冒頭規定の意義
―典型契約論―
冒頭規定の意義 -制裁と「合意による変更の可能性」-(14)
みずほ証券 法務部
浅 場 達 也
Ⅲ 冒頭規定と諸法
1. 諸法
(1) 贈与
ア 「冒頭規定の要件に則る」方向
贈与に関連する法律としては、贈与税を規定する相続税法がある。相続税法中に、「贈与」の定義は見当らず、民法の冒頭規定の定義をそのまま取り込んだものと考えられる。相続税法1条の4は、「贈与により財産を取得した個人」は、贈与税を納める義務があるとしており、これに関する制裁として、同法68条で「偽りその他不正の行為により相続税又は贈与税を免れた者は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」とする。冒頭規定の要件を変更した場合に、(変更の内容・程度にもよるが、)「偽りその他不正の行為」により贈与税の潜脱を図っていると課税当局にみられる可能性が生じうる。このため、契約書作成者としては、多くの場合(特に変更による利点・メリットが見当らない場合)、「冒頭規定の要件に則った契約書を作成する」という選択を行うだろう。そして、「冒頭規定(民法549条)の要件に則った契約」が相続税法上の「贈与」に該当することを、当事者の合意により変更・排除することは難しい。この結果、冒頭規定の内容を持ち、「贈与」の名を持つ契約書が多く作成されることになる。
イ 「冒頭規定の要件に則る選択を否定する」方向
当事者が「贈与」としていても、その形式が否定される場合はあるだろうか。現在のところ、当事者が「贈与」としている取引に対して、実体が別の「○○契約」であるとの理由で、「贈与」という形式が否定されることは、あまりみられない。これは、贈与税率が高率であるため、わざわざ他の実体をもつ取引を、「贈与」という形式とするインセンティブがこれまで少なかったことによるものと考えられる。
ただ、今後については、政策的に世代間の財産移転が贈与を通じて推進されていく方向がみられる中で、当事者間では2つの贈与という形の取引(いずれの取引も、「基礎控除」や「特別控除」により[1]、贈与税を低く抑えるような取引が例として考えられよう)が、実体面で例えば「1つの売買」と扱われ、贈与という形式が否定される可能性もありうるだろう。