債権法改正後の民法の未来 74
追完権(3・完)
肥後橋法律事務所
弁護士 藤 田 増 夫
4 コメント(今後の参考になる議論)
(1) 改正民法562条1項但書
追完権については、改正民法の債権総論では明文化されなかったが、改正民法562条1項但書において、売主は、買主に不相当な負担を課すものでないときは買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる旨の規定が置かれた。かかる規定については、買主が追完請求をしていない場面や追完の要求をしているものの追完方法を指示していない場面でも妥当するものとみるべきであるとして、この限りで売主の追完権を定めたものということができる旨の指摘がなされている(潮見佳男『新債権総論Ⅰ』(信山社、2017)334頁)。そして、改正民法562条は、改正民法559条を介して有償契約全般に準用されており、債権の発生原因が有償契約である点(有償性)に基礎を置く規定ではないため、無償契約を含め、広く追完請求権一般に妥当する考え方がここに内包されているとみてよい(潮見・前掲334頁)との指摘もなされている。なお、改正民法562条1項但書については、例えば、買主から履行の追完請求権の行使として代替物の引渡しを求める訴訟を提起されたという事案においては、売主は適法に修補による履行の追完を選択したことを請求原因に対する権利消滅の抗弁として主張することができるものと解されている(筒井健夫=村松秀樹編著『一問一答民法(債権関係)改正』(商事法務、2018)277頁)。
改正民法562条1項但書について、今後、個別具体的な事案において、如何に解釈適用されるか注視していきたい。
(2) 将来的に追完権が新設される可能性等
上記審議経過を見ると、追完権の新設に消極的な見解においても債務者の追完利益を確保する必要性まで否定するものではなく、債務者の追完利益については、追完権を新設しなくとも、債権者の権利行使についての損害軽減義務及び信義則等による制限、催告解除における催告制度、解除に係る不履行の重大性の判断における債務者の追完可能性の考慮などにより確保することができる旨の指摘がなされていた。
したがって、改正民法の施行後においては、改正民法562条1項但書や債務不履行の要件に関する解釈適用のほか、上記催告制度等により、債務者の追完利益を確保できるのかを見極めていく必要がある。なお、追完に代わる損害賠償の要件について、追完を優先する解釈の可能性がある旨の指摘もなされているところである(潮見佳男ほか編『詳解 改正民法』(商事法務、2018)138頁)。
仮に上記催告制度等では債務者の追完利益を確保できないということが明らかになれば、将来的に追完権が新設される可能性は十分に存する。
ただし、その場合でも債務者の追完権が債権者の解除権に優先するように規律することには、極めて慎重でなければならないと思料する[1]。
以上