◇SH2551◇最三小決 平成31年2月12日  移送決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件(岡部喜代子裁判長)

未分類

 離婚訴訟において原告と第三者との不貞行為を主張して請求棄却を求めている被告が上記第三者を相手方として提起した上記不貞行為を理由とする損害賠償請求訴訟の人事訴訟法8条1項にいう「人事訴訟に係る請求の原因である事実によって生じた損害の賠償に関する請求に係る訴訟」該当性

 離婚訴訟の被告が、原告は第三者と不貞行為をした有責配偶者であると主張して、その離婚請求の棄却を求めている場合において、上記被告が上記第三者を相手方として提起した上記不貞行為を理由とする損害賠償請求訴訟は、人事訴訟法8条1項にいう「人事訴訟に係る請求の原因である事実によって生じた損害の賠償に関する請求に係る訴訟」に当たる。

 人事訴訟法8条1項、民法1条2項、民法770条

 平成30年(許)第10号 最高裁平成31年2月12日第三小法廷決定 移送決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件 棄却

 原 審:平成30年(ラ)第941号 東京高裁平成30年6月6日決定
 原々審:平成30年(モ)第94号  横浜地裁平成30年4月18日決定

1 事案の概要

 本件は、配偶者から離婚訴訟を提起された被告Yが、同離婚訴訟において、配偶者Aは第三者Xと不貞行為をした有責配偶者であると主張して、その離婚請求の棄却を求める一方で、上記不貞行為を理由とするXに対する損害賠償請求訴訟を横浜地方裁判所に提起したところ、Xが、人事訴訟法8条1項に基づき、上記損害賠償請求訴訟を離婚訴訟の係属する横浜家庭裁判所へ移送するよう申し立てた事案である。

 原々審は、上記損害賠償請求訴訟を横浜家庭裁判所に移送するとの決定をし、Yが即時抗告をしたところ、原審は、同即時抗告を棄却した。Yが許可抗告の申立てをしたところ、原審がこれを許可した。

 最高裁は、決定要旨のとおり判示して、Yの本件抗告を棄却した。

 

 損害賠償請求訴訟については、地裁又は簡裁に管轄があるが(裁判所法24条1号、33条1項1号)、人事訴訟法(以下「人訴法」という。)は、「人事訴訟に係る請求の原因である事実によって生じた損害の賠償に関する請求」(以下「関連損害賠償請求」という。)について家庭裁判所に管轄を認めている。すなわち、①人訴法17条1項は、人事訴訟の請求と関連損害賠償請求は一の訴えですることができる旨を定め、②同条2項は、関連損害賠償請求の訴えは人事訴訟が係属している家裁に対して提起することができる旨を定め、③人訴法8条1項は、人事訴訟が係属している場合において、関連損害賠償請求の訴えが第1審裁判所に提起されたときは、その第1審裁判所は関連損害賠償請求訴訟を上記人事訴訟が係属する家庭裁判所に移送することができる旨を定めており、それぞれの場合において家庭裁判所が関連損害賠償請求訴訟について自ら審理及び判断することができる旨を定めている。

 上記の人訴法の各規定の趣旨は、関連損害賠償請求が人事訴訟の請求原因事実を基礎とするものであり、両者の審理判断において主張立証の観点から緊密な牽連関係があり、関連損害賠償請求を人事訴訟の請求と併合し、又は反訴の提起をすることを許すことについては、当事者の立証の便宜及び訴訟経済に合致し、しかも人事訴訟の審理に別段の錯そう遅延を生ずるおそれはないことから、関連損害賠償請求を人事訴訟に併合して審理できるようにしたものである(小野瀬厚=岡健太郎編著『一問一答新しい人事訴訟制度』(商事法務、2004)36頁)。

 関連損害賠償請求の典型例としては、原告が配偶者である被告に対して不貞行為を原因とする離婚請求をした場合における、原告の被告に対する上記不貞行為を原因とする慰謝料請求が挙げられる。離婚訴訟の被告が離婚請求が認容された場合の予備的反訴として離婚慰謝料請求をすることも実務上しばしばみられるところ、このような離婚慰謝料請求も関連損害賠償請求に当たるものと考えられる。関連損害賠償請求は、人事訴訟の当事者の一方から他方に対する請求に限られず、第三者に対する請求であってもよい(旧人事訴訟手続法の判例として最一小判昭和33・1・23集民30号131頁参照。なお、国際裁判管轄の場面では、関連損害賠償請求は人事訴訟における当事者の一方から他方に対する請求に限定されている(人訴法3条の3))。

 離婚訴訟の被告が、原告は第三者と不貞行為をした有責配偶者であると主張して、その離婚請求の棄却を求めている場合、同訴訟において、不貞行為の有無や不貞行為より前に婚姻関係が破綻していたかなどといった点が審理されることとなるのが通常である。これらの点は、被告の上記第三者を相手方として提起した上記不貞行為を理由とする損害賠償請求訴訟における審理内容と重複するものであり、これらの訴訟を同一手続で審理することが当事者の立証の便宜に資し、訴訟経済にかなう場合が多いものと考えられる。

 本決定は、このような両訴訟の緊密な関係から、離婚訴訟において原告と第三者との不貞行為を主張して請求棄却を求めている被告が上記第三者を相手方として提起した上記不貞行為を理由とする損害賠償請求訴訟は関連損害賠償請求に係る訴訟に当たると判断したものと解される。

 ところで、人訴法8条1項は「請求の原因である事実によって生じた損害の賠償に関する請求」と規定しているところ、「請求の原因」は、「請求を特定するのに必要な事実」という意味で用いられる場合(民訴法133条2項2号、143条、民訴規則53条1項)や、原告の請求を理由づける主要事実という意味で用いられる場合のほか、実体法上の請求権の存否自体に関する一切の事実から数額を除いたものを指すものという意味で用いられる場合(中間判決に関する民訴法245条)もあり、必ずしも原告の主張する事実を指すものに限られない。

 なお、離婚訴訟の被告が、原告は第三者と不貞行為をした有責配偶者であると主張して、その離婚請求の棄却を求めている場合において、上記第三者を相手方とする損害賠償請求訴訟を離婚訴訟の係属する家庭裁判所に提起することができるかという問題があり、東京家庭裁判所においてはそのような訴訟については、受理して地方裁判所への移送をしないとの取扱いがされているとのことである(青木晋編著『人事訴訟の審理の実情』(判例タイムズ社、2018)13頁)。本決定は直接にこの問題を扱ったものではないものの、上記の取扱いは本件決定の考え方に沿うものといえよう。

 本決定は、家庭裁判所の職分管轄に関するものであり、実務上の影響は大きく、重要な意義を有するものと考えられる。

タイトルとURLをコピーしました