法務担当者のための『働き方改革』の解説(36・完)
副業・兼業(2)
TMI総合法律事務所
弁護士 栗 原 誠 二
XIX 副業・兼業
3 実務上の留意点
(1) 副業・兼業を認める手続をどうするか
改訂後のモデル就業規則の内容や近時の裁判例の傾向を鑑みると、従来多くの会社が採用してきた「副業・兼業は原則禁止とし、例外的に許可することがある」といった規定のもとで、実際に「厳格な許可制」の適用を続けることは、法的リスクがあると言わざるを得ない。
一方で、例外なく自由に副業・兼業を認めてしまうと、会社の秘密情報が外部に漏洩する等の悪影響が生じたり、従業員が副業・兼業に多くの時間をかけることにより、労働効率が落ち、また従業員の健康状態が悪化するリスクが増加することが懸念される。よって、許可制にせよ届出制にせよ、これらを防止するための対策を講じる必要がある。
許可制を採用(又は継続)する場合には、上記のような弊害が生じないような副業・兼業であれば、一定の要件を満たすことを条件に積極的に許可を与えることが望ましく、一方で届出制を採用する場合であっても、副業・兼業の具体的な内容や勤務先、労働時間等については必ず申告させた上で、上記のような懸念が生じる場合は、内容を変更させたり、副業・兼業を禁止する場合があることを明示するなどして、臨機応変の対応を行うことができるようにするべきである。
モデル就業規則の改訂を受けて、今後は届出制が一般的になる可能性があるが、副業・兼業の内容や労働時間数によっては、会社が検討した結果、禁止(不許可)とせざるを得ない場合も考えられるので、許可制を維持した上で、許可の要件を緩やかにする方法も、実務的には十分な合理性があると考えられる。
(2) 労働時間管理・健康管理
労働基準法第38条1項は、「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。」と規定し、「事業場を異にする場合」とは事業主を異にする場合を含むものとされている[1]。
よって、労働者が別の使用者のもとで副業として勤務する場合の留意点としては、「①1日の労働時間を通算して、1日8時間以上になる場合には、8時間を超えて働かせた使用者が割増賃金を支払うこと」とし、「②副業・兼業により加重労働となり、健康状態が悪化しないよう、本業と副業・兼業の労働時間を通算した場合の法定時間外労働が一定時間数以下(1つの目安としては、改正労働基準法における時間外労働の上限である、1か月あたり45時間、年間360時間以下とすることが考えられる)となるよう、副業・兼業に従事する時間数を制限する(合計の労働時間が一定時間数以下の場合のみに認める)ことが考えられる。
また、副業・兼業先における労働時間については、各従業員から日々報告させるべきである。特に、雇用型ではなく、自営型の副業・兼業の場合は、労働者自身による労働時間管理が必要となるので、副業・兼業の稼働時間について労働者の自由にさせることなく、定期的な報告を義務付けることにより労働者の健康管理を行い、加重労働を防止するべきである。
(3) 誓約書の提出を義務づける
上記のとおり、幅広く副業・兼業を認める場合であっても、会社の秘密情報が外部に開示・漏洩されてしまうリスクや、労働者の健康状態悪化のリスクがあるような副業・兼業まで容認するべきではない。
そこで、上記のとおり、副業・兼業先や業務の内容、労働時間などの一定の情報を申告させ、その内容次第で、一部を変更することを条件に許可したり、それが難しい場合は副業・兼業を禁止することが考えられる。
この観点から、一定の事項を記載した「誓約書」を労働者に提出してもらい、誓約書の内容を遵守することを条件として、副業・兼業を認めるといった方法も有効である。誓約書の記載内容としては、例えば以下のようなものが考えられるが、業種や業務内容などにより適宜アレンジすることが有益と思われるので、必要に応じて専門家のアドバイスを得るなどして対応されたい。
- ・ 会社に届け出た副業・兼業先及び業務内容以外の業務は行わないこと。
- ・ 会社に届け出た時間数を超える副業・兼業は行わないこと。
- ・ 副業・兼業を含めた合計の労働時間が、会社が定める一定の労働時間を超えそうな場合や自己の健康状態に懸念が生じた場合は、即座に会社の担当部門に申告した上で、会社の指示に従うこと。
- ・ 会社と競合する業務は行わないこと。
- ・ 副業・兼業を行うにあたり、会社の秘密情報を使用したり、開示・漏洩しないこと。
- ・ 誓約事項を遵守しない場合は、副業・兼業を禁止されても異議を述べないこと。
以 上