◇SH0664◇企業内弁護士の多様なあり方(第19回)-企業内弁護士の「待遇の決め方」(中) 片岡詳子(2016/05/18)

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企業内弁護士の多様なあり方(第19回)

-第7 企業内弁護士の「待遇の決め方」(中)-

ユー・エス・ジェイ法務部長

片 岡 詳 子

第7 企業内弁護士の「待遇の決め方」

2 ①一般の従業員(資格を持たない他の法務部員)と同じ社内規程に基づいて決定される について

 企業内弁護士の待遇が①一般の従業員と同じ社内規程に基づいて決定される場合、「一般の従業員と同じ社内規程」を、採用する企業内弁護士に「どのように当てはめるか」が問題となる。

 この点、上記のとおり、①は、国内の大企業に多く、これらの会社では、賃金規程・給与規程等の社内規程により、年功序列型の賃金体系が確立されており、原則として、大卒又は大学院卒の新卒での入社を想定し、社歴を積むことによって、職位と報酬が上がっていくようなモデルとなっている。

 かかる社内規程に企業内弁護士を当てはめる場合、当該企業内弁護士の「大学又は大学院卒業年次」を基準にする方法が採られることがある。即ち、当該企業内弁護士が大学又は大学院を卒業して新卒で入社したと仮定し、「当該企業内弁護士の同期の一般従業員が現に就いている職位と報酬」を基準として当てはめるのである。その当てはめの際、「同期の一般従業員」のうち、最も出世している者と同等の扱いをするか、平均的な者と同等の扱いをするか、両方ありえるが、前者である場合、上記①bの「一般の従業員と同じ社内規程に基づきつつ、昇進・昇給面で優遇がある」類型の一例ともいえる。

 卒業年次あるいはそれとほぼ連動する「年齢」と社歴が一致し、これにより社内の序列が保たれている日本型大企業の場合、他社からの転職者をこの方法で当てはめることが多いが、企業内弁護士が法律事務所等で経験を積んだ後中途採用で入社する場合も、年功序列が極端に乱れないように、かかる当てはめの方法が採られるのである。

 しかしながら、この方法によると、特に複数の企業内弁護士が採用されるようになった場合に不都合が生じる。例えばこの当てはめ方法によると、35歳の新人弁護士と30歳で5年の実務経験を有する弁護士を採用した場合、前者の弁護士の方が高い報酬への当てはめが行われることになる。どちらの弁護士の方が当該企業の求める人材か、といった個別問題はさておき、35歳の新人弁護士の方が30歳の経験弁護士よりも常に給与が高いというのは明らかにおかしい。ひとり目の企業内弁護士として採用された者にとっては、比較対象は、自分と経験やスキルが全く異なる一般の従業員であるから、「そんなものか」とまだ納得性があるが、複数の企業内弁護士間でかかる当てはめが行われると、企業内弁護士のモチベーションにも悪影響があるであろう。

 そこで、ある程度企業内弁護士が定着し、実績をあげ、複数の企業内弁護士が採用されるに至った企業において、上記のような不都合を回避するために、年齢や卒業年次ではなく、弁護士経験年数を指標とする独自のルールが制定される例もある。ただ、かかる段階に至っている企業は今のところ少数にとどまっている。

 なお、昨今増加している司法修習修了後直接企業に入社する弁護士の場合、端的に、「大学院卒」への当てはめが行われる例も多い。

 

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