総務省、下請取引の適正化に関する制度の周知状況等を調査し、
下請取引の適正化に関する勧告を公表
岩田合同法律事務所
弁護士 羽 間 弘 善
我が国では、親事業者と下請事業者との間の不公正な取引を防ぎ、立場の弱い下請事業者の利益保護を図るため、下請代金支払遅延等防止法(昭和31年法律第120号。以下「下請法」という。)が制定されており、政府は、下請取引における適正な取引慣行の普及・定着に向けて、下請法の運用基準の改正や、書面調査・立入検査の実施、個別の相談への対応、親事業者への勧告・指導などに取り組んでいる。
しかし、かかる取組みにもかかわらず、下請法違反行為に対する指導や下請取引に関する相談件数は、年々増加しているため、今般、総務省は、下請取引の適正化を推進する観点から、制度の周知状況、下請事業者からの相談等の処理状況等に関する調査(以下「本調査」という。)を実施し、関係行政の改善に資するための勧告(以下「本勧告」という。)を行った。
下記表のとおり、本調査の結果、①法制度の周知・啓発、②(公正取引委員会等が運用する)相談窓口の対応、及び、③取引実態や行政ニーズの把握等についての課題が指摘されており、本勧告は今後の対応を提言している。
調査結果と勧告内容の概要
(参照:https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2018/08/000568119.pdf)
上記のうち③取引実態や行政ニーズの把握に関しては、親事業者による下請法違反があった場合に、下請事業者による通報が適切に行われていないとの問題があり、本勧告では、とりわけ親事業者の下請事業者への報復のおそれが原因となり相談窓口の利用が控えられていることについての問題意識が示されている。
そもそも、下請法では、下請事業者が親事業者の不公正な行為を公正取引委員会又は中小企業庁に知らせたこと(以下「不公正な行為の通報」という。)を理由としてその下請事業者に対して、取引数量の削減・取引停止等の不利益な取扱いをすることは禁止されており(下請法4条1項7号)、これに対する違反は勧告の対象となる(下請法7条1項)。
しかしながら、本調査によると、親事業者による報復措置の恐れがあるため、不公正な行為の通報を控えざるを得ない旨の下請事業者の意見が多くみられた。
これは、下請法上は親事業者による報復措置を禁止していたとしても、実態としては、親事業者が下請事業者に対して取引数量の削減・取引停止等が行った場合に、不公正な行為の通報に対する報復措置として行われたものであるのか、景気の悪化や需要の減少などの取引上の必要性から行われたものであるのか、判別がつかない場合があり、かかる実態がある限り、不公正な行為の通報を控えざるを得ないとの考えが背景にあるものと思われる。
本勧告では、かかる問題に対して、下請事業者からの相談対応後に取引状況のフォローアップを行うことを提案している。このようなフォローアップが充実すれば、下請事業者の報復措置への不安緩和を一定程度図ることができ、また、親事業者に対しても、下請事業者に対する不利益な取扱いへの牽制機能が期待できるためであろう。
また、本調査において、親事業者による報復措置の恐れがあるため、不公正な行為の通報を控えざるを得ない旨の下請事業者の意見が多くみられたという事実は、親事業者の中には、下請事業者が報復措置を恐れて通報しないために発覚していないだけで、下請法に違反する行為を行っている親事業者が少なからず存在することを示している。したがって、これまで下請法違反を理由に摘発をされていない親事業者においても、改めて下請法の遵守状況を確認するなど、下請取引が適正に行われているか否かについて再点検を行う必要があるであろう。
以 上