企業活力を生む経営管理システム
―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―
同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー
齋 藤 憲 道
2. 経理の基準(規程等)
(1) 経理の業務
④ 資金管理(入出金、資金の調達・運用)
- ・ 金銭等(現金、銀行口座振替、手形・小切手等)の授受の記録(領収証、銀行の出金・入金・振込記録、納品書等)を、証拠として残す。
- ・ 手形用紙・小切手用紙(手形帳、小切手帳)、受取の手形・小切手、外国為替関係書類(L/C等)は、現金と同様に厳重に管理する。
- ・ 入金・出金を管理し、資金繰りを円滑に行う。債権者の請求額と債務者の要支払額を照合し、違算(金額の不一致)を解決した上で決済する。
-
・ 金銭の支払いは、その使途及び金額が適切であることを確認して行う。不正(外為法違反、資金洗浄、使途不明の支出・融資、利益相反取引、権限濫用等)の疑いがある支払いは、止める。
海外の子会社・取引先との間の輸出入代金支払・送金についても、外為法・関税法を厳格に守る。
マネーロンダリング(資金洗浄)やテロ資金供与を自ら行わないのは当然であり、他者の不正行為に巻き込まれるのも避ける。 -
〔犯罪収益移転防止法〕
金融機関・仮想通貨交換業者・宅地建物取引業者・宝石貴金属等取扱事業者、郵便物受取サービス業者等に、取引時確認(本人確認、取引目的等)、確認記録・取引記録の作成保存、疑わしい取引の行政庁届出[1]等が義務付けられている。
この届出情報は国家公安委員会・警察庁に通知され[2]、必要に応じて捜査機関等[3]に提供される。
外国取引に係る情報等は、必要に応じて、国家公安委員会・警察庁から外国のFIU[4]に提供され、国際的犯罪の解明に役立てられる。 - ・ 運転資金計画と固定資金計画を総合的に把握して、全社の経営計画の実現に必要な資金を調達する。
-
外部からの調達は、基本的に、負債(短期借入金、長期借入金、社債等)又は自己資本(新株発行等)の増加によって行う。
資金繰りが逼迫して行う資金調達に際して、会社の経営実態を隠すための粉飾決算がしばしば発見される。 - (注) 融資・出資する側は、調達側の経営計画の内容、返済の可能性、担保の状況、社長を含む経営幹部の経営姿勢等を総合的に判断して資金を提供する。融資者・出資者には、調達者が行う粉飾決算を見抜く力が必要とされる。
⑤ 決算書類(年次、半年、四半期、月次等)の作成
-
・ 自社の決算書類作成基準(会計要領)を定める。
法令・会計基準に準拠して自社の決算書類作成基準を定め、損益計算書・貸借対照表等を作成する社内体制を構築する。
この業務手順の中に、資産・収益の過大計上と、負債・費用の過少計上を避ける仕組みを組み込む。 - (注) 経理が処理する多くの伝票に、他部署から回付される「証憑」が添付される。当局が行う企業の不正・違法の調査・捜査においては、経理の帳票が重要な証拠になることが多い。近年、電子決裁システムを導入している企業が多いが、管理事項(添付すべき証憑等)は紙ベースと同じである。
[1] 金融庁、経済産業省、国土交通省、総務省、都道府県警察本部
[2] 国家公安委員会・警察庁が2018年に届出を受理した件数は41.7万件(うち、銀行等34.6、クレジットカード事業者1.5、信用金庫・信用協同組合1.4、金融商品取引業者1.3、貸金業者1.2)である。(「犯罪収益移転防止に関する年次報告書 2018年<平成30年>警察庁」より)
[3] 都道府県警察、検察庁、海上保安庁、麻薬取締部、税関、証券取引等監視委員会
[4] Financial Intelligence Unit(資金情報機関)の略称。日本のFIUは、2000年に金融監督庁(同年7月に金融庁に改組)に置かれたが、2007年の犯罪収益移転防止法施行に際して、国家公安委員会・警察庁にこの機能を移した。