◇SH2555◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(165)日本ミルクコミュニティ㈱のコンプライアンス㊲ 岩倉秀雄(2019/05/24)

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コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(165)

―日本ミルクコミュニティ㈱のコンプライアンス㊲―

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、危機発生時の記者会見、ステークホルダーへの対応、事態が継続する場合の対応について、経験を踏まえて述べた。

 記者会見は社長やこれに準ずる人をスポークスマンに決め、関連部門の責任者も同席して詳細な説明ができるようにする。

 スポークスマンは、「感情的にならない」、「わからないことはわからないとし憶測や希望的観測は言わない」、「責任逃れの発言はしない」、「事態を過小評価せず企業として事態を重視している姿勢を示す」……等に留意する。 

 ステークホルダーへの対応では、①消費者には最優先で情報を伝え、対応窓口を強化する、②被害者には、原因判明を待たず、すべての対応策を誠心誠意説明し専用対応窓口を設ける、③流通には、早くから継続的に情報を伝え、対応方針・再発防止策が決まった段階では、役員等が公式文書を持って説明に行く、④大株主・金融機関には、経営責任者が直接説明し、法上の「重要事実」に該当する場合には情報開示を優先する、⑤行政には、ただちに地元、中央、県のすべての関係先に報告し、必要により相談しながら対応する、⑥業界には、ただちに情報開示を行い業界全体への影響を少なくする。

 また、当初の想定と異なり事態が継続する場合には、全体の流れを見直し、戦略的に対応する必要がある。

 今回は、危機収束時の対応と残された課題について考察する。

 

【日本ミルクコミュニィティ(株)のコンプライアンス㊲:組織の危機管理⑨】

1. 危機収束の判断

 一般に危機が収束に向かっていると判断するのは、危機発生の原因と対策が明確になり、それを公表して対策を実施し始めている場合であり、被害者の補償についてほぼ合意し行政や組織による関係者の処分が決定したこと等により、報道の取材もほぼなくなった場合である。

 このような場合の組織の対応は、経営トップによる収束宣言、すなわち組織としての反省とこれを踏まえた今後のあり方に対する決意表明を行い、けじめをつけることが組織内の結束を固め再生を図る上で重要である。

 危機対策本部は縮小され事務局が中心になって運営されるが、他の機能は平時の組織に移管され、最終報告書を完成した後には危機対策本部は解散する。

 最終報告書の作成に当たっては、どうすれば危機は未然に防げたか、危機対応に問題はなかったか等についても検証して、組織のあり方の本質に迫った見直しを行い、危機対応計画・危機対応マニュアルの改善に反映する必要がある。

 

2. 組織の再生

 再生のための第一歩は、不祥事発生の原因を徹底的に究明して再発防止の行動を起こすことであり(一見単なるミスによると思われる場合もあるが、組織文化に根ざす場合が多い)、次にブランド価値を含め失われた組織資産の程度を把握し(理念、ビジョン、ブランド、方針、戦略、組織構造、組織文化、事業、資金等のあらゆる面を再評価する)、組織全体の再構築を図ることである。

 特に組織文化に問題があり、組織崩壊の可能性のある重大な危機から再生する場合には、経営者による強いリーダーシップの下に新たな理念やビジョンが呈示され、迅速・ドラスティックな組織文化の革新が組織のあらゆる階層を巻き込んで実施される必要がある。

 経営再建計画に組織一丸となって取り組み実行できる場合には、成功する可能性が高い。

 危機収束後のメディア戦略や広報戦略では、対外的なイメージ回復と同時に組織内の結束を促す内部広報も重視しなければならない。

 なぜなら、経営再建は組織内部の成員の結束力によるところが大きく、内部のモラルの高まりが再生のエネルギーとなるからである。

 また、再生には流通関係者や取引先の理解と信頼回復が非常に重要なので、営業担当者の頻繁な訪問による現場レベルの人的関係の強化はもとより、現在取り組んでいる再発防止策や、新たなビジョン・計画の下で再生に向け組織一丸となって取り組む姿をしかるべき地位にある者が訴え、組織レベルの理解と信頼関係を再構築する必要がある。

 

3. 残された課題

 本稿は、「危機の発生を予防し、危機発生時にダメージを最小に抑え、危機から学んだことを今後の経営管理に役立てる」方法を中心に考察したが、本稿で取上げなかったが、今後重要になると思われる課題は以下の通りである。

(1) 現場から見た危機管理

 本稿は、危機対策本部組織のあり方を中心に現場組織機能についても触れたが、実際に危機発生に対応している現場の立場から見て、危機管理はどうあるべきかという課題がある。

 これについては、現場に大幅に権限を委譲することでチーム効力感が高まり有機的な危機対応が可能になるとの見方がある[1]が、本部とチームのあり方をどう設定するかなど、いくつかの実務的検討によって課題をクリアーできれば、現場と本部の両方が一体となったより緻密で確実な危機管理体制を構築できる可能性がある。

(2) 危機管理後の組織の再生を実現するマネジメントの在り方

 これは、「組織の失敗と再生」の問題として大きなテーマである。

 多くの不祥事を発生させた組織のうち、ある組織は経営再建を果たし、ある組織は消滅の道をたどったが、その違いは何か。

 本稿では、既に、債務超過の危機を脱した日本ミルクコミュニティ(株)のケースを取り上げたが、不祥事を発生させた組織が、どのような企業行動により経営再建を果たしたか、その施策に共通するものは何か、なぜそれが有効だったのか等、を確認できれば、危機の予防と迅速な経営再建の要諦を把握する上で役に立つと思われる。

 (3)「イシューマネジメント」の研究

 自組織の危機に発展するかもしれない政策決定や社会的問題に対して事前に研究し対策を講じる「イシューマネジメント」は、危機の発生を予防する上で重要で大きなテーマであるが、単独の組織がこれを実施するためには、一定以上の資源が必要なので、業界団体や専門機関の情報活用を検討する必要がある。

つづく



[1] 高田朝子『危機対応のエフィカシー・マネジメント――「チーム効力感」がカギを握る』(慶応義塾大学出版会、2003年)176頁

 

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