企業活力を生む経営管理システム
―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―
同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー
齋 藤 憲 道
1. 商品企画・開発・設計
(2) 日常業務における管理項目
- ① 開発・設計の作業の結果を正しく記録する。(記録する方法を社内規程で定める。)
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1) 実験・計測等の記録・データは、裁判の証拠にできるように作成して保管する。
恣意的な修正・変更が行われない厳格な管理システムの下で作成・保管する。
(注) 事故やトラブルの原因をめぐって無用な責任追及・犯人探しを行う事態を避けるためにも、厳格な管理が望まれる。 -
2) 事実関係を巡って記録・データの存否・真偽が争われることがあり、注意したい事項。
(ⅰ) 研究開発を記録する。(ラボノート等)
開発成果が自社に帰属することを第三者に主張するのに有効。
自社が他者を侵害していないことを主張するのにも有効。
(ⅱ) 実験、検査、計測等を行って技術データを取得、記録、保存する[1]。
a) 正しい方法で試験を行う。(試験の手順[2]を定め、これに従って試験する。)
b) 改竄できない(又は、改竄の記録が残る)方法を用いて、製品の特性が公的な基準・規格に適合していること等を正確に記録する[3]。
(注) 新規・変更に関するデザインレビュー[4]記録、故障モードと影響分析(FMEA)を含む。
- ② 開発・設計に係る契約書を起案・締結・保管する。
- ・ 秘密保持、開発、共同開発、設計・試作・計測の委託等の契約を結ぶ。
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・ 標準化に関する他社との協議は、記録して残す。
独禁法遵守に配慮し、必要に応じて弁護士立会等を求める。
- ③ 商品企画・開発・設計の段階で生まれた発明を整理し、有力なものを特許出願する。
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(注1) 出願までに、従業員(職務発明)・外部委託先・共同開発の相手方等と自社の間の権利関係を整理しておく。
(注2) 敢えて特許出願しない製造方法・検査方法等の発明を明確に区分して、厳重に秘密管理する。
(3) 自社の責任で商品に関する期間設定・品質認定等を適切に行う
法令に基づき、自己責任で「使用期間の設定」「消費期限の設定」「賞味期限の設定」「型式指定車の完成検査」等を行う場合は、後日、当局を含む関係者から説明を求められた場合に備えて、法令の趣旨を踏まえ、実験方法とそれを採用する根拠、実験プロセス(使用する装置、作業手順、担当者、温度等の実験環境等を含む)、実験で得られたデータ等(計測方法、計測に用いた機器、計測した担当者を含む)の記録を残す必要がある。
- 例1 長期使用製品安全点検制度(消費生活用製品安全法)
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メーカー・輸入業者が自ら設定した「設計標準使用期間 ○○年」と「点検期間(△年△月~×年×月)」を製品の見やすい箇所に表示し、さらに、書面(取扱説明書等)および所有者票に表示して製品に添付する。
(注) 特定保守製品9品目の「設計標準使用期間」を設定するための「標準的な使用条件」については、JIS規格[5]が制定されている。
- 例2 長期使用製品安全表示制度(電気用品安全法、電気用品の技術上の基準を定める省令)
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「製造年」とともに、メーカーが自ら設定した「設計上の標準使用期間」を製品に表示し、使用者に製品の経年劣化の注意を喚起する。
(注)「設計上の標準使用期間」を設定するための「標準使用条件」については、JIS規格[6]が制定されている。
- 例3 食品の消費期限・賞味期限の設定、表示[7]
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食品の特性、品質変化の要因、原材料の衛生状態、製造・加工時の衛生管理の状態、容器包装の形態、保存状態等に関する知見を有する食品関連事業者(表示責任者[8])が、食品に関する「期限」を自ら設定する。
個々の商品の期限設定は、品質のばらつき・商品付帯環境を考慮し、安全係数を加味して行う。
例 微生物試験、理化学試験、官能試験(外観、臭い、風味等)等を行って「期限」を設定する。
[1] 「実験者/試験検査員の誤ったデータの取扱い・試験誤操作防止策」技術情報協会(2014年3月31日発行)に詳しい解説がある。
[2] 例えば、原料、規格、分析方法、検査装置、その他の機械器具、支援システム、コンピュータ・ソフト、工程、表示、包装材料
[3] 例えば、GMP 省令(厚生労働省令第179号 平成16年12月24日)20条には、予め指定した者に対する次の3つの要求事項が規定されている。①文書を作成・改訂するときは、手順書に基づき承認・配付・保管等する。②手順書等を作成・改訂するときは、それに日付を記載し、それ以前の改訂に係る履歴を保管する。③文書・記録を原則として作成日から(手順書等については使用しなくなった日から)5年間保管する。
[4] 製品・設備・材料・プロセスについて、設計・計画上の要求事項が満たされていること及び残った課題を、関係部門の専門的知見を集めて整理する。
[5] JIS S2071(屋内式ガス瞬間湯沸器・石油給湯機)、JIS S2072(屋内式ガスふろがま・石油ふろがま)、JIS 2073(密閉燃焼式石油温風暖房機)、JIS C9920-1(ビルトイン式電気食器洗機)、JIS C9920-2(浴室用電気乾燥機)
[6] JIS C9921-1(扇風機)、JIS C9921-2(換気扇)、JIS C9921-3(ルームエアコンディショナー)、JIS C9921-4(電気洗濯機)、JIS C9921-5(ブラウン管式TV受信機)
[7] 食品表示基準Q&A(平成27年3月 消費者庁)、食品期限表示の設定のためのガイドライン(平成17年2月 厚生労働省、農林水産省)より。
[8] 原則として、①輸入食品以外の食品では製造業者、加工業者、又は販売業者、②輸入食品では輸入業者、が責任を持って期限を設定し、表示する。