◇SH0370◇最三小判 平成27年4月28日 審決取消等請求事件(岡部喜代子裁判長)

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1 事案の概要

 本件は、著作者や音楽著作権を有する音楽出版社等(以下「著作者等」という。)から委託を受けて音楽著作物の利用許諾等の音楽著作権の管理を行う管理事業者である上告参加人(A)が、その管理する音楽著作物(以下「管理楽曲」という。)の放送への利用(以下「放送利用」という。)の許諾につき、使用料の徴収方法を定めて放送事業者との利用許諾契約を締結しこれに基づくその徴収をする行為について、当該行為が他の管理事業者の事業活動を排除するものとして、独占禁止法2条5項所定のいわゆる排除型私的独占に該当し同法3条に違反することを理由として排除措置命令がされたところ、これを不服とする審判の請求を経て、上告人(公正取引委員会)により、Aの当該行為は同項所定の排除型私的独占に該当しないとして上記命令を取り消す旨の審決がされたため、他の管理事業者である被上告人(X)が、上記審決の取消し等を求めた事案である。

 

2 本件の事実関係

(1) Aは、昭和14年に設立され、「著作権に関する仲介業務に関する法律」の下で日本における唯一の管理事業者として音楽著作権管理事業を営んできたところ、平成13年10月に同法が廃止され著作権等管理事業法が施行されたことにより、音楽著作権管理事業が許可制から登録制へ移行(自由化)して以降は、同法に基づく登録を受けたものとして事業を継続している。上記の自由化に伴い、Xを含む4社がインタラクティブ配信等に関する利用許諾の市場に参入したが、その後も、Aが大部分の音楽著作権について管理の委託を受けている状況は継続し、本件市場(音楽著作物の利用許諾に係る市場のうち、放送事業者による管理楽曲の放送利用に係る利用許諾に関するものをいう。以下同じ。)には、上記の自由化後5年にわたり新規の参入がなく、Aのみが事業を行っていた。平成18年10月になってXが本件市場に参入したものの、その管理楽曲に係る放送利用の実績は上がらず、Xが放送事業者から徴収した放送使用料の額も僅かな金額にとどまっている。

(2) ところで、放送事業者によるテレビやラジオの放送では膨大な数の楽曲が日常的に利用されることから、放送事業者とAとの間では、Aの管理楽曲の全てについてその利用を包括的に許諾する利用許諾契約が締結されている。そして、Aの定める使用料規程(著作権等管理事業法13条参照)においては、放送使用料の徴収方法につき、①年度ごとの放送事業収入に所定の率を乗じて得られる金額又は所定の金額による徴収(以下「本件包括徴収」という。)、②1曲1回ごとの単位使用料を6万4000円とし、これに管理楽曲の利用数を乗じて得られる金額による徴収(このように1曲1回ごとの料金として定められる単位使用料に管理楽曲の利用数を乗じて得られる金額による徴収を「個別徴収」という。)が定められており、放送事業者における年間の管理楽曲の利用数を上記②の単位使用料に乗ずると、その年間の放送使用料の総額が本件包括徴収による場合に比して著しく多額になるため、ほとんど全ての放送事業者は、Aとの間で本件包括徴収による利用許諾契約を締結している。

(3) 公正取引委員会は、Aがほとんど全ての放送事業者との間で本件包括徴収による利用許諾契約を締結しこれに基づく放送使用料の徴収をする行為(以下「本件行為」という。)につき、本件市場における他の管理事業者の事業活動を排除するものであるとして、平成21年2月27日、Aに対し、排除措置命令(以下「本件排除措置命令」という。)をした。これを不服とする審判請求を受けて、公正取引委員会は、平成24年6月12日、Aの本件行為につき、本件市場における他の管理事業者の事業活動を排除する効果(以下「排除効果」という。)を有するものではなく、独占禁止法2条5項所定の排除型私的独占に該当するとはいえないとして、本件排除措置命令を取り消す旨の審決(以下「本件審決」という。)をした。

 

3 原審及び本判決の判断等

 原審(東京高裁)は、Aの本件行為は排除効果を有するものであるから本件審決の上記判断は誤りであるとして、本件審決を取り消した。
 原判決に対し、公正取引委員会が上告受理の申立てをしたところ、最高裁第三小法廷は、これを受理し、本件行為が排除効果を有するものであるとした原審の判断は是認し得るとして、その上告を棄却した(行政事件訴訟法22条1項に基づく参加人であるAも、原判決に対する上告及び上告受理の申立てをしたが、上告事件については上告棄却決定により、上告受理申立て事件については二重上告受理申立てであることを理由とする上告不受理決定により、それぞれ終局している。なお、Aについても公正取引委員会の上告受理申立てによる移審の効果が及んでいる〔行政事件訴訟法22条4項、民訴法40条1項参照〕ことから、Aが提出した上告受理申立て理由書については、公正取引委員会の申立てに係る上告受理申立て事件における期限内の理由の追加として取り扱われている。)。

 

4 説明

(1)    事業者の行為が独占禁止法2条5項所定の排除型私的独占の要件である「他の事業者の事業活動を排除」する行為に該当するか否かについては、①自らの市場支配力の形成、維持ないし強化という観点からみて正常な競争手段の範囲を逸脱するような人為性(以下、単に「人為性」という。)を有するものであり、②他の事業者の市場への参入を著しく困難にするなどの効果(排除効果)を有するものといえるか否かによって決すべきものとされている(最二小判平成22・12・17民集64巻8号2067頁参照)。本判決は、上記②の要件(排除効果)の該当性について、本件の事案に即した諸要素(本件市場を含む音楽著作権管理事業に係る市場の状況、A及び他の管理事業者の上記市場における地位及び競争条件の差異、放送利用における音楽著作物の特性、本件行為の態様や継続期間等)を総合的に考慮して判断すべきものとした上で、これらの諸要素に係る諸般の事情を考慮すると本件行為は排除効果を有するものであるとした。本判決の説示について、若干の敷衍を交えつつ説明を加えると、次のようになろう。

  1. ア Aは、音楽著作権管理事業が自由化された平成13年10月の時点で既に事実上の独占状態にあり、その自由化後も、大部分の音楽著作権につき管理の委託を受けている状況が継続していたことなどから、膨大な数の楽曲を日常的に利用する放送事業者にとって、Aとの間で包括許諾による利用許諾契約を締結することなく他の管理事業者との間でのみ利用許諾契約を締結することは、およそ想定し難い状況にあった。このような状況においては、本件市場に新規に参入する他の管理事業者は、自らの管理楽曲の個性を活かして供給の差別化を図る(例えば、人気のある楽曲を揃える。)などの方法によって既存の管理事業者と競争することとなるところ、放送事業者による利用楽曲の選択においては、当該放送番組の目的や内容等の諸条件を勘案して当該放送番組に適する複数の楽曲の中から選択されるのが通常であって、特定の楽曲の利用が必要とされるのは例外的な場合(例えば、視聴者のリクエスト等に基づき楽曲の順位を発表するカウントダウン番組等)に限られるということができ、このような意味で、楽曲は、放送利用において基本的に代替的な性格を有するものといえる。本件市場に新規に参入する他の管理事業者が自らの管理楽曲の個性を活かして行う競争も、このような楽曲の放送利用における基本的に代替的な性格から、一定の限界を有するものといえよう(以上は、上記に掲げた考慮要素のうち、本件市場を含む音楽著作権管理事業に係る市場の状況、A及び他の管理事業者の上記市場における地位及び競争条件の差異、放送利用における音楽著作物の特性に関する事情である。)。
  2. イ 本件行為の態様は、Aがほとんど全ての放送事業者との間で年度ごとの放送事業収入に所定の率を乗じて得られる金額又は所定の金額を放送使用料とする本件包括徴収による利用許諾契約を締結しこれに基づく放送使用料の徴収をするというものであるところ、このような内容の利用許諾契約が締結されることにより、放送使用料の金額の算定に管理楽曲の放送利用割合(当該放送事業者が放送番組に利用した音楽著作物の総数に占めるAの管理楽曲の割合をいう。以下同じ。)が反映される余地はなくなる。そのため、放送事業者において、他の管理事業者の管理楽曲を有料で利用する場合には、本件包括徴収による利用許諾契約に基づきAに対して支払う放送使用料とは別に、追加の放送使用料の負担が生ずることとなり、利用した楽曲全体につき支払うべき放送使用料の総額が増加することとなる。そして、このような放送使用料の増加をもたらす本件行為の継続期間は、著作権等管理事業法の施行から本件排除措置命令まで7年余に及んでいる(以上は、上記に掲げた考慮要素のうち、本件行為の態様や継続期間に関する事情である。)。
  3. ウ 本判決は、以上の事情を総合して、本件行為に係る排除効果の有無につき、次のように判断した。すなわち、Aの本件行為は、本件市場において、音楽著作権管理事業の自由化後も大部分の音楽著作権につき管理委託を受けているAとの間で包括許諾による利用許諾契約を締結しないことが放送事業者にとっておよそ想定し難い状況の下で、その管理楽曲に係る放送使用料の金額の算定に放送利用割合が反映されない徴収方法を採ることにより、放送事業者が他の管理事業者に放送使用料を支払うとその負担すべき放送使用料の総額が増加するため、楽曲の放送利用における基本的に代替的な性格もあいまって、放送事業者による他の管理事業者の管理楽曲の利用を抑制するものであり、その抑制の範囲がほとんど全ての放送事業者に及び、その継続期間も相当の長期間にわたるものであることなどに照らせば、他の管理事業者の本件市場への参入を著しく困難にする効果(排除効果)を有するものというべきである、と判断したものである。

(2) 「なお書き」について
 本判決は、論旨は採用できないとの結論を示した後の「なお書き」で、排除効果以外の点についても、若干の言及をしている。これは、本件審決を取り消す原判決が確定することにより、公正取引委員会において本件排除措置命令に対する審判請求に係る審決をやり直すこととなるため、本件審決の取消し後の審判(以下、単に「取消し後の審判」という。)において審理の対象となる事項を示唆したものと解される。
 そして、本判決は、上記の「なお書き」において、独占禁止法2条5項にいう「他の事業者の事業活動を排除」する行為に該当するためのもう1つの要件である人為性の有無に関し、Aの本件行為は別異に解すべき特段の事情のない限り人為性を有するものとしている。本件審決では、Aの本件行為は排除効果を有しないからそれ以外の要件については判断するまでもなく本件排除措置命令は違法であるとされ、原判決でも、本件審決で判断されていない排除効果以外の要件については判断が示されていない。それにもかかわらず、本判決が人為性の有無について傍論とはいえ上記のような判断を示したのは、①人為性が排除効果と密接な関係を持つ要件であり、排除行為の典型とされる行為(例えば、公正取引委員会の定めるガイドライン「排除型私的独占に係る独占禁止法上の指針」にいう抱き合わせ、供給拒絶・差別的取扱い、排他的取引等)については排除効果と人為性とが一体的に判断される場合も少なくないこと、②本件行為に係る人為性の有無についても、その判断の基礎となる事情は本判決に示された事実関係等において既に顕れており、取消し後の審判における更なる審理を経ずに法的判断を示すことが可能であったことなどの理由によるものと考えられる。なお、本判決における上記の判断には、「別異に解すべき特段の事情のない限り」との留保が付されているが、これは、取消し後の審判において人為性の有無につき反論する機会を当事者に確保するという配慮に基づくものと解される。
 本判決は、以上のような人為性の有無に関する判断を踏まえて、取消し後の審判につき、人為性の有無につき別異に解すべき特段の事情の有無を検討(当事者から特段の事情ありとの具体的な主張がされた場合に、その主張の当否について検討されることとなろう。)の上、本件行為が独占禁止法2条5項にいう「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」ものに該当するか否かなど、同項の他の要件の該当性が審理されることとなるものとしている。本件審決に示された各争点に関する当事者の主張によれば、同項にいう「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」、「公共の利益に反して」の各要件の該当性に関し、「競争制限又は阻害効果を凌駕する正当化事由」の有無や、本件行為が「自由競争経済秩序の維持という観点から実質的に評価して非難に値すべき」ものか否かなどが本件審決前の審判において議論されていたことがうかがわれる。これらに関しては、そもそも上記の2つの要件の関係についてどのように解すべきか(いかなる事情につきいかなる要件該当性の問題として考慮されるべきか)について学説上議論されており、また、これらの要件該当性の帰結についても見解が分かれているところである。取消し後の審判においては、これらの点につき十分な検討を経て再度の審決をすることが期待されているものといえよう。

 

5 本判決の意義等

 本判決は、事例判断であるが、排除型私的独占の要件該当性について判断された数少ない例の一つとして、排除型私的独占の適用をめぐる公正取引委員会の実務やその行政処分に関する訴訟等に大きな影響を及ぼすものということができ、また、本件排除措置命令及びこれに関する審決・判決の経緯が報道等により社会的にも注目された事件でもあることから、実務上重要な意義を有するものとして紹介する次第である。

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