◇SH2718◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(185)コンプライアンス経営のまとめ⑱ 岩倉秀雄(2019/08/09)

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コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(185)

―コンプライアンス経営のまとめ⑱―

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、日本ミルクコミュニティ(株)の設立と組織改革についてまとめた。

 日本ミルクコミュニティ(株)は、雪印乳業(株)グループの食中毒事件と牛肉偽装事件をきっかけに設立された市乳専門の乳業会社で、雪印乳業(株)の市乳事業、全酪連の乳業子会社であるジャパンミルクネット(株)の市乳事業、全農の乳業子会社の全国農協直販(株)の合併により設立され、株主は全農(40%)、雪印乳業(30%)、全酪連(20%)、農林中央金庫(10%)であった。

 3社はそれまで競争関係にあり、組織文化や意思決定プロセスの異なるそれぞれの組織が短期間に共同で事業推進体制を構築しなければならず、会社の設立準備には多大なエネルギーを要した。

 乳業界では、市乳事業は規模が大きいものの利益率が低いことから「儲からない事業」と言われており、業界の反応は新会社の失敗を予想する冷ややかなものだった。

 現実には、新会社は立ち上がりと共に情報システムと物流が大混乱し、1年も経ずに債務超過の危機に陥り、社長以下主要な役員が交代した。

 新経営陣は、構造改革プランを設定するとともに、合併会社特有の出身会社主を払拭するために、「実力主義と現場主義」の社長方針を掲げ、従業員満足度調査を度々実施し、不平等な人事制度を改め、チーム力強化の取組みを行った。

 その結果、同社は「出ない」と言われた利益を出し、計画よりも1年早く経営を軌道に乗せることができた。

 今回は、日本ミルクコミュニティ(株)の「チーム力強化の取組み」と経営の失敗と再建成功の要因についてまとめる。

 

【コンプライアンス経営のまとめ⑱:日本ミルクコミュニティ(株)の経営再建】

1. チーム力強化の取組み

 構造改革プランにより、ようやく単年度黒字化を実現した日本ミルクコミュニティ(株)が、組織力を高め黒字化を維持・強化するためには、組織文化が異なるが故に団結力が弱く経営効率が悪化しやすい合併会社の特性を認識し、従業員が互いに団結・連携して相乗効果を発揮する独自の組織風土を新たに作る必要性があり、2006年10月よりチーム力強化」の取組みを行った。

  1. (1) 目的
  2.   課、チーム、営業所の構成員の活動が最大限に発揮されるように、構成員・組織同士が十分に連携し相乗効果を生む独自の組織風土を作る。
     
  3. (2) 位置付け
  4.   チーム力強化は、組織活性化を図るための組織風土つくりであり、制度による組織活性化ではない。
     
  5. (3) 目指すチーム像

  1. 1. メグミルクの強いチーム像
  2.  「明るく楽しく元気の良いチーム」
     
  3. 2. こころえ
  4.   チームの使命・役割を理解し自己の任務を責任をもって遂行するとともに、チームの目標を達成するために互いに協力・支援している。
     
  5. 3. コミュニケーション
  6.   チームのコミュニケーションが良く、必要な情報を共有化しており、気軽に相談や意見交換している。
     
  7. 4. モチベーション
  8.   一人一人のモチベーションが高く、目標達成に積極的、挑戦的に取組もうとする意欲にあふれ、自主的、自律的に実践している。
     
  9. 5. 人材育成
  10.   業務を通じて能力を高め合い、個性的で人間力あふれる人財を育てている。

  1. (4) 推進体制と施策
  2. ① 推進体制
    推進事務局は、本社要員管理部署
  3. ② 施策

    1. ・ 人事評価に、「チームへの貢献」項目を設け、チーム貢献の高い者の評価を1ランク上にする。
    2. ・ 業務外のコミュニケーション活動後の懇親会に、会社が費用を補助する。
    3. ・ チーム力強化に資するアイディアを募集し、全社に案内する。
    4. ・ コーチングの人事研修を実施する。
    5. ・ 大学の公開講座、通信教育の受講を補助するとともに、大学とタイアップして寄付講座「マネジメントのための組織行動論」を開設する。
  4. ③ 検証と改善
    チーム力強化の取組みによる従業員の意識や組織風土の変化に関する調査を継続的に実施し、組織や人事制度の更なる改善に役立てる。

 

2. 経営の失敗と再建成功の要因

  1. (1) 統合時の失敗要因
  2. ① 設立準備期間が短か過ぎた
  3.   システムへの習熟不足、商品知識不足、業務習熟訓練期間不足、関連業者への周知徹底不足、経営管理手法不慣れ等
  4. ② たすき掛け人事の弊害

    1. ・ 役 員:数が多く縦割りのため、他社出身役員に遠慮してガバナンスが弱い。
    2. ・ 管理職:会社として経営管理手法が確立しておらず、管理職個人のリーダーシップに頼るので、一貫性が無く部下が混乱し不満を抱いた。
    3. ・ 一般職:慣れた仕組みを活用する者が優遇され、他は冷遇されやすい。主流以外の出身者は肩身が狭くストレスが多い。
  5. ③ 出身会社主義
  6.   組織文化の違いがあらゆる場面で顔を出すとともに、出身会社主義の給与体系が不公平感を生みモチベーションを下げた。人事評価は、慣れた業務管理システムを扱う者が有利になりやすかった。
  7. ④ 経営管理手法の違い
  8.   本社が文書で命令し現場を従わせる本社中心の管理手法と顧客に接する現場の意見を重視し権限委譲を認める現場主義の管理手法が衝突した。
  9. ⑤ 中途半端な絞り込み
  10.   各社の事情を考慮して取扱アイテム・取引先・物流ルート・営業拠点・工場の絞り込みが不十分だったので、経費増を招いた。
     
  11. (2) 構造改革プランの成功要因
  12.   構造改革プランは、退陣した経営陣が策定し交代した新経営陣に残した課題であった。
  13. ① 経営方針を明示し現場に浸透させた
  14.  実力主義と現場主義」を表明し、メディアに発信するとともに、社長の経営方針として各職場に掲示し所属長からの説明を徹底した。
  15. ② 経営者が全国の現場に出向き説明
  16.   経営者は、方針と構造改革プランを現場に出向いて説明し、経営と現場の一体感を強化した。
  17. ③ 人事制度の改革

    1. ・ 給与体系の改革:出身会社主義の調整給を撤廃、同一職位・同一賃金とした。
    2. ・ 評価制度の改革;目標管理による業績評価+チーム貢献への評価
  18. ④ 構造改革プランの実施

    1. ・ 生産・物流体制の再構築:売上規模に見合う工場の再編・統合(青森工場の閉鎖と狭山工場の売却)
    2. ・ 物流・営業拠点の閉鎖:(合計63→48)
    3. ・ 不採算アイテムの整理:(1,914→800)と内製化
    4. ・ 中期営業政策の確立:重点チャネルと縮小・撤退チャネルの選別、チャネル戦略と連動した重点カテゴリー・商品戦略の構築、商品構成及び宣伝促進費の適正化
    5. ・ コストダウン:退職者不補充による総員340名削減、資材費・物流費・管理費等あらゆるコストの見直し・削減、収支管理の徹底
  19. ⑤「チーム力強化」の取組み
  20.   上述の通り。
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