改正独占禁止法が成立・公布される
――課徴金減免制度の改正・課徴金の算定方法の見直し等――
「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律」が6月19日に成立し、6月26日に公布された(令和元年法律第45号)。改正法は、一部の規定を除き、公布の日から1年6月を超えない範囲内において政令で定める日から施行される。
改正法案は、3月12日に閣議決定の上、国会に提出された(後掲の別稿参照)。衆議院では、経済産業委員会で5月29日、本会議で5月30日に可決。参議院では、6月18日に経済産業委員会、6月19日に本会議で可決・成立した。なお、衆参両院の委員会において、後掲の附帯決議が付されている。
今回の改正は、次のような内容となっている。
- ① 課徴金減免制度の改正
-
減免申請による課徴金の減免に加えて、新たに事業者が事件の解明に資する資料の提出等をした場合に、公正取引委員会が課徴金の額を減額する仕組み(調査協力減算制度)を導入するとともに、減額対象事業者数の上限を廃止する。
- ② 課徴金の算定方法の見直し
-
課徴金の算定基礎の追加、算定期間の延長等課徴金の算定方法の見直しを行う。
- ③ 罰則規定の見直し
-
検査妨害等の罪に係る法人等に対する罰金の上限額の引上げ等を行う。
- ④ その他所要の改正を行う
また、公取委では、今回の法改正に併せて、いわゆる「弁護士・依頼者間秘匿特権」への対応として、「新たな課徴金減免制度をより機能させるとともに、外部の弁護士との相談に係る法的意見等についての秘密を実質的に保護し、適正手続を確保する観点から、改正後の独占禁止法の施行に合わせて、独占禁止法第76条に基づく規則や、指針等を整備する」こととしている(後掲の【事業者と弁護士との間で秘密に行われた通信の取扱いについて】参照)。
【私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律案に対する附帯決議(衆議院経済産業委員会・5月29日)】
政府は、本法施行に当たり、次の諸点について十分配慮すべきである。
- 一 減免申請を行う事業者の予見可能性を確保する観点から、新たな課徴金減免制度における事業者が自主的に提出する証拠等の評価方法については、ガイドラインにおいてその明確化を図ること。特に、カルテル・入札談合の対象商品・役務、受注調整の方法、参加事業者、実施時期、実施状況等の評価対象となる情報について、評価方法の考え方や具体例をわかりやすく明示すること。また、制度の運用状況を見つつ、適時適切にガイドラインの見直しを行うこと。
- 二 課徴金減免制度において、事業者の協力度合いに応じた減算率を適用するに際しては、より高い減算率を得ること等を目的として事実を歪曲した資料の提出や供述調書の作成により迅速な実態解明が阻害されることがないよう留意するとともに、運用の検証やガイドラインの策定など適切な対応を行うこと。
- 三 いわゆる弁護士・依頼者間秘匿特権に関して規則・ガイドライン等を整備するに当たっては、範囲、要件について、国際水準との整合性を可能な限り図るよう留意した内容とするとともに、新制度の運用を検証しつつ、制度の拡充も視野に検討を継続すること。
- 四 いわゆる弁護士・依頼者間秘匿特権について、事業者と弁護士との間の法的相談に係る法的意見等の秘密を実質的に保護できるよう、公正取引委員会における判別手続と審査手続を明確に遮断する等、適正手続を確保する制度を本法施行までに整備すること。
- 五 いわゆる弁護士・依頼者間秘匿特権に関する公正取引委員会における運用について、手続の透明性及び信頼性並びに事業者の予見可能性を確保するために、運用事例を定期的に公表するよう努めること。
【私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律案に対する附帯決議(参議院経済産業委員会・6月18日)】
政府は、本法施行に当たり、次の諸点について適切な措置を講ずべきである。
- 一 公正取引委員会による実態解明と一般消費者の利益、及び減免申請を行う事業者の予見可能性を確保する観点から、新たな課徴金減免制度における事業者が自主的に提出する証拠等の評価方法について、ガイドラインにおいてその明確化を図ること。特に、カルテル・入札談合の対象商品・役務、受注調整の方法、参加事業者、実施時期、実施状況等の評価対象となる情報について、評価方法の考え方や具体例を分かりやすく明示すること。また、制度の運用状況を検証しつつ、適時適切にガイドラインの見直しを行うこと。
-
二 新たな課徴金減免制度において、事業者の調査協力度合いに応じた減算率を適用するに際しては、より高い減算率を得ること等を目的として事実を歪曲した資料の提出や供述調書の作成により迅速な実態解明が阻害されることがないよう留意すること。
また、調査協力や供述内容等により、従業員が事業者から不当に不利益な取扱いを受けることのないよう、企業コンプライアンスの向上に対する支援を充実するなど、適切な対応を行うこと。 - 三 いわゆる弁護士・依頼者間秘匿特権に関して規則・ガイドライン等を整備するに当たっては、対象となる範囲、要件について、国際水準との整合性を可能な限り図るよう留意した内容とするとともに、新制度の運用を検証しつつ、その在り方の検討を継続すること。
-
四 秘匿特権について、事業者と弁護士との間の相談に係る法的意見等についての秘密を実質的に保護できるよう、公正取引委員会における判別手続と審査手続を明確に遮断する等、適正手続を確保する制度を本法施行までに整備すること。
また、手続の透明性、信頼性及び事業者の予見可能性を確保するため、秘匿特権に関する運用事例を定期的に公表するよう努めること。 - 五 経済活動のグローバル化や多様化、複雑化の進展を踏まえ、競争政策や競争法の国際調和を更に進めるとともに、国際市場分割カルテルなど、日本国内で売上額が生じない事業者に対する課徴金の賦課等についても、引き続き検討を行うこと。
- 六 デジタル・プラットフォーマーをめぐる取引環境に関するルール整備に当たっては、寡占・独占による弊害が生じないよう、イノベーションの促進と利用者の保護等に配慮しつつ、取引環境の透明性・公正性の確保、データの移転・開放等の在り方等に関する調査・検討を早急に進め、国際的にも整合性のある適切な競争環境を確立すること。
右決議する。
【事業者と弁護士との間で秘密に行われた通信の取扱いについて】(概要)
3 制度
- ⑴ 形式・法規範性
- ・ 独占禁止法第76条第1項の規定に基づく規則で主な項目を規定
- ・ 指針で細則を規定
- ⑵ 制度の対象となる手続
- ・ 不当な取引制限(独占禁止法第3条後段)に係る違反事件に関する行政調査手続
- ⑶ 制度の対象となる物件
-
・ 不当な取引制限(独占禁止法第3条後段)に関する法的意見について事業者と弁護士との間で秘密に行われた通信の内容を記載した物件
- <対象物件>
- - 事業者から弁護士への相談文書
- - 弁護士から事業者への回答文書
- - 弁護士が行った社内調査に基づく法的意見が記載された報告書
- - 弁護士が出席する社内会議でその弁護士との間で行われた法的意見についてのやり取りが記載された社内会議メモ 等
- <対象外物件>
- - 不当な取引制限(独占禁止法第3条後段)に関する法的意見について事業者と弁護士との間で秘密に行われた通信の基礎となる事実を示す資料(いわゆる一次資料・事実調査資料)
- - 独占禁止法の不当な取引制限以外の規定又は他法令に関する法的意見等の内容を記載した資料
- <要件>
- - 提出命令時に事業者が本制度の取扱いを求めること。
- -(文書の件名、保管場所、秘密性の維持等)適切な保管がされていること。
- - 事業者が本制度の取扱いを求める物件ごとに、当該物件の作成日時、作成者の氏名、共有者の氏名、属性(手紙、覚書、社内調査報告書、社内会議メモ等)、概要等を記載した文書を一定の期限内に提出すること。
- - 対象外物件が含まれていた場合は、公正取引委員会に当該物件の写しを提出するか、その内容を報告すること。
- - 違法な行為を目的としたものでないこと。
- ⑷ 法律専門家の範囲
- ・ 弁護士法の規定による弁護士であって、事業者から独立して法律事務を行うもの(事業者と雇用関係にないもの)
-
※ いわゆる社内弁護士、外国弁護士(外国法事務弁護士を含む。)については以下のとおり対応する(指針に明記)。
- - 社内弁護士について、違反事実の発覚等を契機として、雇用主である事業者からの指示により指揮命令監督下になく、独立して法律事務を行うことが明らかな場合には、法律専門家の範囲に含める。
- - 違反被疑事件と関連する国際カルテルについて、外国競争法の対応に係る事業者と外国弁護士との相談内容を記載した物件(前記(3)のいわゆる一次資料・事実調査資料を除く。)は、独占禁止法第47条に基づく提出命令の対象としない。
- ⑸ 判別手続(濫用防止措置)
-
・ 公正取引委員会による判別手続
- - 本制度の取扱いの求めがあった物件については、審査官は当該物件の提出を命じ、封を施し、判別官の管理の下に置く。
- - 判別官は、当該物件が本制度の対象としての条件を満たすか確認する。
- ⑹ 還付
- ・ 判別手続の結果、本制度の対象となることが確認された物件は速やかに還付する。ただし、判別官は、本制度の要件を満たすことが確認できなかった物件について、審査官の管理の下に移す。
- ⑺ 判別手続において秘密を確保するための措置
- ・ 提出命令時に封筒等に入れて封をする。
- ・ 官房(事件審査を行う部局とは異なる部局)に判別官を置く。
- ・ 判別官の下で対象物件を管理し、判別手続を行う。
- ⑻ 他の行政調査への影響を遮断するための措置
- ・ 違反行為が複数の事業者によって共同して秘密裡に行われ、その行為の存在をはっきり示すような物証が乏しい不当な取引制限(独占禁止法第3条後段)の行政調査手続において、新たな課徴金減免制度の下での事業者の自主的な調査協力が違反行為の発見・解明のために極めて重要であることを踏まえ、本制度は、新たな課徴金減免制度をより機能させるためのものとして位置付けられている。このような、不当な取引制限に固有の事情、本制度の趣旨に鑑みれば、本制度をそのまま他の行政調査に導入し得ないことは明らかであることから、他の行政調査への影響は生じないため、影響を遮断するための措置を規定する必要はない。
- ⑼ 本制度の利用有無と課徴金加減算との関係
- ・ 新たな課徴金減免制度の下で、本制度の利用の有無は調査協力の評価事項としない。
- ・ 本制度の濫用自体に対する新たな制裁措置は、設けない。本制度の濫用が検査妨害等の罪(独占禁止法第94条)等に該当する場合には、それぞれの規定が適用される。
- ⑽ 供述聴取過程における本制度の適用
- ・ 本制度の対象は物件とし、供述(審尋及び任意の供述聴取)には適用しない。
-
公取委、「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律」の成立について(6月19日)
https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2019/jun/190619_1.html -
○「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律」の成立について
https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2019/07/190619pressrelease.pdf -
○(別紙1)法律の概要
https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2019/07/190619besshi1.pdf -
○(別紙2)事業者と弁護士との間で秘密に行われた通信の取扱いについて
https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2019/07/190619besshi2.pdf -
○ 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(法律第45号)(6月26日)
http://mm.shojihomu.co.jp/c/b7i9abuBwadFiYbL
-
参考
SH2414 公取委、『私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律案』の閣議決定 松原崇弘(2019/03/20)
https://www.shojihomu-portal.jp/article?articleId=8481449