◇SH2659◇企業活力を生む経営管理システム―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―(第46回) 齋藤憲道(2019/07/11)

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企業活力を生む経営管理システム

―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―

同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー

齋 藤 憲 道

 

3.販売(役務提供を含む)、流通、クレーム・製品事故対応

(4) 製品事故・クレームに対応する

 製品事故・クレーム対応で、「その場しのぎ」は通用しない。

 市場で発生する製品の事故・クレームを未然に防ぎ、たとえ発生しても利用者が受ける被害を最小限に食い止めるためには、平時から、設計・製造段階で品質管理を徹底すると共に、顧客・消費者団体・行政等から寄せられる事故情報・クレームに即座に、かつ、適切に対応する体制を整える必要がある。

  1. (注) 記者会見等で社員が思わず口にした言葉が「事実と異なる」又は「被害者感情を逆撫でする」として、企業が窮地に陥った例は少なくない。

 次に、製品事故や利用者クレームに直面したときに営業で行う主な事項を示す。

 有事に突然対応するのは難しいので、平時に、商品・サービスに係る事故・クレーム対応の規程を制定して対応訓練やデータ・情報の活用を行うことが望まれる。

① 製品事故情報は、直ちに社内の関係部門で共有して、即時に、初動を開始する。

  1. 1) 営業に入った製品事故の第一報を、即時に、社内の関係部門に伝達する。
  2. ・ 営業と事業部門(品質管理・製造・技術等)の間で、即時に必要情報を共有して対応を協議する。
    (注) 通常、市場で発生した製品事故の第一報は営業に入る。
    ただし、一酸化炭素中毒・火災の場合は、管轄の警察・消防から企業に入る連絡が、営業宛になるとは限らない。(製品起因の疑いがある場合、その製品は、当局の手元で管理される。)
  3. ・ 日頃から、正確性・客観性・分類要素の妥当性等を確保して「製品安全関連の情報」を収集・保存することに努め、分析可能な社内データにして蓄積(全社一元化)することが重要である。
     
  4. 2) 初期対応で「すべきこと」
  5.  「自社の『商品が原因』かもしれない」と暫定的に考えることを基本にして、顧客・社会に対応する。
  6. ・ 顧客・社会に、適宜、被害の重大化・拡大を防ぐのに有用な情報を提供する。
    平時に、想定される事故毎に対応体制・責任者を明らかにし、マニュアルを作って、訓練する。
    生命・身体に危害を与える可能性がある重大・緊急な事故の場合は、それが製品起因と確認できていない段階でも危険の可能性を社会に公表して、製品の使用者にリスク回避を促す。
    被害拡大防止のための措置(例): 一般顧客への注意喚起、修理、リコール等
  7.   (参考) ガス・石油機器に関する事故報告があった場合は、製品欠陥による事故ではないことが完全に明白でない限り、事業者名・機種・型式名・事故内容等を消費者庁が経済産業省と協議して公表する[1]
  8. ・ 重大な案件では、初期対応の段階から経営幹部が関与する例が多い。

② 事故原因を解明する。

  1. 1) 事故原因を解明するため、日常的に、効果的なデータ・情報の収集・蓄積・分析等を行う。
  2. ・ 事故の現象から、事故の対象品を特定する。
    品番、生産時期(年月日)、製造ライン等を特定して絞り込む。
    これを可能にするための設計・材料・生産・販売の記録を、日常的に蓄積する。
    営業は、商品の保有者を可能な限り正確に把握する仕組み、及び、社会に危険回避を周知する仕組みを作る。
    (注) 独占禁止法[2]に抵触しない仕組みを考える。
    製造・設計は、問題商品を絞り込む仕組みを作る。
    例 効果的なロット管理、品番・製造時期(期間)・製造ライン・作業者・部品仕入等を絞り込む仕組み
  3. ・ 事故原因を解明する。
    原因が解明されない段階では、暫定措置を講じる。
    中立的な第三者の協力を得て原因究明することも多い。(特に、素材、医薬、ソフトウェア等の場合)
    解明され次第、恒久措置を行う。
  4. ・ 法令に従って、「当局に届け出」又は「公表」等する。
    (法令の例) 消費生活用製品安全法、医薬品医療機器等法、道路運送車両法、食品衛生法、建築基準法
     
  5. 2) 社内の事故関連情報の質・量が、官公庁・報道機関のそれを上回るよう、平時に準備する。
  6. ・ 官公庁は、所管の法令に基づく報告や職権調査で得る各種の関連情報を有する。
  7. ・ 報道機関は、自らの取材や企業の関係者からの投書等(公益通報を含む)に基づく情報を有する。
  8. ・ 企業が行う事実(原因分析の結果を含む)の公表が遅くなると、社会の追及を受けて釈明に追われる。
    (注) 対応が後手に回ると、被害者(消費者、取引先)に伝えたいことを、聞いて貰えなくなる。

③ 顧客のクレームに対応する。

  1. ・ クレームに対応するには、真偽を見極めることが重要である。
    「真のクレーム」は、次期商品・経営活動の改善点を指摘してくれる良いコンサルタントである。
    反社会的勢力等による「偽のクレーム」には、毅然と対処する。
    訴訟を恐れず、会社全体で(経営トップを含めて)対応窓口の担当者を支援することが重要。
    (注) 近年、録音・録画が容易にできるのを利用して、悪質クレーマーが、都合の良い部分だけを切り取ってネットに掲示することがある。この種の攻撃をされない工夫と訓練が要る。

④ リコールを行う。

  1. ・ 平時に「リコール規程」を定めて、運用する。
    「リコール基準」を役員・従業員に周知し、「重大事故対応訓練」を実施する。
    (早めのリコール開始が、ブランドイメージを守る。)
  2. ・ 当局に、法定の「リコールの届出・報告」を行う。
    「自主リコール」は、当局への届出が義務付けられる(当局は公表する)方向にある。
  3.   自動車のリコール制度
     (国に対して事前届出る義務) 1969年 省令施行、1995年 法律施行
     (国がリコールを命令する制度を導入) 2003年 法律施行
  4.   食品のリコール制度(届出を義務化)
     2018年 食品表示法改正 2018年 食品衛生法改正 両改正法は2021年迄に施行される。

⑤ 失敗経験を次に活かす。

  1. 1) 販売方法・説明方法を改善する。
  2. 2) 現行商品の設計や部品・材料を改善する。できれば、次期の商品企画に反映する。


[1] 消費生活用品安全法35条1項・2項(製造・輸入事業者に事故報告義務)、36条1項(消費者庁が重大事故等を迅速に公表)。なお、製品欠陥によって生じた事故ではないことが完全に明白な場合も、消費者庁が事故の概要を公表する。

[2] 例えば、不公正な取引方法(取引条件等の差別的取扱い、拘束条件付取引、優越的地位濫用等)の疑いを招かないようにする。

 

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