◇SH2588◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(168)コンプライアンス経営のまとめ① 岩倉秀雄(2019/06/07)

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コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(168)

―コンプライアンス経営のまとめ①―

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、日本ミルクコミュニティ(株)の緊急品質委員会規則について述べた。

 日本ミルクコミュニティ(株)は、危機管理関連規定の一つに、「万一商品事故が発生した場合には、誠実、公正、透明を堅持し、お客様の健康被害を最小限に留めることを旨」に、緊急品質委員会規則を定めた。

 商品事故は、まずコミュニケーション部長が、お客様苦情を「商品事故重大化予測苦情判断基準」に基づき形式判断を行い、品質保証部長並びに生産技術部長が、重大性、拡大性、傾向等を考慮して内容判断を行った。

 それが、「お客様への健康被害や事故拡大の可能性がある」と判断した場合には、代表取締役社長が、「緊急品質委員会」を速やかに開催し、協議の結果「事故内容の告知と商品回収が必要」と判断した場合には、緊急品質委員会を危機対策本部(本社と現地)に移行して対応した。

 緊急品質委員会は、委員長(社長)、副委員長(委員長が指名した者)、その他の取締役、経営企画部長、コンプライアンス部長、コミュニケーション部長、総務・人事部長、生産技術部長、品質保証部長、その他委員長が指名する者により構成し、緊急品質委員会の下部組織として原因究明チームを組織した。

 原因究明チームは、リーダー(品質保証部長が指名する者)、本社生産技術部又は酪農資材部、品質保証部からの派遣者、地域事業部生産課からの派遣者、発生場所所属長よりなり、事故発生部署ですべての業務に優先して原因究明に取り組んだ。

 また、危機対策本部の情報開示の在り方は、「情報開示規則」の「情報開示判定シート」により点数化して定めたが、最終的な判断は危機対策本部長が行った。

 本連載は、筆者が大学院で学んだ組織論(特に組織文化論と組織行動論)・経営法務と実務経験(全酪連での危機対応と組織風土改革及び経営再建、合併会社日本ミルクコミュニティ(株)の設立とコンプライアンス体制のゼロからの構築、『雪印乳業史 第7巻』・『日本ミルクコミュニティ史』の共同編纂と雪印乳業の創業者黒澤酉蔵の伝記の執筆等)をベースに、コンプライアンス経営の在り方について、やや踏み込んだ考察を行ってきた。

 これからは、コンプライアンス経営のまとめと補足を述べた後、(必要によりコンプライアンス経営にも触れるが)、組織論(特に戦略論)の視点から、最近国際的に注目されているSDGs等、CSR経営に関連するテーマについて考察する。

 

【コンプライアンス経営のまとめ①:問題認識と考察の視点①】

 本稿では、組織文化の概念と機能、組織内の各階層の役割とパワー、移行過程のマネジメント、危機管理、コンプライアンスプログラムの運用上の留意点等を理論と実践を踏まえて考察するとともに、合併組織や企業グループ等様々の組織においてコンプライアンスを組織文化に浸透させるための具体的な課題と方法について考察した。

 また、本稿の後半では、不祥事や経営危機から再生した全酪連、雪印乳業㈱グループ、日本ミルクコミュニティ㈱の事例を取り上げ、組織再生に深くかかわった者でなければ踏み込めないレベルの考察を行い、コンプライアンス経営に必要な視点を提供した。

 今回は、筆者の問題認識と組織文化の定義を述べる。

 

1. 筆者の問題認識

 一般に、不祥事を発生させる企業(企業グループ)は、(不祥事の原因調査に当たった第3者委員会も指摘しているが)利益第一主義、上に物を言えない、縦割り等の組織文化を持つ企業(企業グループ)が多く、不祥事の発生を契機に改革を実行したとしても、不祥事を再発させる場合が多い。

 むしろ、筆者の経験では、不祥事発生企業は不祥事を発生させていない企業に比べて、子供への学校でのいじめやリストラ等が引き金になり、従業員の組織に対するロイヤルティが著しく減退し、経営層に対する反発も起きやすいので、一時的に上から強制された新たなコンプライアンスプログラムに従ったとしても、時間が経過して社会的非難が収まるとともに、慣れ親しんだもとの組織文化に回帰し、不祥事を再発させる可能性が高い。

 したがって、不祥事発生組織にコンプライアンスを徹底し、2度と不祥事を発生させない組織(企業)を構築するためには、目に見えるルールや制度の改革は当然実施しなければならない重要事項であるが、それだけでは不十分であり、経営トップ層が中心となり組織の各階層がその役割とパワーを自覚・発揮して、コンプライアンスを組織文化に浸透・定着させなければならない。

 これまで不祥事を発生させていない組織にとっても、(不祥事発生組織ほど迅速・ドラスティックに要求されないとしても)コンプライアンスを組織文化に浸透させることは、従業員の「やらされ感」をなくすことになり、危機管理力を高め組織の続的発展にとって必要である。

 

2. 組織文化の定義

 シャインは、組織文化を「組織が生成・発展するにつれて形成された組織メンバーに共有され、無意識のうちに機能する組織の認識の仕方に影響を与えるパターン」、あるいは「共有された暗黙の仮定」と述べ、以下の3段階に区別した。

 

図.組織文化の3つのレベル

  1. ※ Edgar H.Schein(1985)“Organizational Culture and Leadership”清水紀彦=浜田幸雄訳『組織文化とリーダーシップ――リーダーは文化をどう変革するか』(ダイヤモンド社、1989年)及びEdgar H.Schein(2009)”The Corporate Culture Survival Guide : New and Revised Edition(尾川丈一監訳、松本美央訳『企業文化〔改訂版〕――ダイバーシティと文化の仕組み』(白桃書房、2016年))他、をもとに岩倉がまとめた。
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