法務担当者のための『働き方改革』の解説(33)
テレワーク(2)
TMI総合法律事務所
弁護士 海 野 圭一朗
XVIII テレワーク
3 テレワーク導入に伴う法的諸課題
前述のとおり、テレワークであっても労働関係法令を遵守する必要があるが、法務の観点では、とりわけ労働時間制度、及び、情報漏洩対策について留意を要する。
また、2で挙げたような各種リスクを低減させ、これに伴うトラブル等をできる限り未然に防止する観点からも、テレワーク制度の内容につき具体的にルールを策定・周知し、運用すべきである。
そこで、以下、テレワークにおける労働時間制度、情報漏洩対策について述べた上で、就業規則等において定めるべき事項につき概観する。
(1) 労働時間制度との関係
ア 労働時間の把握義務
上述のとおり、テレワーク対象者にも労働基準法の適用があることから、企業は、同法に基づいて実際の労働時間を適正・適切に把握・管理しなければならないこととなる。
そのため、テレワーク対象者の実際の始業・終業時刻を上長等が自ら現認することは難しいとしても、パソコンの使用時間等の客観的な記録を基礎として確認・記録することとし、やむを得ず自己申告制による場合も、必要に応じて実態調査を実施するなど、ガイドライン[1]に従った運用が必要となる。
この点、テレワークでは、とりわけ「中抜け時間」の取扱いが問題となるが、この「中抜け時間」を不就労時間として取り扱うには、都度「中抜け時間」の開始・終了時刻を報告させるなどにより適切に把握できるようにする必要があるほか、さらに、これを休憩あるいは時間単位の有給休暇として取り扱うのか、それとも始業・終業時刻の変更として取り扱うのかについても、予め決めておく必要がある。
なお、上記ガイドライン等からすると、残業事前許可制を採っていたとしても、無断残業(無断労働)について使用者の労働時間把握義務や賃金支払義務が直ちに免除されるわけではないと考えるべきであり、そのような免除が認められるのは、明示的な禁止命令に反して労働した場合や、事前許可制が厳格に運用されていたと評価できる場合等に限られるであろう。
イ フレックスタイム制(労働基準法第32条の3)
フレックスタイム制は、労使協定により清算期間やその期間における総労働時間等を定め、清算期間を平均して1週当たりの労働時間が法定労働時間を超えない範囲内において、労働者が始業及び終業の時刻を決定することができる制度である。
テレワークでの活用としては、例えば、オフィス勤務の日は労働時間を長く、自宅勤務の日は労働時間を短く設定するといった柔軟な運用も可能であるほか、上記アの「中抜け時間」についても労働者の判断で自由に始業・終業時刻を調整することができるといった点でメリットがある。
ただし、あくまで始業・終業時刻を労働者の決定に委ねるものにとどまるため、使用者は、なお上記アのとおり労働時間の適切な把握を行う必要がある点に留意を要する。
ウ 事業場外みなし労働時間制(労働基準法第38条の2)
テレワークについては、事業場外みなし労働時間制を適用することも考えられる。ただし、この制度は、労働時間を算定することが困難な場合に限られ、具体的には、以下の要件をいずれも満たす必要がある。
- ① 情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと
-
これは、情報通信機器を通じた使用者の指示に即応する義務がない状態であることを意味する。例えば、回線が常時接続されていたとしても、労働者が自由に情報通信機器から離れることや通信可能な状態を切断することが認められている場合、労働者の即応の義務が課されていないことが明らかである場合等は、この場合に該当する。
- ② 随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないこと
- 当該業務の目的、目標、期限等の基本的事項を指示することや、これら基本的事項について所要の変更の指示をすることは含まれない。
この制度では、実際の労働時間数にかかわらず、就業規則等で定められた所定労働時間を労働したものとみなされる(労働基準法第38条の2第1項本文)。ただし、業務を遂行するために通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合には、当該業務に関しては、当該業務の遂行に通常必要とされる時間を労働したものとみなされる(同項ただし書)。なお、この「当該業務の遂行に通常必要とされる時間」については、実態を踏まえて労使協議の上労使協定によりこれを定めることが望ましく、当該労使協定は労働基準監督署長へ届け出なければならない。
また、労働時間の一部について事業場内で業務に従事した場合には、事業場内労働時間と在宅勤務時間を合わせて所定労働時間を労働したものとみなされる。なお、業務を遂行するために通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合には、当該事業場内の労働時間と「当該業務の遂行に通常必要とされる時間」とを加えた時間が労働時間となる。
ガイドライン[2]によれば、みなし労働時間制が適用されている労働者が、深夜又は休日に業務を行った場合であっても、事前申告制又は事前許可制が採られ、かつ事後報告義務が課されているにもかかわらずこれらを行わずに業務を行ったものであるときは、(黙示の指揮命令や予測可能性等が無い限り)使用者のいかなる関与もなしに行われたものであると評価できるため、労働基準法上の労働時間に該当しない、とされている。ただし、事前許可制や事後報告制が実態を反映していないと解し得る事情がないことが前提となる点に留意を要する。
エ 裁量労働制、高度プロフェッショナル制度
上記イ、ウのほか、要件を満たせば、裁量労働制(労働基準法第38条の3、第38条の4)や高度プロフェッショナル制度(同法第41条の2)によって、予め定められた労働時間数労働したものとみなし、あるいは、労働基準法に定められた労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定を一切適用しない扱いとすることができる。
これらも、個々の対象者(対象業務)につき適用可能であれば、テレワークでも活用し得るものではあるが、テレワーク導入のためだけにこれらの制度を導入・運用することは実際上(要件の該否あるいは手続の煩雑さとの関係で)考え難いところであり、むしろ、すでにこれらの制度の対象となっている者に対して、一定の条件の下で在宅での作業等を認めるかたちになろう。
(3)につづく
[1] 厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2019/05/0000149439.pdf
[2] 厚生労働省「情報通信機器を活用した在宅勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」https://www.mhlw.go.jp/houdou/2004/03/h0305-1.html