公取委、独占禁止法研究会の開催状況に第6回会合の議事録を追加
岩田合同法律事務所
弁護士 大 櫛 健 一
平成28年8月19日、公正取引委員会は、同年6月28日に開催された独占禁止法研究会第6回会合の議事録を公開した。同会合では、公正取引委員会が同年7月13日から意見募集を行っている「課徴金制度の在り方に関する論点整理」について議論されており、優越的地位の濫用における課徴金制度の在り方も論点として挙げられた。
そこで、本稿においては、優越的地位の濫用における課徴金の算定に関する主な解釈上の論点について紹介したい。
独占禁止法20条の6は、概要、事業者が、相手方に対して、商品・役務の購入要請、金銭・労務等利益の提供要請、その他優越的地位を利用した正常な商慣習に照らして不当な行為(独占禁止法2条9項5号参照。以下「濫用行為」という。)を継続して行ったときに、①「当該行為をした日」から②「当該行為がなくなる日」までの期間(以下「課徴金算定期間」という。)における、③「当該行為の相手方」との間における売上額を基準として課徴金を付すものと定めている。
上記①から③のうち、課徴金算定期間の始期である①「当該行為をした日」については、公正取引委員会の事件処理によれば、濫用行為の結果が発生した日、すなわち、相手方による商品・役務の購入日、金銭・労務等利益の提供日など相手方に不利益が生じた日が基準とされており、結果に先立って事業者から相手方に対して要請(働きかけ)それ自体をした日とは解されていない。このように課徴金算定期間の始期を結果発生時点まで後ろ倒して認定することについては、事業者としても特段の異論はないところであろう。
問題となるのは、上記②及び③であり、特に③「当該行為の相手方」の解釈を巡っては、事業者が複数の相手方に対して濫用行為を行っていた場合において、 (A)複数の相手方を一体的に「当該行為の相手方」と捉えて課徴金算定期間を一律に定める見解、(B)「当該行為の相手方」を個別に捉えて個々の相手方毎に課徴金算定期間を定める見解が存在しており、それぞれの見解によって算定される課徴金額には大きな開きが生じ得るため、激しい意見の対立がある。
公正取引委員会は、優越的地位の濫用における課徴金制度が導入された平成22年以降、課徴金納付命令を下した5つの事件(後記【別表】のとおりであり、全て審判請求による不服申立てがなされている。)において、いずれも上記(A)の見解に基づいて課徴金を算定している。
これに対し、既に審決が下されている㈱日本トイザらスの審判請求事件において、㈱日本トイザらスは、上記(B)の見解を採るべきことを主張して争ったものの、同審決では、「組織的、計画的に一連のものとして実行されているなど、それらの行為を行為者の優越的地位の濫用として一体として評価できる場合」には、上記(A)の見解を採ることができるとの折衷的な見解が示された上で、同事件において上記(A)の見解に基づいて課徴金を算定したことは妥当であったと結論付けられた。
最後に、②課徴金算定期間の終期となる「当該行為がなくなる日」の解釈については、その文言によれば、(a)結果として、最後に濫用行為が行われた日や、(b)その後において、濫用行為が行われる可能性がなくなった日などといった「行為」に着目する見解が合理的であるように思われるものの、一部の審判請求事件における審査官の主張においては、(c)公正な競争秩序に対する悪影響を及ぼすおそれが完全になくなる日等といった「悪影響」に着目する見解も見られるようである。
公正取引委員会による事件処理においては、常に立入検査(審査開始)後に行為の取り止めを認定している(後記【別表】参照)ことから、上記(a)の見解が採られていないことは明らかといえるものの、具体的にどのような判断基準に基づいて終期を認定しているのかは明確でない。
このように、優越的地位の濫用における課徴金制度においては、課徴金額に大きな影響を及ぼし得る算定期間の考え方を巡って大きな論点が未だ残っている。こうした論点も踏まえつつ、今後、優越的地位の濫用における課徴金制度の在り方が、どのように議論されるのかは引き続き注視する必要があろう。
立入検査 | 行為取止め | 命令日 | 審判状況 | |
(株)山陽マルナカ | H22.5.18 | H22.5.19 | H23.6.22 | 結審 |
日本トイザらス(株) | H22.9.14 | H23.2.1 | H23.12.13 | 審決済み |
(株)エディオン | H22.11.17 | H22.11.30 | H24.2.16 | 審理中 |
(株)ラルズ | H24.1.17 | H24.3.14 | H25.7.3 | 審理中 |
ダイレックス(株) | H24.12.5 | H24.12.17 | H26.6.5 | 審理中 |