インドネシア:商標法の改正
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 前 川 陽 一
従前の商標法(2001年第15号)(以下「旧商標法」という。)を全面的に改正する商標及び地理的表示に関する法律(2016年第20号)(以下「新商標法」という。)が制定され、2016年11月25日より施行されている。地理的表示については、旧商標法も一章を設けて若干の規定を置いていたが、新商標法はその法律名に明記するとともにより詳細な規定を置いた。インドネシア政府は、数年来、知的財産法制の見直しを進めており、2016年7月には特許法の改正も行われている(拙稿、SH0799 インドネシア:特許法の改正(2016/09/15)を参照されたい。)。
新商標法による改正のなかでも重要と思われるポイントについて以下に解説する。
まず、商標として登録可能な対象が拡張された。すなわち、旧商標法では、商標とは、図形、名称、語、文字、数字、色の構成又はこれらの構成要素の組合せからなる標識と定義されていたが、新商標法は、これらの伝統的な商標に加えて、立体的形状、音及びホログラムも商標として登録可能な対象に含めた。これら新しいタイプの商標出願に関する手続を整備するため、商標登録に関する法務人権大臣令2016年第67号が2017年1月30日より施行されている。
また、審査手続に大きな変更がなされた。旧商標法の下では、出願の後、方式審査(30営業日)から実体審査(9か月)を経て公告が行われ、公告期間(3か月)中に異議申立てがあった場合には再審査(2か月)を経た上で、商標局長の承認により商標登録がなされるという手続であった。新商標法では、出願日から方式審査を経て15営業日以内に公告を行うものとし、2か月の公告期間中に異議申立てがない場合には、公告期間の終了後30営業日以内に実体審査(150営業日)が開始する。異議申立てがあった場合には、出願人は異議申立書の送達から2か月以内に反論書を提出することができ、反論書の提出期限後30営業日以内に実体審査が開始する。つまり、新商標法は、公告を実体審査より前に実施することで、旧商標法における異議申立てに対する再審査に相当する手続を実体審査の中に取り込み、審査期間の短縮を狙っているわけである。旧商標法下では、出願件数の激増により審査が追いつかず、出願から2年以上経過しても登録がなされないことも珍しくなかった。このような審査手続の組替えが登録までの期間短縮を現実に達成することになるか注目される。
商標権侵害に対する罰金の額が、最高10億ルピア(約800万円)から20億ルピア(約1,600万円)に引き上げられた(但し、禁固の期間は最長5年で変わっていない。)。