係を知るさいに重要な役割を演ずるが、法概念自体はこの体系ではワキ役である。[7](下線は引用者による)

 

 北川博士は「問題」の例として、「商品の安全性」「取引規制」「契約当事者[8]」「生産物責任[9]」等を挙げている。これら「問題」に対応した規律は、(民商法を含む)私法のあちこちに散在している。従って、北川博士の「体系化」とは、「問題」を中心として、「私法のあちこちに偏在している契約法制度を統一的にまとめ顕在化しようとする[10]」試みである。

 

2. 諸法横断的な視点

 北川博士の「体系」の第2の特徴として、「諸法横断的な視点」が挙げられよう。北川博士は、契約書(例えば中古車の売買基本契約書)を素材として、契約法の体系化を検討するが、その検討によって作成された「契約法の体系一覧[11]」を見れば明らかなように、契約に関連する21の項目(「契約の意義と機能」「契約の成立」「契約の類型」「契約の当事者」「契約債務」等々)それぞれについて、民法の関連条文、商法の関連条文、民事訴訟法他の関連条文を抜き出して、一表としている。

 もう少し詳細にみると、商法関連では、商法総則・商行為法、会社法関連では、会社法・有限会社法(当時)、手形関連では、手形・小切手法、民事手続関連では、民事訴訟法・会社更生法・破産法等の条文が参照されている。これは、「私法のあちこち」[12]との記述の中の「私法」という語に示されるように、北川博士の想定する体系の法律の対象が「私法全体」に亘っていたことを示しているといえよう。

 「問題」を中心に考える以上、民法のみに法律の対象を限定するのでなく、関連諸法まで検討対象を広げるのは、極めて自然なことであろう。北川博士は、私法分野全体を「問題」への対応を模索する対象として考えていたと思われる[13]

 

3. 素材としての契約文例

 第3の特徴として、北川博士が、検討の素材について、極力、具体的な契約文例を参照しようとしていたことが挙げられる。

 『現代契約法Ⅰ』の「中古車の売買基本契約書[14]」、『現代契約法入門』の「株価ファイルの提供に関する約定書[15]」等の契約例は、それぞれのすべての条項を(おそらく省略することなく)転載しており、北川博士が、契約書の個別具体的な条項を一義的・一体的な素材として捉えていたことを示している。

 これも、契約法の「問題」を中心に考える以上、その素材は個別具体的な契約条項たるべきであるという考えから来るのだろう。契約文例を素材の基本と考えていたことは、次のような契約書作成を重視した記述に繋がるだろう[16]

 

「そこで、――流通経路における契約の利用の検討と密接に関連するが、研究分野としての契約書論ないし契約書作成の基礎理論を考える余地がある。」(下線は引用者による)

 

 この記述は、契約書の具体的な条項を意識した上で、「契約書作成」をどのように行うかを理論化する方向を示している。次の記述も同様である[17]

 

「ただ、学問的体系にもとづいた民商法典のあちらこちらに点在する論点を効率的におさえてそれぞれの分野で契約法の解釈論を立て、あるいは、契約書作成のさい逸すべきでない問題点を理解したり、紛争にさいして契約条項をめぐる法律論をさぐるには、分解された契約法でなしに統一的な契約法をまたねばならない。」(下線は引用者による)

 

 ここでも、北川博士は、「契約書作成のさいに逸すべきでない問題点」を把握することの重要性について言及していた。 

 

Ⅱ リスクの高低による体系化

1. 基本的考え方

(1) 北川善太郎博士の体系の特徴を踏まえて

 上で検討した北川博士の体系の3つの特徴それぞれに対応する考え方として、本稿では、次の3点が重要であると考えている。

ア リスクの高低による体系化
 北川博士は、「問題」を中心に体系化を考えたが、契約書作成者にとっては、さまざまな「問題群」の中でも、自らに関連するリスク(=自らに何らかの制裁が課される可能性)を検討することの重要性は特に高いと考えられる。「小括」の3. で、「契約各則における優先順位」を検討したが、それらは同時に、「体系における重要性」であるといえよう[18]

 「リスクの高低による体系化」は、何よりも、契約書作成者にとっての「実用性」に着目する点に特徴があるといえるだろう。すなわち、実際に契約書を作成する際に(「ポイント(1)」)留意すべきリスクを高い順に並べるという点で、契約書作成者にとって、実際的な体系という意味を持つだろう(「ポイント(17)」)。

ポイント(21) リスクの高低による体系化
「契約法の体系化」は、実際に契約書を作成する際に考慮すべき「リスク=何らかの制裁が課される可能性」の高低を尺度として、なされるべきである。

イ 諸法横断的な視点

 北川博士の体系においては、「問題」に対応する規律が私法の中に散在することから、私法全体を対象として、規律を顕在化させようとしていた。本稿においては、対象を民法に限らない点は同じだが、私法に範囲を限定せず、あらゆる制裁を考慮しなければならないと考える点で、北川博士の体系化とは異なっている。例えば、金銭消費貸借契約書の作成にあたって、出資法(特別刑法・経済刑法に含まれよう)の制裁の検討を失念していましたというわけにはいかないことについては、「ポイント(5)」で述べたとおりである。

 冒頭規定を通じて、諸法の多様なリスクが、契約書の中に持ち込まれる。そうした多様なリスクには、例えば、「預金保険の保護対象とならないこと」といった(相対的に)軽いリスクも含めて考える必要がある(→【2】[5] を参照)。そうしたリスクも、われわれの契約行動に影響を与えるからである。それら多様なリスクを個別に明確化した上で、それぞれのリスクの回避・最小化を図ることこそが、契約法学の重要な任務の1つだといえるだろう。その意味で、契約書を作成する際に遭遇するあらゆるリスクを視野に入れるためには、「諸法横断的な視点」が不可欠であるといえよう。

ウ 素材としての契約文例
 契約法に関する議論は、極力、具体的な契約条項を素材としてなされる必要がある。北川博士が例示する「中古車の売買基本契約書」や「株価ファイルの提供に関する約定書」は、このことを示していた。

 本稿においても、例えば、出資法5条1項の「金銭の貸付けを行う者」の内容を当事者の合意によりどこまで変更できるかの検討にあたって、【契約文例2】という具体的な文言を素材とした。リスク(=何らかの制裁が課される可能性)を検討していくためには、契約文例、そして冒頭規定を含む契約各則の諸規定、これに加えて関連諸法の規定等を、個別具体的に検討することが、どうしても必要となる。特に契約各則を中心とする契約規範に関しては、「合意による変更・排除がどこまで可能か」を検討していく上で、個別の契約文言(=合意内容)と諸規定の具体的文言の比較が不可欠といえるだろう。その意味で、素材としての契約文例無しに「契約各則の各規定の優先順位付け(=合意による変更可能性の程度の検討)」を行うことは、極めて困難であるといえよう。

(2) 何の・何に基づく・何のための体系か

 「契約法体系化」といっても、自己目的的に「体系化」が存在するわけではないだろう。中田裕康教授は、『民法の争点』の中の「民法の体系」において、「何の・何に基づく・何のための体系か」との問いを立てている[19]。これまでの本稿の検討を踏まえると、これに対しては、次のように答えられるだろう。

 第1に、「何の」体系か、すなわち、体系化の「対象」についてである。「契約各則」の体系化である以上、その対象が、契約各則の諸条文であることは、当然のことのように考えられる。しかし、それだけでは十分ではない。下の「何のための」体系かとの箇所で検討するように、「リスクの明確化・言語化」と、「リスクの回避・最小化」が体系化の目的と考えられるがゆえに、契約各則の諸条文に加えて、「合意による内容変更が難しい概念」を、体系化の1つの要素・項目と考える必要がある。「合意による内容変更が難しい概念」は、その内容の変更・修正が、「無効」という制裁をもたらす可能性を生じさせるため、任意規定よりもリスクが高いからである。

 第2に、「何に基づく」体系かについてである。既に述べたように(「ポイント(21)」を参照)、本稿では、「リスクの高低」という尺度に基づいて体系化を行うことが、最も重要であり、実際上も有益であると考えている。契約各則のすべての規定は、リスクの高低に基づいて、①冒頭規定、②よくわからない規定、③任意規定、の3つに分類される。そして、①冒頭規定と②よくわからない規定は、それぞれ任意規定よりもリスクが高いがゆえに、任意規定よりも重要性が高い[20]

 第3に、「何のための」体系か、すなわち、体系化の「目的」についてである。契約書作成者は、契約書の作成にあたって、さまざまなリスク(=何らかの制裁が課される可能性)に遭遇する。契約書作成者は、それらリスクを明確に認識して言語化し、それらリスクを回避・最小化しなければならない。これこそが、契約書作成者の最も重要な責務であろう。そして、体系化の「目的」も、こうした契約書作成者の最も重要な責務を踏まえるべきであることは当然といえよう。すなわち、「契約書の実際の作成において遭遇する多様なリスクを明確化・言語化し、それらリスクを回避・最小化すること」が体系化の「目的」となる。

ポイント(22) 契約法体系化の目的
契約書の実際の作成において、契約書作成者が遭遇する多様なリスク(=何らかの制裁が課される可能性)を明確化・言語化し、それらリスクを回避・最小化することが、契約法体系化の目的である。

(3) リスクの高低に基づく4つの分類

 契約各則において、リスクがどのような構造を持つかは、表4「本稿での分類」を基本とし表3「典型契約と関係法令等」の個別の関係法令等のリスクを含め、これに「合意による内容変更が難しい概念」を加えることによって、得られるだろう。

 リスクの高低という尺度に基づけば、本稿の「体系化の試み」により、契約法の規律は、次の4つの項目に分類されることになる。

  1. ① 冒頭規定(リスク:高)
  2. ② 合意による内容変更が難しい概念(リスク:高)
  3. ③ よくわからない規定(リスク:高)
  4. ④ 任意規定(リスク:低)

ポイント(23) 体系化のための分類
「リスクの高低」という尺度に基づけば、契約法の規律は、次の4つの項目に分類される。
①冒頭規定、②合意による内容変更が難しい概念、③よくわからない規定、④任意規定

 ①冒頭規定、③よくわからない規定、④任意規定については、既に(→1 Ⅳ3. (1))贈与を例として検討した。(ポイント(17) (18) (19) (20)を参照)

 ②の「合意による内容変更が難しい概念」が、本稿の体系化にとってなぜ重要かについて、これまで何回か言及してきたが、ここで簡単にまとめておこう。

 例えば、「年利」や「元本」という概念は、その内容を合意により変更・修正することは難しい。そして仮に変更を加えた場合(特にその変更が金銭の借り手に不利に働く場合)、その変更が裁判所により「無効」とされる可能性が生ずる。また、これら概念が任意規定よりも高いリスクを持つことは、民法の法文上は必ずしも明確ではなく、個別の関係法令との検討によりそうした性質を析出するしかない。この点で「冒頭規定」や「よくわからない規定」より厄介であり、気づきにくい分、留意が必要である。

 このように考えると、「合意による内容変更が難しい概念」は、まさに個別の契約規範(=当事者の合意による変更・排除が難しい規律)として明確に捉える必要があるといえよう。

ポイント(24) 合意による内容変更が難しい概念
「合意による内容変更が難しい概念」は、その内容に変更を加えた場合、裁判所により「無効」という制裁を課される可能性が生ずる。その意味で、「合意による内容変更が難しい概念」は、任意規定よりもリスクが高い契約規範であり、契約法体系化の試みにおいても、1つの重要な項目として位置付ける必要がある。

 以上が本稿の「契約法体系化の試み」の考え方である。契約法の体系化の尺度としては、「リスクの高低」が最も適切であり、契約法教育においては、リスクの高い規範の修得が優先される必要がある。その意味で、本稿の「体系化」は、契約法教育の「優先順位」と一致している。特に法科大学院における契約法教育においては、時間的・労力的制約が大きく、契約法・契約規範全体をカバーすることは容易でないと考えられるが、制約が大きければ大きいほど、優先順位を更に明確化し、重要な順に素材を選択する必要性が増すことになるだろう[21]

 

2. 個別の典型契約の体系化 ―贈与・消費貸借・組合―

 上で検討した「体系化」について、3つの契約を例として、やや詳しくみてみよう。以下では、典型契約の中から、移転型、利用型を1つずつ(それぞれ贈与、消費貸借)取り上げ、組織型契約として、組合を取り上げる。

(1) 贈与[22]

規定等 リスク リスク・制裁に関する留意点

①冒頭規定
 549条 贈与は当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。

  1. ⅰ) 贈与税の制度全体が、贈与の冒頭規定の要件を土台に組み立てられており、「冒頭規定(549条)の要件に則らない」場合、契約書作成者に対し、(基礎控除・特別控除を受けられない等の)何らかの不利益(=制裁)が課されることがある。(3. (1)を参照)
  2. ⅱ)「冒頭規定(549条)の要件に則った」契約書が、相続税法・印紙税法上の「贈与」に該当することを、当事者の合意で変更・排除することは難しい。(Ⅳ3. (1)アを参照)
  3. ⅲ) 冒頭規定を通じて持ち込まれる制裁
     ・ 懲役、罰金(相続税法)
     ・ 過怠税(印紙税法)

②合意による内容変更が難しい概念  「時価」

  1. ⅰ)「時価」の内容である「不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に、通常成立すると認められる価額」を当事者の合意によって変更することは難しい。(変更内容によっては、「無効」という制裁が課されることがある。)
  2. ⅱ)「時価」は売買と贈与の区別のために不可欠な概念であり、「時価」という概念の内容を知らずに贈与契約書(または売買契約書)を作成することは、リスクが高い。

③よくわからない規定
 550条 書面によらない贈与の撤回

裁判所が強行規定と解するか任意規定と解するかよくわからない規定(明治期の民法制定過程のある時期に強行規定として明記されていた規定であり、「ヨットクラブ事件最高裁判決」と同様の論旨により強行規定と解される(「無効」という制裁が課される)可能性がゼロではない規定)。

④任意規定
 551条
 552条
 553条
 554条

裁判所が任意規定と解するであろう規定。


(2) 消費貸借

規定等 リスク リスク・制裁に関する留意点

①冒頭規定
 587条 消費貸借は、当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還することを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる。

  1. ⅰ) 例えば、いわゆる「諾成的消費貸借」のように、当事者双方に利点・メリットがある場合、冒頭規定の要件が変更されることがある。
    しかし通常は、金銭消費貸借(特に金利規制)の制度全体が、消費貸借の冒頭規定の要件を土台に組み立てられており、「冒頭規定の要件に則らない」場合、契約書作成者に対し、(税額控除の利益を享受できない等の)何らかの不利益(=制裁)が課されることがある。(「住宅借入金」に関する「税額控除」を受けられなくなる不利益について、【2】[20] を参照)
  2. ⅱ)「冒頭規定(587条)の要件に則った」契約書が、出資法・貸金業法・利息制限法・印紙税法の適用対象とする「金銭消費貸借」に該当することを、当事者の合意で変更・排除することは難しい。(「ポイント(9)」を参照)
  3. ⅲ) 冒頭規定を通じて持ち込まれる制裁
    懲役・罰金(出資法) 行政処分(貸金業法) 過怠税(印紙税法)無効(利息制限法)

②合意による内容変更が難しい概念 「元本」「利息」「利率」

「元本」(出資法、貸金業法、利息制限法)
「利息」(同上)
「利率」(同上)     (1Ⅰ1. (3) を参照)

③よくわからない規定
 無し

④任意規定
 588条
 589条
 590条
 591条
 592条

裁判所が任意規定と解するであろう規定。


(3) 組合

規定等 リスク リスク・制裁に関する留意点

①冒頭規定
 667条 組合契約は、各当事者が出資をして共同の事業を営むことを約することによって、その効力を生ずる。

  1. ⅰ) 民法上の組合は、法人格を有していないため、課税対象とならない。これを利用して、従来、課税の繰延べを目的としたスキームが案出されてきた。こうした目的があるとき、「冒頭規定の要件に則らない」場合、契約書作成者に対し、例えば、課税の繰延べが認められない等の不利益(=制裁)が課されることがある。
  2. ⅱ) 一定の不動産流動化に関する「冒頭規定(667条)の要件に則った」契約が、(あまり一般的な法律ではないが、)不動産特定共同事業法2条3項1号の規制対象とする「組合」に該当することを、当事者の合意で変更・排除することは難しい。
  3. ⅲ) 冒頭規定を通じて持ち込まれる制裁
    (一定の不動産流動化案件においては、不動産特定共同事業法52条から62条に規定される罰則)

②合意による内容変更が難しい概念  「共同の事業」

特に税法でより厳しい要件が求められることがある(租税特別措置法41条の4の2では、投資目的の組合員である場合、「自ら執行する」組合員のみに、課税の繰延べが認められる)。

③よくわからない規定
 673条
 675条
 678条2項
 679条
 683条

裁判所が強行規定と解するか任意規定と解するかよくわからない規定(明治期の民法制定過程のある時期に強行規定として明記されていた規定であり、「ヨットクラブ事件最高裁判決」と同様の論旨により強行規定と解される(「無効」という制裁が課される)可能性がゼロではない規定)。

④任意規定
 668条  │  680条
 669条  │  681条
 670条  │  682条
 671条  │  684条
 672条  │  685条
 674条  │  686条
 676条  │  687条
 677条  │  688条
 678条1項

 

裁判所が任意規定と解するであろう規定。

解任権(672条)については、前稿「契約法教育」(2013)(下)42頁以下にて言及したように、強行規定と解する考え方もあるため、留意が必要である。

 


[1] 中田裕康「民法の体系」内田貴=大村敦志編『民法の争点』(有斐閣、2007)5頁を参照。

[2] 広中俊雄『民法綱要 総論上』(創文社、1989)6頁は、「財産の法」の中の「財貨移転秩序」の担い手として契約を位置付けるが、「契約法の体系化」自体に必ずしも焦点が当てられているわけではない。

[3] 主な文献のみ以下に挙げておく。内田貴『契約の再生』(弘文堂、1990)、大村敦志『典型契約と性質決定』(有斐閣、1997)、山本敬三『公序良俗論の再構成』(有斐閣、2000)、中田裕康『継続的取引の研究』(有斐閣、2000)、平井宜雄「契約法学の再構築(1)(2)(3・完)」ジュリ1158、1159、1160号(1999)。

[4] 「条文の集合体を、一定の原理に従って、整序すること」を、ここでは「体系化」と捉えている。

[5] 北川善太郎『民法の理論と体系』(以下『理論と体系』という)(一粒社、1987)200頁以下を参照。

[6] 北川・前掲注[5]『理論と体系』200頁を参照。

[7] 北川・前掲注[5]『理論と体系』201頁を参照。

[8] 北川・前掲注[5]『理論と体系』213頁を参照。

[9] 北川・前掲注[5]『理論と体系』264頁を参照。

[10] 北川善太郎『現代契約法Ⅰ』(商事法務研究会、1973)74頁を参照。

[11] 北川・前掲注[10]『現代契約法Ⅰ』69頁を参照。

[12] 北川・前掲注[10]『現代契約法Ⅰ』74頁を参照。

[13] 「契約法の体系一覧」で民事訴訟法や破産法が参照されているように、北川博士が考えていた検討対象から、(広義の)公法が除外されていなかったことに留意する必要があろう。

[14] 北川・前掲注[10]『現代契約法Ⅰ』23頁を参照。

[15] 北川善太郎編著『現代契約法入門』(有斐閣、1974)7頁を参照。

[16] 北川・前掲注[10]『現代契約法Ⅰ』16頁を参照。

[17] 北川・前掲注[10]『現代契約法Ⅰ』31頁を参照。

[18] このことは、以下での「契約法の体系」が、「契約法教育における(修得すべき)優先順位」と同じ尺度に基づいて考えるべきことを示している。

[19]中田裕康・前掲注[1]「民法の体系」5頁を参照。

[20] これに加えて、上で述べた「合意による内容変更が難しい概念」もリスクが「高い」がゆえに、体系上、重要性が高いことについては、「ポイント(24)」を参照。

[21] 本稿では、体系化された契約法は、法科大学院で集中的に教えられるべきであると考えている。なぜなら、法科大学院における契約法教育は、学習者が、契約法についてまとまった時間を投入できる最後の機会だからである。また近時、法律専門家でない一般の人々に対する「法教育」が検討されているが、「法教育」の対象に契約法が含まれる場合には、(法科大学院における教育よりも更に時間的制約が厳しいと考えられるため、)より「リスクが高い」ものに絞り込んだ規律を素材とする必要が生ずるだろう。

[22] 以下、「規定等」の欄では、条文全体を引用した場合もあるが、紙幅の関係で、条文の見出しのみ(または条文番号のみ)を引用した場合もある。

 

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