◇SH0646◇インドネシア:宗教祭日賞与(レバランボーナス)に関する新労働大臣令 福井信雄(2016/04/28)

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インドネシア:宗教祭日賞与(レバランボーナス)に関する新労働大臣令

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 福 井 信 雄

 世界最大のイスラム教徒を擁するインドネシアでは、外国企業が事業を営む上でもイスラム教の教義や文化に配慮した対応が不可欠である。インドネシアはイスラム教を国教として定めているわけではなく、どの宗教も等しく尊重するという立場を採ってはいるものの、事実上、イスラム教を中心に制度運用されることが少なくない。宗教祭日に際して支払われる賞与もその一つであり、これに関して本年3月8日に新しい宗教祭日賞与に関する労働大臣令(2016年第6号)が施行された。2016年のイスラム教の宗教祭日は7月6日・7日とされており、インドネシアの各日系現地法人でも順次支給の準備を開始されていることと思われる。本稿では今回の労働大臣令の改正点も踏まえ宗教祭日賞与制度について解説する。

 宗教祭日賞与とは、インドネシアの宗教祭日に際して雇用主から労働者に対して給付される賞与を意味し、インドネシア語(Tunjangan Hari Raya)の頭文字をとってTHR(テーハーエル)と一般に呼ばれる。インドネシアでは、従来から宗教祭日に際して労働者に賞与を支払うことが法律上義務付けられており、今回の労働大臣令はその義務の内容に関して若干の改正がなされたものである。

1 法定の宗教祭日

 インドネシアで法律上の宗教祭日とされているのは、以下の5つである。

   (ア) イドゥルフィトリ(レバラン)(イスラム教の祭日)

   (イ) クリスマス(キリスト教の祭日)

   (ウ) ニュピ(ヒンドゥー教の祭日)

   (エ) べサック(仏教の祭日)

   (オ) 旧正月(儒教の祭日)

 雇用主は、宗教祭日賞与を年に1度これらの宗教祭日の遅くとも7日前までに労働者に支払わなければならない。制度上は、労働者の宗教に応じて適用される宗教祭日が異なることが想定されているが、実際はイスラム教徒が圧倒的多数を占めていることからイスラム教徒の祭日に合わせて全労働者に支給する雇用主が多い。(そのためイスラム教の祭日の名称から通称「レバラン・ボーナス」と呼ばれることも多い。)イスラム教の断食明けの祭日であるイドゥルフィトリ(レバラン)に向けて、市場における物価も顕著に上昇することから、早いタイミングでこのレバラン・ボーナスを支給すると労働者からも喜ばれる。

2  支給義務者と受給権利者

 宗教祭日賞与の支給義務を負う雇用主には、外資・内資を問わず、株式会社及びそれ以外の形態の法人、組合、個人も含まれる。したがって、インドネシアで事業を行う日系現地法人は当然支給義務者となるし、例えば日本人駐在員が個人で運転手やメイドを雇用している場合にも、支給義務を負うことになる。受給権利者である労働者は、雇用の形態(正社員・契約社員)にかかわらず、1ヶ月以上の勤続期間のある全ての労働者が対象となり(今回の改正前は3ヶ月以上の勤続期間のある労働者が対象とされていた)、また宗教祭日から遡って30日以内に退職した正社員については、退職後であってもその年度の宗教祭日賞与を受給する権利を有する。

3  宗教祭日賞与の支給額

 宗教祭日賞与はルピア建て現金での支給が義務付けられており(改正前は総額の25%を超えない範囲で現金以外の形態での支給も許容されていた)、その金額は労働者の勤続期間によって異なる。すなわち、12ヶ月以上の勤続期間がある労働者には基本給1ヶ月分、12ヶ月に満たない労働者には、基本給1ヶ月分に(勤続期間/12)を乗じた金額となる。

 また、今回の改正では日雇い労働者に対しても支給が義務付けられることになり、12ヶ月以上の勤続期間がある労働者に対しては直近12ヶ月の平均給与額(月額)、12ヶ月に満たない労働者には、これまでの勤続期間における平均給与額(月額)が宗教祭日賞与として支給される。

 

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