◇SH1109◇実学・企業法務(第39回) 齋藤憲道(2017/04/13)

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実学・企業法務(第39回)

第2章 仕事の仕組みと法律業務

同志社大学法学部

企業法務教育スーパーバイザー

齋 藤 憲 道

 

1. 商品企画

d. ビジネス・モデルの構築

(例1)複数企業が提携して作るICT(情報通信技術)関連ビジネス
 ICT関連ビジネスのほとんどは、 (1) インフラ・通信、(2) 機器メーカー、(3) eコマース、(4) 広告(検索エンジン提供等)、(5) デジタル・コンテンツ、 (6) 資金決済(クレジットカード、電子マネー、金融機関、決済代行、収納代行、ポイント・マイル等)等の機能のいくつかを組み合わせて構成する複合事業である。特定の企業が単独で完結したビジネス・モデルを構築するのは難しく、専門スキルを持つ複数の事業者が結集し、契約ベースで役割分担して実現される。
 ICT関連ビジネスでは、運営事業者と利用者(個人消費者、企業)との間の取引は、ほとんど事業者が「約款」で定めた条件に従って行われる。
 ICTは、大規模データ・ベースの構築とその利活用の進展や、クラウド・サービスの拡大等に見られるように、広範なビジネスに浸透して不可欠なものとなっている。
 これに伴って、個人情報保護・電子商取引における意思表示や本人確認等の問題の解消・サイバー犯罪対策等の必要性が増大しており、企業・業界団体・消費者団体・行政機関等が協力して利用者(個人消費者、企業)啓発や、健全な市場の形成に取り組んでいる。

(例2)パテント・プール
 DVDのような録画再生機器は、自社技術だけを用いて開発しても、自社の同一機種でしか録画・再生できないために普及範囲が限られる。
 市場を拡大するには、各社が映像符号化技術・フォーマット等を標準化して、業界全体で互換性のある機器や電子媒体を販売することが必要である。
 例えば、DVD規格を制定するには多数の特許が必須になり、1社の特許だけでは規格は成り立たない。そこで、規格の主要な開発会社が共同でパテント・プール(代理人会社)を設立し、それぞれが所有する必須特許を出し合ってDVD機器の製造・販売事業の参入希望者に一括ライセンスする仕組みが作られた。DVD規格では、プレーヤーやディスクの種類ごとにロイヤリティが定められ、これをプール会社が使用者から徴収して、権利者に特許件数に応じて配分する。
 パテント・プールで標準規格を形成する際には、独占禁止法が禁じる私的独占や不当な取引制限等(特定の会社の排除等)に該当することがないように留意しなければならず、中立的な弁護士の助言・同席を求めることが多い。この点について公正取引委員会は「標準化に伴うパテントプールの形成等に関する独占禁止法上の考え方[1]」を公表し、新規事業の健全な展開を促している。

(例3)標準化(国際機関や標準化団体の標準規格、事実上の標準)
 ある商品(製品、サービス)が開発されたとき、(1)特定の企業がその生産・販売に必要な知的財産権を独占しているために市場参入する企業が限られるケースや、(2)各社がそれぞれの方式の商品を市場に出すために消費者が困惑して購入量が伸びないケースがある。
 この(1)と(2)では、多くの場合、購入者層が限られて販売数量が増えないために、商品価格が下がらず、商品が本格的な普及期を迎えないまま推移する。
 このとき、商品の製造・販売に必要な技術・方式等を誰もが使えるように標準化して、無償(又は低廉なロイヤリティ)で公開し、市場に参入する企業を増やして商品の性能向上や価格引下げの競争を活発にして市場を拡大する戦略が採られることがある。
 標準規格には、国際規格(国際標準化機構ISO、国際電気標準会議IEC、国際電気通信連合ITU等)、国家規格(日本JIS、米国ANSI、ドイツDIN等)、業界規格(米国電子工業会EIA、米国電気電子学会IEEE[2]等)等がある。
 これとは別に、特定の企業が独自に定めた商品規格が市場を席巻して、事実上の標準(de fact standard)として機能する例もある[3]。 

(例4)映画製作
 一般的な日本の映画ビジネス[4]では、最初に、特定の作品に係る事業を企画する企業が数社参加して民法上の組合[5]である製作委員会[6]を設置する。
 そのうえで、この委員会が主体者(実際には、参加企業の中の1社が幹事会社となって製作委員会を代表する)として、①映画の製作に係る小説等の原作利用・脚本・監督・制作・音楽著作権・出演(芸能事務所等)・美術録音等のスタッフ等の契約、及び、②完成した映画の商業的利用に関する配給・ビデオ製作販売・TV放送・商品化・シリーズ化・リメイク等の契約を、それぞれの関係者と締結して、ビジネスを具体的に展開する。
 映画ビジネスには、多額の先行資金が必要だが、映画製作が未完に終わり、制作予算が超過し、完成してもヒットしない等のリスクが常にある。
 このため、資金調達では、①製作委員会の構成員が出資し合い、②製作委員会が完成保証会社の保証を付けて銀行借入を行い、③製作委員会に代わる有限責任事業組合(日本版LLP)又は投資事業有限責任組合(日本版LP)を設立登記して銀行借入する等の方法が採られる。



[1] 平成17年(2005年)6月29日、平成19年(2007年)9月28日改正

[2] IEEE規格の多くは、米国国家規格(ANSI)に採用されている。

[3] 例えば、家庭用ビデオのVHS方式、パソコンOSのWindous、キーボードのキー配列QWERTY。

[4] 外国では、製作委員会ではなく、プロデューサー方式が利用される。後者では保証を利用して銀行借入するため、作品の完成保証・保険等が広く行われる。

[5] 民法667条(組合契約)

[6] 製作委員会設置契約では次の事項(例)を定める。目的・幹事会社の設定・共同製作会社の確認・映画の特定・原作や脚本に関する権利を有する保証・総製作費・共同製作者の出資額・予算超過の場合の措置・幹事会社の業務(各種契約締結、映画完成、著作権等の権利処理一切)・成果物(著作権他)の帰属・表示方法「© 201X △製作委員会」等・完成作品の利用と業務分担・収入と分配・製作委員会の存続期間、等。

 

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