東証、市場構造の改善に向けて論点整理
――市場関係者からの意見も踏まえ、市場区分の再設計へ――
株式会社東京証券取引所は3月27日、昨年来検討中の課題「現物市場の市場構造の今後の在り方等」を巡り(A)市場構造の在り方等に関する市場関係者からのご意見の概要、(B)現在の市場構造を巡る課題(論点整理)を取りまとめ、公表した。
東証では2013年7月、東京証券取引所グループと大阪証券取引所の経営統合により日本取引所グループが発足したことを受け、現物市場を統合した。この際は従前の市場構造を維持することとしたため、現時点においては一般投資者向けの市場として「市場第一部」「市場第二部」「マザーズ」「JASDAQ」の4つの市場区分が存在している。
しかしながら近年、このような市場構造や関連する上場制度について改善すべき点も見受けられるとして2018年10月29日、「市場構造の在り方等に関する懇談会」(座長・神田秀樹学習院大学大学院教授)の設置を発表し、11月28日に初会合を開催した。市場構造(市場区分)が果たす役割として「投資者に対して企業のリスク特性を示す役割が重要であり、 投資者が投資しやすい環境を整備する必要」「企業価値向上の動機付けに資するという役割も重要」といった2つの役割を念頭に置きながら議論が進められ、12月19日開催の第2回会合では論点整理がなされる。東証では12月21日、19日会合における意見を踏まえたかたちで「市場構造の在り方等の検討に係る意見募集(論点ペーパー)」を公表し、本年1月31日まで意見募集を行った。
今般公表された上記(A)は、このような経過を経て幅広く募った市場関係者からの意見を取りまとめたもので、国内外から約90件の意見が寄せられたほか、東証として個別にヒアリングを実施し、約70社の協力を得たという。これらを踏まえて公表されたのが、上記(B)となる。
「現在の市場構造を巡る課題(論点整理)」では、問題点を(1)各市場区分のコンセプトが曖昧であり、多くの投資者にとって利便性が低い、(2)上場会社の持続的な企業価値向上の動機付けの点で期待される役割を十分に果たせていない、(3)投資対象としての機能性と市場代表性を備えた指数が存在しないといった3点に整理。各問題点を具体的にみると、(1)では①市場第二部・マザーズ・JASDAQの位置付けの重複・分かりづらさ、②市場第一部は市場コンセプトが明確でなく、パッシブ投資隆盛により流動性の低い銘柄の価格形成にゆがみ、(2)では①市場第一部へのステップアップ基準は上場会社の持続的な企業価値向上の動機付けの観点から十分に機能せず、②そのほか、機関投資家の参入のための方策や新興企業に適した開示制度の検討が必要、(3)では①多くの投資者がベンチマークとしているTOPIXは市場第一部全銘柄で構成、②JPX日経400やTOPIX500などの指数をベンチマークとする投資者は少ない――との指摘が挙げられるところとなっている。
東証では、市場構造の改善に向けて「上場銘柄の特性(上場会社の成長段階、投資家の層)に応じた複数の市場区分を設け、明確なコンセプトに基づいた制度に再設計を行うことが適当」と総括。 「一般投資者の投資対象としてふさわしい実績のある企業」をA市場、「高い成長可能性を有する企業」をB市場、「 国際的に投資を行う機関投資家をはじめ広範な投資者の投資対象となる要件を備えた企業」をC市場とそれぞれ仮に区分したうえで、(ア)上場基準とし、A市場およびC市場では「ガバナンス体制・流動性・利益水準・市場評価(時価総額)等による基準」とすることを、B市場では「先行投資型企業を含め、成長可能性の高い新興企業に幅広く上場機会を提供する観点から、A・C市場の基準より緩和された基準」とすることを示すとともに、(イ)退出基準としては「経営成績・財政状態だけでなく市場評価も加味した基準」を提示している。
併せて「企業価値向上の動機付けを補完する仕組み等」とし、「他市場からの移行基準、新規上場基準、退出基準を共通化」すること、「企業の成長段階、投資家層の厚みを踏まえた開示制度その他諸制度の最適化」などを課題として掲げた。
このような市場構造の改善に係る移行期間について、東証では「上場会社の申請による市場選択機会の確保」「数年単位の移行期間や段階的な基準変更」などを挙げながら、「企業や投資者への影響を十分に考慮した移行プロセスを確保」する旨を表明している。