◇SH2520◇企業活力を生む経営管理システム―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―(第28回) 齋藤憲道(2019/05/09)

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企業活力を生む経営管理システム

―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―

同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー

齋 藤 憲 道

 

3.「製品規格」の仕組みが業法・有害物質規制・表示規制等の遵守に有効

 多くの事業分野において、国民経済の健全な発展・消費者を含む弱者の保護・公共の安全・治安の維持等を目的として、事業運営に必要な水準の管理・運営方法を定め、それに適合することを行政当局が確認したうえで事業の許可・認可等を行う法律(一般に、「業法」という。)が制定されている。

 「業法」は、業務の目的を掲げ、組織のあり方、業務執行の手順、遵守すべき事項、責任者の配置・必要な資格、当局への報告、当局による報告徴収・審査・検査等に関する事項を定め、違反行為に対して行政措置(許可・認可の取消しを含む)を行うものが多い(刑事罰を科す例も多い)。 

 また、「有害物質規制」と「表示規制」においては、特定の物質・表示に対する要求事項(義務)を定め、違反者に行政措置を行い、刑罰を科す例が多い。

 「業法」「有害物質規制」「表示規制」のように、違反が許されない業務分野については、基準からの逸脱を厳格に規制する「製品規格」と同様の管理の仕組み、即ち、「製品試験」(業法・有害物質規制・表示規制が求める基準に相当)に合格し、かつ、自社のどの業務(将来を含む)についても、この試験と同じ結果を得ることができる「品質管理体制」を構築することが必要である。

 以下、業法、有害物質規制、及び表示規制の遵守についてそれぞれ考察する。

(1)「業法」を守る

 「業法」は、企業が遵守すべき事項を具体的に示し、それを実施するのに必要な経営管理上の要求事項を定めて、企業がこれを満たしたときに、その営業を許可・承認等する。

 しかし、企業が遵守事項・要求事項に違反すると、許可・承認等は取り消される。

 この点において「業法」は、「製品規格」と同様の機能を有する。

 以下に、企業の経営管理のあり方を規律する法律(いわゆる「業法」)を例示する。

  1. (注)「業法」は、その業界に従事する者が、日常、無意識のうちに遵守している法律である。社外取締役・社外監査役は、担当する会社の主な事業を規制する業法について最低限の知識を持たなければ、その会社を監督・監視・監査等するのは難しい。

例1 医薬品の製造販売(医薬品医療機器等法)

 医薬品には、厳格な「製品規格」の仕組みが適用されている。

 医薬品は、厳しい審査・調査を経て厚生労働大臣の承認を受け、それを工場(製造業)で許可条件通りに製造して、販売し(製造販売業)、副作用が発生すれば直ちにその情報を医療関係者に伝達して、使用を中止する。

  1. (注) 医薬品医療機器等法は「日本薬局方に収められている物」を「医薬品」としている[1]
     日本薬局方は、医薬品の性状・品質の適性を図ることを目的とする[2]基準・規格書であり、通則・生薬総則・製剤総則・一般試験法・医薬品各条(個々の医薬品)等について定めている[3]
  1. ・ 医薬品の「製造販売業」及び「製造業」は法令で厳格に規制されており、厚生労働大臣の許可を得なければ事業を行うことができない[4]
     また、「製造販売業」又は「製造業」のいずれかの許可を取得していない者は、製品(医薬品)そのものについて厚生労働大臣に承認申請することができない[5]
  2. ・ 医薬品の「製造販売業」は、次の3つ(1~3)の審査[6]に適合することが必要とされる。

 以下、審査の要点を記す。

1 企業の責任体制の審査(「医薬品製造販売業許可申請書」を都道府県知事に提出)  

  1. 審査1)総括製造販売責任者(資格:薬剤師等)を設置する[7]
  2. ・ 実際には、製造販売業三役[8]を設置する。
    「総括製造販売責任者[9]」が市場に最終責任を負い、品質保証責任者と安全管理責任者を総括する。
    「品質保証責任者[10]」は、販売部門等から独立して、製造における品質を保証する[11]
    「安全管理責任者[12]」は、販売部門等から独立して、販売後の不具合・副作用等を監視する[13]

     
  3. 審査2)申請者に欠格事由(許可・登録の取消、刑事罰等の履歴)がないこと
     

2 医薬品自体の有効性・安全性等の審査[14](PMDAが審査し、厚生労働大臣が承認した[15]医薬品であること) 

  1. 審査1)「医薬品製造販売承認申請書」の記載事項
  2.   医薬品名称、成分等、製造方法、用法等、効能・効果、貯蔵方法・有効期間、規格・試験方法、製造所等
    (注) 承認後は、申請書記載事項が承認事項となる。これを変更する場合は「一部変更承認申請」又は「軽微変更届」を行う必要がある。

     
  3. 審査2) GMP適合性を調査(書面審査、実地審査)[16]


3 医薬品の生産方法・管理体制の審査[17](GMP省令に適合すること[18]を書面審査・実地審査で確認)

  1. 審査1) 製造業許可申請書の記載事項
  2.   製造所の名称・所在、製造所の構造設備概要、管理者又は責任技術者(資格)、申請者の欠格事由有無等
     
  3. 審査2)製造業者に対しては、標準書・基準書・手順書の作成・運用・製造所備置等を義務付ける[19]
     
  1. ・ 製造販売業者、医療現場、厚生労働省(実務はPMDA[20])の間で、副作用・感染症を含む様々な報告・情報提供の義務又は努力義務が課されている。
    製造販売業者は、危害発生(「発生のおそれ」を含む。)を知ったときは、防止のために廃棄・回収・販売停止・情報提供等の措置を行わなければならない[21]
  2. ・ 医薬品等の容器・添付文書に記載すべき事項が定められ、誇大広告等が禁じられる[22]
  3. ・ 違反行為に対しては、厚生労働省または都道府県等がそれぞれの権限により立入検査、各種の命令(緊急、廃棄、回収、検査、改善、行為の中止、総括製造販売責任者等の変更等)、承認・許可・登録の取消等を行い、悪質な違反者には刑事罰を科す[23]


[1] 医薬品医療機器等法(「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」の通称(旧、薬事法))2条1項1号

[2] 医薬品医療機器等法41条

[3] 〔日本薬局方が定める主な事項の例〕通則(用語の定義、単位の記号、試験・貯蔵に用いる温度、滴数の量り方、切度・粉末度の名称、性状を示す用語の定義、確認試験・純度試験の目的、無菌・容器・密閉容器・遮光等の用語の定義)、生薬総則(各条の対象とする生薬、全形・切断・粉末の区別、乾燥温度、性状の記載、カビ等の除去、容器)、製剤総則(製剤通則<製剤全般の共通事項>、製剤包装通則、製剤各条<経口、口腔内、注射、透析、気管支・肺、目、耳、鼻、直腸、膣、皮膚等に投与・適用する製剤>、生薬関連製剤各条)、一般試験法(化学的試験法、物理的試験法、粉体物性測定法、生物学的試験法・生化学的試験法・微生物学的試験法、生薬試験法、製剤試験法、容器・包装材料試験法、標準品・標準液・試薬・試液、計量器・容器等)、医薬品各条(個々の医薬品を収載)

[4] 医薬品医療機器等法12条1~2項、13条1~3項。「製造販売業」とは医薬品を市場に業として出荷することをいい、自社で「製造業」を行わず(欧米企業等に)生産委託することによって「製造販売業」の許可を得ることができる。

[5] 医薬品医療機器等法14条1~2項、12条1項、13条1項、13条の3第1項

[6] GQP省令(医薬品、医薬部外品、化粧品及び再生医療等製品の品質管理の基準に関する省令=厚生労働省令第136号 平成16年9月22日)は、①品質標準書(5条)、②品質管理業務手順書(6条)の作成を許可要件にしている。②の内訳は次の通り。1市場への出荷の管理、2適正な製造管理及び品質管理の確保、3品質等に関する情報及び品質不良等の処理、4回収処理、5自己点検、6教育訓練、7医薬品の貯蔵等の管理、8文書及び記録の管理、9安全管理統括部門その他の品質管理業務に関係する部門又は責任者との相互の連携、10その他、品質管理業務を適正かつ円滑に実施するために必要な手順

[7] 医薬品医療機器等法17条1項

[8] 医薬品医療機器等法17条1~2項、GQP省令3条、4条2~3項、GVP省令4条1~3項、13条2項

[9] 医薬品医療機器等法17条1~2項、GQP省令3条

[10] GQP省令4条1~3項

[11] 医薬品医療機器等法12条の2第1号(「品質管理」の方法がGQP省令で定める基準に適合しないときは、製造販売業の許可が与えられない。)

[12] GVP省令4条2項、13条2項

[13] 医薬品医療機器等法12条の2第2号(「製造販売後安全管理」の方法がGVP省令で定める基準に適合しないときは、製造販売業の許可が与えられない。)

[14] 医薬品の承認審査を行うPMDAでは、薬学・医学・獣医学・理学・生物統計学等の専門知識を有する審査員が品質・薬理・薬物動態・毒性・臨床・生物統計を担当し、審査チームを形成して審査を行う。

[15] 医薬品医療機器等法14条の2第2項。なお、安全性が確立した一部の医薬品については都道府県知事の承認を得る。

[16] 医薬品医療機器等法14条5~7項

[17] 医薬品医療機器等法12条の2第1号(品質管理)、第2号(製造販売後安全管理)

[18] 厚生労働省令第179号 平成16年12月24日「医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令」の基準をGMP(Good Manufacturing Practice)と略称する。「GMP省令」は、多くの基準書の作成・運用を義務付けている。PMDAがGMP適合の調査を実地や書面で行う。

[19] GMP省令8条5項。(1)製品標準書 省令7条(製造販売承認事項、厚生労働大臣が特別に設けた基準等、承認事項以外の製造手順)、(2)基準書 省令8条1項~3項(衛生管理基準書(構造設備の衛生管理、職員の衛生管理他)、製造管理基準書(製品等の保管、製造工程の管理他)、品質管理基準書(検体の採取方法、試験検査結果の判定方法他))、(3)手順書 省令8条4項(製造所からの出荷の管理手順書、バリデーション手順書、手順の変更管理手順書、手順からの逸脱管理手順書、品質等に関する情報及び品質不良等の処理手順書、回収処理手順書、自己点検手順書、教育訓練手順書、文書及び記録管理手順書、他)

[20] Pharmaceuticals and Medical Devices Agency(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構)

[21] 医薬品医療機器等法68条の9

[22] 医薬品医療機器等法50条、52条、66条

[23] 医薬品医療機器等法69条1項・2項~75条の5、17章(罰則)

 

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